駐留米軍の撤退が進む中で、タリバンが攻勢を強め、首都カブールを包囲したため、8月15日、ガニ大統領は国外に逃亡した。
タリバンは、首都に無血入城し、政権掌握を宣言した。
アメリカ大使館をはじめ、海外の在外公館の多くはスタッフの撤退を急いでいるが、事態の進展の余りの速さに世界が驚いている。
とくに、アメリカの読みの甘さが指摘されており、1975年4月30日のサイゴン陥落と二重写しになっている。
アメリカに支援された南ベトナムと共産主義者が支配する北ベトナムの間でベトナム戦争が戦われたが、1973年、ニクソン政権は南ベトナムから米軍を撤退させる方針を決定した。そこで、北ベトナムが南ベトナムに侵攻し、1975年4月30日には遂にサイゴンが陥落したのである。
「米軍撤退→敵の攻勢」という図式は似ており、大使館からスタッフがヘリコプターで脱出する様子も同じである。46年前は、日本人も米軍に守られて南ベトナムから脱出したのである。
2001年9月11日、アメリカで、イスラム過激派のアルカイダによる同時多発テロ事件が発生した。アフガニスタンのタリバン政権も関与しているとして、アメリカが軍事侵攻した。その結果、タリバン政権は崩壊し、アメリカの庇護の下、カルザイ政権が成立したのである。2014年の大統領選挙では、ガニが当選した。
その間もタリバンは一定の勢力を維持し続け、政府軍との戦闘を繰り返してきた。トランプ政権は、2016年の大統領選でアフガニスタン駐留米軍の撤収を公約に掲げ、2020年2月にドーハでタリバンとの和平合意の署名に漕ぎ着けている。タリバンによるテロ活動停止を条件に、2021年5月までの米軍の完全撤退を約束したのである。
バイデン政権は、この路線を踏襲し、米軍の撤退期限を9月11日にの同時多発テロ20周年までに延長するとともに、テロ停止などの条件は無くしたのである。トランプ前大統領は、この無条件化を問題にし、バイデン政権の失策だと非難するが、8月末を撤退期限としたバイデン大統領は、トランプ政権の政策を継続したまでだと反論している。
アメリカは、これまでに巨額の資金を投入して、政府軍の訓練を行い、武器を供与してきたが、腐敗がはびこる政府において軍隊の士気も上がらず、真に戦える軍隊とはなっていなかったようである。今回のタリバンの攻勢に対しても、戦わずに逃亡し、捨て去った武器をタリバンが獲得するという状況になっている。
タリバンは、隣国パキスタンのイスラム神学校で教育された学生らが結成したイスラム原理主義運動であり、女性の社会進出を阻止したり、偶像崇拝だとして2001年にはバーミヤンの大仏を破棄したりしている。
支配地域では徴税を行い、また麻薬の取引で資金を集め、さらにはパキスタンやサウジアラビアなどからの支援も得ている。この豊富な資金が、今回の一斉蜂起の背景にある。
アメリカ、イギリス、フランスなど主要国は、大使館の閉鎖を決め、館員を国外に脱出させている。日本政府も、アフガニスタンの日本大使館員を出国させることを決めた。
首都カブールでは、逃れようとする多数の市民が国際空港に殺到し、大混乱となっている。
在留邦人の安否も気になるが、海外邦人の救出については、2013年1月のアルジェリア人質事件で日本人10人が犠牲になったことを契機に、11月に自衛隊法が改正された。その結果、従来の輸送機や艦船による邦人の輸送に加えて、陸上自衛隊による陸上輸送も可能となった。さらに、2015年9月の平和安全法制成立により、武器を使用した邦人警護、救出も可能となっている。
しかし、今回のアフガニスタンのような場合に、どのような手段を講ずるべきかは、外務省との緊密な連携が必要であろうし、その前提として正確な情報収集が不可欠である。
アメリカの諜報に従事するスタッフからは、今回の急展開を予測するデータも示されていたというが、トップの政治指導者たちの判断に影響を与えることはできなかったという。
8月15日には、76回目の終戦記念日を迎えたが、戦後の日本は諜報活動に力を入れてこなかった。すべて、同盟国アメリカ頼りの情報収集活動では、国家としての危機管理能力に大きな欠陥をもたらす。それは、新型コロナウイルス対策、ワクチン対策でも、国民が毎日のように感じているところである。
今回のアフガン政局の急展開を見ると、日本の政治家に国民の生命と財産を守るという意欲と能力の欠如を感じざるをえないし、日本という国のあり方そのものもまた問われているように思う。
アフガニスタン情勢、急展開 日本は情報収集できているか? |
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【舛添要一が語る世界と日本(103)】アフガニスタン、ベトナム戦争のサイゴン陥落を想起させる展開
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(ワールド)
アフガニスタンの首都カブール=CC BY-SA /James Solly
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舛添 要一(国際政治学者)
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