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野心的なCOP21パリ協定、日本は対応困難

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【緑の最前線⑭】日本のエネルギー政策を考える⑥温暖化劣等生の日本

公開日: 2015/12/21 (ワールド, 気象/科学)

COP21=Reuters COP21=Reuters

三橋 規宏:緑の最前線 (経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)

 パリで開かれていたCOP21(第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議)は今月12日午後(現地時間)、法的拘束力のある「パリ協定」を採択し、閉幕した。協定は①温室効果ガス(GHG)の2大排出国である中国、米国を含む196カ国・地域が排出削減の責務を負う、②地球の平均気温の上昇を1.5度以内に抑えるよう努める、③5年ごとに各国の目標を見直し対策を強化するなど、先進国、開発途上国が一体となって低炭素社会の実現に向け取り組むことを定めた画期的な内容になった。
 さらに協定は「気温上昇を2度未満に抑えるためには、今世紀後半には人為的な排出と吸収をバランスさせる」と明記している。このことは、今世紀後半には「実質的な排出量ゼロ」が必要なことを示している。
 この野心的なパリ協定に日本は対応できるのだろうか。現状を見る限り極めて困難と言わざるをえない。パリ協定達成のためには、日本のこれまでのエネルギー政策を抜本的に転換しなければならないが、その覚悟が今の日本には極端に不足しているからである。
 温暖化対策には長期間にわたる地道な努力が求められる。ところが、政府は、温暖化対策で日本は世界のトップランナーであるような間違った情報を国民に刷り込んできた。このため多くの国民は現状程度の取り組みで世界のトップランナーに立てるような錯覚を抱いてしまった。このため、実際は日米欧先進国の中で、日本は落ちこぼれに近い存在であることを知らない。マスコミも温暖化対策の劣等生、日本の姿を積極的に伝えてこなかったこともあり、今度のCOP21でも「日本はそれなりに頑張った」との印象を持つ国民は多かったのでははないか。
 だが、現実は逆である。COP21を前に欧米先進国が提出した2030年のGHGの排出削減目標は日本の場合13年比26%削減(90年比18%減)だったが、EU(欧州連合)は90年比40%減、米国の「25年までに05年比26~28%減」と比べ大幅に見劣りした。電源構成に占める自然エネルギー(再生可能エネルギー)の割合も、欧米と比べ極端に低い。
 一方、化石燃料の中で最大のGHGを排出する石炭火力発電については、米国や英国、ドイツなどが新設を禁止し、既存設備の廃炉に積極的に取り組んでいるが、日本は逆に大型石炭火力の新設、輸出に力を入れようとしている。このため、11月30日から2週間ほど開かれたCOP21の開催中も、日本は「GHGの排出削減に本気で取り組む意志があるのか」といった批判の声が会場周辺に集まったNGO,NPOの間から盛んに投げかけられた。さらに今度の会議では温暖化による海面水位の上昇で消滅の危機に直面している島嶼国が中心になりEUなどに働きかけ結成したより強力な温暖化対策を求める「野心連合」が大きな役割を果たした。米国が加わるまで様子見をしていた日本も、米国の参加を知って慌てて参加するなど米国追随の姿勢に失笑を買う場面もあった。総じて、GHG削減の実績の伴わない日本の存在はCOP21の場ではきわめて薄かった
 このような現状を前提にすると、パリ協定の目標達成のためにはかなりの努力が必要なことが分かる。特に既存のエネルギー政策と思い切って決別することが求められるが、その決断ができるかどうかである。日本のエネルギー政策の基本は原子力発電と石炭を主力とする火力発電の2本柱だった。90年代に入り、温暖化対策が注目されるようになると、化石燃料に代って原発を増やすことでGHGの排出削減を目指す路線を進めてきた。原発大国フランスに近い姿である。
 ところが11年3月の深刻な原発事故によって、原発路線は破綻してしまった。火力発電もダメ、原発もダメということになり、日本のエネルギー政策は完全に破綻してしまった。自然エネルギーを将来の基軸エネルギーとして育てることに消極的だった日本は、これから本気で自然エネルギーの開発、普及に取り組んでいく必要がある。しかし政府は相変わらず既存のエネルギー政策にこだわり、原発の復活、それまでは石炭火力で電力不足を補おうとしている。このため11年以降は温暖化対策が後手に回されている。
 2030年にGHGの排出量を13年比26%削減するためには、その時点までに20基を超える原発を稼働させなければならないが、それが可能だろうか。さらに50年には「80%削減」の長期目標を掲げている。だがそれを達成するための手段が示されていない。仮に原発で対応するとなれば、原発事故前(54基)を上回る原発が必要になる。とても現実的な対応とは言えまい。
 パリ協定を達成するためには、第一に政府は温暖化対策で日本は先進国の中で劣等生であることを国民に率直に伝え、節電、省エネで奮起を促すこと、第二に原発ゼロ、低炭素、自然エネルギー中心でやっていける新しいエネルギー政策を早急に作成・実施すること、第三に大胆な温暖化対策税の導入、排出権取引など市場メカニズムの導入を大胆に進めること、などが必要だ。
 また、既存のエネルギー政策で既得権益を得てきた企業・行政・政治家の鉄のトライアングルと決別するため、エネルギー行政の拠点を主務官庁の経済産業省から内閣府などに移す、省益に汚染された古手幹部を一掃し、省益よりも国益を重視する課長補佐クラスの若い頭脳を総動員するなどの思い切った人材若返り改革も効果が大きいだろう。
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三橋 規宏:緑の最前線(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。
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