南アフリカはかつてBRICsの一角(小文字のSがSouth Africa)を占める高成長国で金、ダイヤモンドなどの資源も豊富なうえ、高金利通貨でもあったため、多くの機関投資家や個人投資家がランド建て国債などに投資してきた。
日本でも南ア国債は個人投資家にとってインド、トルコなどと並ぶ人気を博してきた。
しかし、ムーディーズ社が今年3月にランド建て国債の格付けを引き下げたため、世界的な格付け大手3社すべてが同債を投資不適格とすることで足並みがそろった。このニュースを受けて同国通貨ランドは一時、年初来3割の大幅下
落をつけた。
南ア国債が投資不適格となったのは、3期連続のマイナス成長、高失業の持続などの経済低迷の長期化が主因だ(後述)。ただ、政治情勢の不安定化も年々拡大してきていることも南アへの信頼性を貶(おとし)めてきた。
アパルトヘイト政策撤廃で国民的英雄となったネルソン・マンデラ氏の右腕であったズマ前大統領が汚職疑惑から辞任に追い込まれた。汚職撲滅の動きは緩慢であり、さらに貧困層の減少、高失業の是正も掛け声倒れとなっており、マンデラが率いて第一回選挙以来、一貫して与党の座にあるアフリカ民族会議(ANC)に対する失望も深まっている。
南ア経済は新型コロナ以前から深刻な経済危機に見舞われていた。長いスパンでみれば2013年以降、一人あたりGDPは趨勢的な下落を続けており、長期の景気停滞局面に入ったといってよい。最近でも20年1~3月まで3期連続でマイナス成長が続いている。
19年7~9月が前期比-0.8%、10~12月が同-1.4%、20年1~3月が同-2.0%となった。国営電力会社(シェア9割超)の経営悪化から深刻な電力供給不足が続き、計画停電が頻発して企業活動に大きな打撃を与え続けてきたことなどが響いている。
新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、3月15日にラマポーザ大統領は国家災害事態を宣言し、さらに3月26日には世界でも最も長期にわたり、かつ国内全域を対象とするという最も厳しいロックダウン実施を発表した。
しかし、ロックダウンが経済に与える影響が深刻になってきたため、4月下旬以降、段階的なロックダウン緩和を行ってきた。南ア中銀も政府に歩調を合わせて20年入り後、累計2.5%の利下げを実施しており、現在の政策金利は3.75%と過去最低水準にある。
ロックダウンの段階的緩和が始まって、感染者数は高止まりを続け、7月23~25日には1日当たり13,000人を越える新規感染者が出ていた。しかし、1万人を超える感染者数は8月1日を最後として出ていない。
こうした中、8月17日には、国内移動の自由化、レストラン・バーでの店内飲食も認められた。現在の新型コロナウィルスの感染状況をみると、アフリカ最大の感染者数(累積で62万人)、死者数(同13,700人)を記録しており、とくに医療体制が依然としてひっ迫していると伝えられている。
ロックダウンの影響に加えて、30%を超す高失業率(20年1~3月 30.1%、特に若手は)もあって消費支出が伸び悩み、一人当たり消費はマイナス(つまり人口増加率を総消費が下回る)となって久しい。設備投資も電力不足やラマポーザ政権に対する与党内での政争激化などの政治情勢の不安定化、などから20年1~3月の前年比が約-30%となった。
輸出もEUや中国など主要貿易相手の景気停滞から減少を続けている。IMFによると、南アの今年の実質成長率は
-7.5%と1930年代の大恐慌以来最大の落ち込みとなる見通しだ。
南アは7月27日にIMFから43億ドルの大型ローン(期間5年、金利1.1%)を借り入れた。南ア政府は新型コロナ対策として、中小企業に対する融資保証などを含む総額5,000億ランド(GDP比10%)の支援策を決定したが、その一部として使われる。
本ローンを含めて世銀、アフリカ開銀等とあわせて総額70億ドルの対外調達を行う計画としている。
南ア経済にとって最大の課題は財政健全化である。しかしながら、低成長の長期化に伴う税収の減少や国営の電力会社や南アフリカ航空など業績不振の国営企業に対する財政支援、さらには上記の新型コロナ感染対策としての大規模支出も加わって健全化への道は一段と遠ざかっている。
IMFによると、本年度の財政赤字はGDP比16%に達して総債務/GDP比は18%悪化して87%と既往ピークを更新する見通しである。
南ア政府はIMFへ43億ドルの支援を申し入れたが、IMFにとっても最大の関心は財政赤字の削減にある。IMFは政府による構造改革政策実施のコミットメント、公務員給与の削減、債務上限枠の設定を迫っている。しかし、政治的に不人気な構造改革、公務員の待遇悪化策の実施は容易ではない。
南ア経済の再生は相当な難工事であると言えよう。こうなると、通常、新興国では対外債務のデフォルトが懸念されるところである。南アもランド建て債務が845億ドル、外貨建て債務が932億ドル(ともに19年9月末)と両者合わせてGDP比50%程度となる。
もっとも、同国は財政収支に加えて経常収支も赤字の「双子の赤字」に直面しているとはいえ、外貨建て債務残高のGDP比は相対的に少なく、かつ外貨建て債務の償還スケジュールからみて支払い遅延を起こす懸念は少ない。むしろ、失業者、貧困層を中心に経済悪化や汚職蔓延で政治に対する不満が高まって政権が転覆されるような国内の政治経済の不安定化が当面の不安材料であろう。