北朝鮮は7日、事実上のミサイル発射実験を実施した。これを受けて同日、安倍首相は「今回のミサイル発射は断じて容認できない。核実験に続き、明白な国連決議違反である」と語った。
首相が「違反」と指摘する「安保理決議」とは一体どういったものなのだろうか。
外務省によると今回北朝鮮によって、違反されたとするのは、下表1の4つの決議の条項である。
国連の安保理が初めて、北朝鮮に核開発・弾道ミサイル発射計画の活動の停止を要求したのは、2006年7月15日(日本:小泉首相、米国:ブッシュ大統領、北朝鮮:金正日総書記時代)に議決した安保理決議1695号である。この時期から北朝鮮によるいわゆる瀬戸際外交が、際立ってきている。
この決議は、同年7月5日に発射されたテポドン2など7発のミサイル発射を受けて採択されたものだ。ここでは第2項に「北朝鮮が、弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を停止<中略>することを要求する」、第6項に「北朝鮮が、すべての核兵器及び既存の核の計画を<中略>放棄すること」と明記された。
しかし、この要求が守られることはなかった。わずか3ヵ月後の同年10月9日、北朝鮮によって第一回目の核実験が行われたのだ。これが最初の安保理違反行為である。
国連は11月6日に再び非難決議を採択した。採択された1718号第5項(下表1参照)では「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を停止」するよう要求する文言が追加された。また、前回の1695号に違反したことにより、ペナルティとして、北朝鮮は初の経済制裁を受けることとなった。
3年後の2009年5月25日(日本:麻生首相、米国:オバマ大統領、北朝鮮:金正日総書記)、北朝鮮による2度目の核実験が行われた。これを受け、6月12日に採決された1874号3項(下表2参照)では再び「北朝鮮が、弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を停止し」という文言が明記された。また、第2項では前回「弾道ミサイルの発射も-」といった文言から「ミサイル技術を使用した発射も-」といった言葉が追加され、北朝鮮が主張するロケットによる「人工衛星の打ち上げ」も明確に禁止することとなった。
その4年後の2013年12月12日(日本:安倍首相、米国:オバマ大統領、北朝鮮:金正恩第一書記)、今度は弾道ミサイルの発射が行われた。これを受け1月22日の安保理決議2087号では、3項(下表3参照)で「北朝鮮に対し,すべての核兵器及び既存の核計画を,完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な方法で放棄すること,関連するすべての活動を直ちに停止すること及び弾道ミサイル技術を使用したいかなる発射,核実験又はいかなる挑発もこれ以上実施しないことを含む<中略>ことを要求する」と決議を踏襲した文言が加えられた。また、この機会に制裁強化の措置が取られた。
その翌月、2月12日に行われた3度目の核実験に対し、3月7に行われた日安保理決議2094号(下表4参照)が決議された。ここでは「北朝鮮が、理事会の関連する決議に違反し、甚だしく無視して、2013年2月12日(現地時間)に実施した核実験を最も強い表現で非難する」という強い文言で始まっている。
また第2項で「弾道ミサイル技術を使用したいかなる発射、核実験又はいかなるその他の挑発もこれ以上実施すべきでないことを決定する」とこれまでの要求と異なり、「Demands:要求」→「Decides:決定」へと文言がより厳しいものとなっている。
そして、2年が経って今回の一件だ。8日未明、安全保障理事会は日本・米国・韓国の要請を受け、緊急の会合が非公開で行われた。1時間半の会合の後、議長国のベネズエラのラミレス国連大使が、これまでの安保理決議を踏まえ「北朝鮮による弾道ミサイルの技術を使った発射は、たとえ人工衛星の打ち上げだと主張しても、核兵器の運搬技術の開発につながるもので、安保理決議に違反し、強く非難する」と報道声明が出された。
一方、北朝鮮は今回の「事実上のミサイル発射」を「人工衛星の打ち上げ」と主張している。実際人工衛星らしき物体が、軌道に乗ったことが確認されている。日本も含め人工衛星の打ち上げを行っている国は数多い。その中で北朝鮮が主張する「人工衛星」はなぜ安保理違反とされるのか。
これは、2006年の1718号以降の安保理決議で、ミサイル・ロケットの発射、発射計画自体が禁止されていることが挙げられる。再三の国際社会の警告を無視し続け核実験を行ったため、北朝鮮だけが明記されたものだ。人工衛星打ち上げのロケットと、核弾頭を搭載したミサイルの技術はほぼ同じものとされている。そのため日本のメディアでも「事実上の長距離弾道ミサイル」と呼ばれるのだ。
北朝鮮のこういった安保理決議違反行為は、これまで北朝鮮への制裁に慎重であった中国の態度も変化させている。今回の動きを受け、7日、中国外務省の華春瑩(か・しゅんえい)副報道局長は、「国際社会の幅広い反対を顧みずに弾道ミサイル技術をもって発射したことは遺憾だ」と述べている。日本時間8日午前1時に行われた会合には、中国の代表も姿を見せ報道声明に加わった。日米は、中国を待たずして独自の制裁を行おうとしているが、北朝鮮の封じ込め政策には、日米だけでなく中国の協力が不可欠だけに、中国がどこまで厳しい姿勢に転じるかが最大の注目点だ。その舞台は安保理であり、どんな決議を採択できるかに、それが表れてくるだろう。
下表1(※「安保理決議」「○○号」と検索していただければ、決議全文が見られます。)
①安保理決議1718号第5項(2006年11月6日採択)
「北朝鮮が、弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を停止し、かつ、この文脈において、ミサイル発射モラトリアムに係る既存の約束を再度確認することを決定する。」
②安保理決議1874号第3項(2009年6月12日採択)
「北朝鮮が、弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を停止し、かつ、この文脈において、ミサイル発射モラトリアムに係る既存の約束を再度確認することを決定する。」
③安保理決議2087号第3項(2013年1月22日採択)
「北朝鮮に対し,すべての核兵器及び既存の核計画を,完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な方法で放棄すること,関連するすべての活動を直ちに停止すること及び弾道ミサイル技術を使用したいかなる発射,核実験又はいかなる挑発もこれ以上実施しないことを含む,決議第1718号(2006年)及び第1874号(2009年)の義務を直ちにかつ完全に遵守することを要求する。」
④安保理決議 2094号第2項(2013年3月7日採択)
「北朝鮮が、弾道ミサイル技術を使用したいかなる発射、核実験又はいかなるその他の挑発もこれ以上実施すべきでないことを決定する。」