5月6日、労働組合や学生などが食品、燃料、医薬品などの絶対的不足の中でゴタバヤ・ラージャパクサ大統領の交代を求めて数百万人規模のデモが起きた。同大統領は公共の秩序を確保する狙いから直ちに非常事態宣言を発令した。国民の声を圧殺する同政権に対しては、スリランカ米国大使が強い懸念を表明するなど国際的に批判の声が起きている。
スリランカ政府は4月12日に対外債務の支払いを一時停止すると発表した。格付け機関のS&Pではすでに利払いが滞ったこの時点で「選択的デフォルト」を宣言していた。それから30日間の猶予期間(グレースピリオド)を過ぎた5月11日になっても利払いがなく、ついに正式にデフォルトと認定されるに至った。
今回のデフォルトは、2023年と2028年に満期が到来する各々12.5億ドルの債券の利払いが滞ったために起きた。スリランカがデフォルトを起こしたのは初めてのことである。なお、今世紀に入ってアジア諸国の中でこれが初のデフォルトとなった。ちなみにアジア諸国で最後にデフォルトしたのは1999年のパキスタンである。
ゴタバヤ・ラージャパクサ大統領は先月、スリランカは燃料や食糧、医薬品など喫緊の輸入品を決済するために外貨準備を減らすことはできない、としてデフォルトに陥ることを半ば予告していた。
スリランカの対外債務残高は510億ドルに達しており、国際機関のほか、中国、日本などとの二国間債務で構成されている。ウィ―ラシンハ中銀総裁もデフォルトに陥ったことを認めるとともに、債務の再編(返済期間の延長、元利払いの削減など)なくして返済は不可能である、とありのままに窮状を訴えていた。
市場アナリストは、世界的な金利上昇、エネルギー価格の高騰ならびにインフレ率の上昇はスリランカのような輸入依存度の高い国にとっては債務返済の圧力が急激に高まらざるを得なかったものと指摘している。
スリランカで2009年に少数民族であるタミール族との激しい民族紛争がようやく終焉した。それ以降、スリランカの政治を支配してきたラージャパクサ一族(大統領、首相、財務省ポストを一時、独占)によって道路、港湾、発電所などのインフラ投資主導の経済政策を採ってきた。その開発資金を海外からの調達に頼って当初は順調な経済成長を実現した。ちなみにスリランカはアジア最大の高利回り債(ハイイールド・ボンド)の発行国であり、国際的な投資家の注目を集めてきた。
しかし、最近では所得減税など人気取りの財政政策、外貨対策としての化学肥料の輸入禁止(21年5月に導入、半年で撤回)などの施策に加えて、新型コロナの感染拡大で海外からの観光客の客足が途絶えて対外債務の返済に支障をきたすようになった。
経済危機、国際収支危機の下で、スリランカの国民は大きな苦痛に直面してきた。燃料の入手難から石油スタンドに長蛇の列を余儀なくされたほか、大規模な停電にも見舞われた。また通貨も暴落してインフレ率が一段と高騰した。政権を握ってきたラージャパクサ一族への反感が募ってきたのも当然のことである。

ラジャパクサ・ スリランカ大統領=防衛省提供
スリランカ政府はIMFとの間で融資交渉を開始している。しかし、国民に不人気な財政緊縮を要請するIMFとの交渉は難航が予想される。市場では7月に満期到来となるスリランカ政府債の価格が発行価格1ドルに対して45セントといった低い価格を付けているのも交渉難航を予想しているからだ。
IMFとの交渉が決着するまでの資金繰りを中国やインドに頼るべきだ、との声はスリランカ国内で少なくない。とくに中国の「一帯一路」構想に対してスリランカは熱烈な支持者であった。また中国は最大の投資国でもある。一方で中国国営企業が天然の良港であるハンバントタ港の運営権を99年間にわたって取得しており、中国の軍港化をおそれる声も絶えない。それでも中国頼みのマインドからはなかなか抜けきれない。
インドも地理的にもスリランカとは近く、歴史的にも親密である。中国が台頭する中でインド洋周辺での安全保障上の影響力を守りたいと必死である。日本もスリランカとの外交関係を樹立して今年で70周年になる。
バイデン大統領の来日に合わせて日米豪印によるクアッド首脳会議が東京で開催された。インド洋の安全保障上の位置づけは日増しに重要になっている。日本としてもインド洋における安全保障上の重要性を強めるスリランカの政治、経済情勢に関心を払うべきであろう。