去年3月に就任したフランシスコ法王(77)はアルゼンチンで生まれ、南北アメリカ大陸出身としては初のローマ法王です。こうした出自が大いに注目を集めた法王の就任1年半の活動は革新的なものでした。ともすれば保守的になりがちな、カトリック教会の改革を進めています。
たとえば、法王就任以前から、イスラム教徒やユダヤ教徒と活発に交流してきました。今年9月のアルバニア訪問の際は、宗教による暴力を非難し、暗にイスラム国への不参加を訴えかけました。過激派に対して批判的な態度を取る一方で、宗教間の対話を呼びかけています。今年5月には、イスラム教の聖地「岩のドーム」と、ユダヤ教の聖地「嘆きの壁」を自ら訪問し、各宗教の指導者と面会しました。
ツイッターやフェイスブックを使用、遠方の人にもテクノロジーを使ってメッセージを届けていることも新鮮な印象を与えています。
私生活では清貧な人として知られます。法王に就任する以前は、アルゼンチンの貧困問題に取り組み、枢機卿や大司教でありながら質素な暮らしを送っていました。邸宅への居住やリムジンの使用を拒否、アパートで自炊し、バスを利用していたそうです。
法王就任後も移動に使っているのはフォード・フォーカスという小型車です。「高級車を購入する前に、世界でどれだけの子だもたちが餓死しているか考えてほしい」と教会関係者に呼びかけました。法王名のフランシスコは清貧で知られるアッシジの聖フランチェスコにちなんだものです。
今回、ローマ法王庁が同性愛者に対して包容政策へと舵を切ろうとした背景には、現法王の強い意向があるとされています。
今月5日から2週間にわたり行われていた「世界代表司教会議(シノドス)」臨時総会は、家族問題をテーマにしていました。13日に発表された中間報告は、「同性愛者を歓迎」や「同性愛者にもキリスト教社会に貢献できる才能と資質がある」と表現し、カトリック教会が同性愛者に歩み寄りを見せたとして注目されました。法王はあえて中間報告を公表することで自らの意向を事前に示し、最終報告に影響力を行使しようとしたとの見方もあります。
しかし、過半数の賛成はあったものの、議決に必要な3分の2の同意を得ることはできませんでした。18日の最終報告書は中間報告の文言を削除し、「同性愛者への配慮を求める」と表現するにとどまりました。また、婚姻は男女の間で行われるべきものであるというもローマ法王庁の認識も改めて明示されました。
最終報告から一夜明けた19日。フランシスコ・ローマ法王は「神は新しいことを恐れていない。神はどれほど新しいということを愛しているでしょうか」とミサで語りかけました。同性愛に対するシノドスの結果に満足していないことを訴えたと受け止められています。
これまでに、同性愛者のキリスト教徒を裁くことはできないと発言し、同性間カップルに結婚した男女と同等の法的権利を認めるシビル・ユニオン制を支持しています。同性愛自体を否定した先代のベネディクト16世と比較すると、かなり寛容な立場と言えるでしょう。同性愛者たちからも賞賛され、昨年、米国の性的少数者向け雑誌「アドボケート」のパーソン・オブ・ザ・イヤーにも選ばれています。
とは言え、法王は「男女間の婚姻が本来の形」という立場を崩してはいません。妊娠中絶にも反対の立場です。法王就任前の2010年にアルゼンチンで同性婚が合法化された際は、「神の計画に対する破壊的攻撃」だと強く非難、同国のキルチネル大統領と対立しました。また、法王就任後の2013年6月にも、フランスにおける同性婚合法化について、「一時的な流行や思いつきで」法律を定めてはならないと発言しています。
同性愛自体や、シビル・ユニオン制は認めつつも、カトリック教会において「神との契約」と捉えられている結婚を同性カップルにまで認める考えは、今のところないようです。ただ、法王就任直後には婚外子の洗礼を拒否する聖職者がいることを指弾し、今年1月には未婚の両親の間に生まれた子供に自ら洗礼を行っています。家族の問題に取り組んでいこうという姿勢は一貫しているようです。