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アフガニスタン経済 メルトダウンの恐れ

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【経済着眼】タリバン政権は国外からの支援をつなぎとめられるか

公開日: 2021/09/08 (ワールド)

【経済着眼】タリバン政権は国外からの支援をつなぎとめられるか

俵 一郎 (国際金融専門家)

 アフガニスタンでは、2001年の9.11の主犯であるウサマ・ビンラディンを匿ったとして米国、NATOが中心になってテロ集団撲滅を目指した戦争が続けられてきた。しかし、8月下旬には首都カブールもタリバンの手によって陥落、20年に及ぶ米国の実質支配が終わりを告げてタリバンが政権に復した。

 この20年間、米国が1兆ドル、欧州、日本さらには国際金融機関がアフガン経済の支援を続けた。このため、アフガンの生活水準は、健康管理、教育、平均寿命、幼児死亡率などの指標から見で大幅に改善した。一方で公務員らへの賄賂が必要悪となっているような大規模な汚職が改まったわけではない。

 アフガン経済は、2010年代前半までの二けた成長によって著しく改善した。しかし過去10年間は国際的な経済支援の落ち込みによって停滞を余儀なくされた。世銀によると、アフガンに対する対外支援の規模(対GDP比)は2009年の100%から2020年には42.9%に落ち込み、サービス部門を中心に経済活動は停滞を余儀なくされた。

 アフガンは2020年で10億ドルの輸出を行っている。内容的にはグレープなどの農産物が中心であるが、サービス部門の拡大に伴い、農業の重要性は以前と比べて落ちている。

 アフガンの公式データには当然のことながら輸出にもGDP統計にも麻薬が含まれていない。専門家によればアフガン経済の80%が麻薬取引や希少金属の不法採掘などのインフォーマル経済で構成されている。

 アフガン国民の生活水準が劇的に改善した状況をみていこう。基礎的な教育施設が全国に拡がり、死亡率は大きく低下した。例えば、5歳以下の乳幼児の死亡率は1,000人あたりで60人と2001年と比べると半分以下となった。これは、すべての低所得国の中で最も顕著な改善となった。下水設備の普及率も全人口の1/4から1/2へと急増、感染病などのリスク軽減が図られた。こうした結果、アフガン国民は20年前に比べて10年近く寿命が延びた。

 教育上の成果も大きく向上した。2001年における児童・生徒数は820万人に過ぎなかったが、いまや、中等教育を受ける生徒数は全体の12%から2018年には55%に大幅増加した。

 女性についても教育を受ける対象人口は増加し、未成年の妊娠率も大幅に低下した。また多くの女性が職業に就くようになった。昨年、議員の1/4、公務員の1/5は女性で占められていた。

 ただ注意しなくてはいけないのはアフガンが引き続き世界で最も脆弱な経済のひとつであることだ。またアフガンほど、ビジネスに敵対的で汚職賄賂が日常化している国家はない。国連のレポートによると、2010年に賄賂として政府職員等に配られた金額は25億ドルと当時のGDPの1/4に相当する巨額であった。

 2020年の国際的な腐敗認識指数では180か国中165位となっている。これでも2012年に比べれば10位以上も順位を上げている。世銀のビジネスサーベイでも治安の悪化、腐敗汚職の蔓延、インフラの未整備等からアフガンはビジネスを行う地として190か国中173位という劣悪な水準となっている。

 また2001年から20年間で改善したとはいえ、平均寿命は世界平均を5年下回り、全人口の半分がなお貧困ライン(一日1.9ドル以下の収入)を下回っている。個人の自由の保護、健康水準、公的組織に対する信頼性など各種指標でもアフガンは世界最低の部類に属している。

 もし、タリバンが過去20年の間で改善した生活水準を維持することに関心を見せなければ致命的な経済悪化をもたらそう。

 アフガン経済の現状を見ると、タリバンの支配が強まり、アフガン人は金融的な行き詰まりや飢餓の広がりなどの経済的なメルトダウンに直面している。

 まず、日用品、食料品などを中心に驚くべき物価の高騰に見舞われている。大規模な干ばつ被害により小麦などの穀物の供給不足が食料品の価格上昇をさらにあおっている。国連によれば総人口の1/3にあたる1,400万人が飢餓に直面しそうである。アフガンは山岳地帯で冬の天候の厳しさで知られており、あと数か月で食料品、医療不足に起因する死者が増えそうである。

 米国、欧州、日本などの援助国やIMF、世銀など国際金融機関がアフガンへの援助、融資を停止している。先に見た通り、アフガンでは外国からの援助がGDPの40%以上を占めている。しかし、米国の制裁で中央銀行の外貨準備(90億ドル)も凍結されている。コロナ対策としてIMFが打ち出した各国のSDR(特別引き出し権)の引き出しも停止されている。外貨不足ならびに政府の運営資金は枯渇している。

 さらに公務員を含めて給与の支払い停止が何カ月も続いている。多くの人が銀行の窓口やATMで現金の引き出しを行うため長い列をなしている。しかし、銀行業務も多くは停止しており、国民のフラストレーションが高まっている。

 シリア、レバノンなど同じような目にあった国の事例に照らせば、2~3年程度、アフガンのGDPが毎年10~20%低下してもおかしくはない。ハイパーインフレが到来するかもしれない。まず通貨が信用力の低下から大きく減価するであろう。

 アフガン経済が立ち行くためには、タリバンと他の諸国との関係にかかっている。パキスタン、イランなどの友好国のみならず欧米諸国が国境を越えた交易や国際的支援を再開してくれるかどうかにかかっている。

 イスラム主義者はカルザイ元首相などと多様化した内閣構成や経済専門家の招聘を企図しているように見える。もっとも、中央銀行総裁代行に経済政策とは全く無縁であった闘士のイドリス氏を就けるなど、イデオロギーを専門性より重視する傾向がすでに見え始めているのは懸念材料である。

 1990年代に政権に就いた頃と比較してタリバンが穏健なイメージを打ち出そうと努力している姿はうかがえる。当時は女性に対する圧迫、報復的な野蛮な殺人を繰り返していた。果たしてタリバンが前政権の下で働いた公務員、軍隊に対して報復的な仕打ちをしない、女性の働きの場を奪わない、などで内外に信任を得られるか、がアフガン経済を維持できるかどうかの鍵となろう。
 
 アフガン経済の成長の潜在的な原動力となるのは豊富な希少金属(リチウム、パラジウム、ベリリウム、コバルトなど)であろう。とくにリチウムの埋蔵量は「リチウムのサウジアラビア」と呼ばれるほど豊富である。

 その埋蔵価値は1兆ドルとも言われているが、こうした希少金属は多くが地下に眠ったままになっている。多くが不法採掘で海外に売られているようだ。鉱物資源の獲得に熱心な中国がアフガンで大規模な開発にいたるかどうか。新疆ウイグルでイスラム教徒を迫害している中国をタリバンがどう見るか、という問題もあろう。

 タリバンは現在、税収として車、燃料やたばこなど財への課税、農産物収穫に対する1/10税や可処分所得の2.5%にあたる課税、イランからの原油輸入にかかる収入(年間3,000万ドル)など合法的な課税を財源としている、と公式には発表している。しかし、この程度ではとても米軍撤退後の国家運営を充足するには不十分とみられている。

 世界が注目しているのは資金難に陥ったタリバンが世界的にもトップクラスの量を誇る麻薬取引に手を染めるのではないか、と懸念されていることだ。覚醒剤のメタンフェタミンの製造やアヘン製造は有力な財源となり得る。

 アフガンの中央部の高地で栽培されている麻黄(あおう)はメタンフェタミンの製造に多く使われるようになっている。またアフガンは世界最大のアヘン製造の地である。米国が中心になって90億ドルを使って反麻薬運動が展開されたが大きな効果はなかった。

 ケシ栽培もこの20年で増大して、国連の調査によると2020年には前年比37%の著増を見た。タリバン自身が麻薬の交易に絡んでいるという証拠はない。タリバンも麻薬取引は慎んでいると目下のところ公式には表明している。

 タリバンがアフガン一国全体を制御する経験は初めてのことだ。アフガン経済を維持するには先ほどから強調しているように外国からの援助が不可欠である。しかし、タリバンは援助国ないし援助団体と協同するにはイスラム主義に固まっていて不向きであるとみなされている。

 米国は予想外のタリバン支配に困惑を強めている。米国とタリバンは、ソ連のアフガン侵攻時には良好な関係を持っていたが、今や米国はカブール陥落で味わった屈辱を晴らす報復政策も辞さないようにうかがえる。

 この間隙を縫って中国やロシアがアフガンに接近している。タリバンがアフガン経済のメルトダウンを抑えられなければ、大量の餓死者や難民を生み、再び南西アジアの武器庫になる恐れが強い。
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