7月31に浮上した、NSA(米国安全保障局)による日本政府、並びに企業、銀行への盗聴疑惑。8月5日に安倍首相は、米国のバイデン副大統領との電話会談で「同盟国の信頼関係を揺るがしかねないものであり、深刻な懸念を表明せざるを得ない」と表明した。
発端は、内部告発サイト「Wikileaks」が2007年以降にNSAが盗聴した回線として、電話番号を伏せて日本の機関の35回線を発表したという報道である。その中には、経産省などの省庁や、日銀、三井・三菱物産のエネルギー部門なども含まれていた。また2007年から2009年にNSAによって作成されたとする5つの機密文書の中には、日本の温暖化対策の方針や、日米交渉についての政策など盗聴の成果と見られる内容がまとめられていた。
今回、盗聴を行ったとされるNSA(米国安全保障局)とは、米国防総省傘下の情報機関である。通信傍受・盗聴・暗号解読などの「信号情報」活動を担当し、その予算はCIA(中央情報局)をも上回るとされている。
このNSAの同盟国への盗聴活動が、「Wikileaks」などによって報じられている。今年6月には、NSAが2006年から2012年5月まで、フランスの現職を含む大統領3氏(シラク:1995-2007、サルコジ:2007-2012、オランド:2012-)の盗聴を行っていたことが「Wikileaks」の発表によって分かっている。
Newsweek日本版によると、機密文書には、“サルコジ前大統領が、米国抜きでイスラエルとパレスチナの和平交渉を再開しようと考えたことや、オランド現大統領が2012年の債務危機でギリシャのユーロ脱に懸念を抱いていたことなどの記述があった”としている。この件を受けて、現職のオランド大統領はオバマ米大統領との電話会談をもうけ「フランスは、国家の安全や利益を脅かす行動を容認しない」と抗議した。
先月初旬には、NSAがドイツに対して、1980年代から2005年まで政権を握ったコール元首相、シュレーダー前首相の時代からドイツ政府を盗聴していたことを示す盗聴対象者リストが報じられている。これによって、首脳だけでなく更に広範囲の人間が対象になっていたことが分かった。2013年にも、NSAによるメルケル首相の携帯電話への盗聴疑惑が浮上しており、メルケル首相はオバマ大統領に直接の電話で抗議したが、オバマ大統領は「通信を監視していないし、今後もしない」と述べるだけにとどまった。
米諜報機関は、こういった諜報活動を各国の米大使館を拠点に行っているとされている。ハフィントンポスト誌によると、その手法として“大使館の最上階付近に電波の透過性の高いカベを設け、その内側部分にアンテナを設置して携帯からの電波を直接受信”したり、“相手の携帯電話にスパイウェアを忍び込ませる手法が用いられている”とされている。
一方で、ドイツ自身も、盗聴に関わった疑いが今年5月に浮上している。ドイツのシュピーゲル誌によると、ドイツのBND(連邦情報局)は2013年までの10年間に渡って、NSAと協力し活動を行っていたという。NSAから要請を受け、EU内の政府と企業の12,000件におよぶIPアドレスやメールアドレス、電話番号といった情報を収集していた。
米国は、「ファイブ・アイズ」と呼ばれる英語圏5カ国(米国・英国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド)で、前述した日本の機密文書などを共有しているといわれている。この5カ国内では、お互いの諜報活動が禁止されている。