バイデン大統領は、110の国・地域の指導者を招いて、9、10の両日、オンライン形式で「民主主義サミット」を開催した。
最大の狙いは、中国やロシアの封じ込めである。
とりわけ中国は、世界一の大国を目指して、軍事、経済など、あらゆる分野で発展を遂げつつあり、世界の覇権国の座をアメリカから奪おうとしている。バイデン大統領は、それに危機感を抱いているのである。
1989年のベルリンの壁崩壊で東西冷戦が終結し、資本主義・民主主義が社会主義・独裁に勝利したと西側諸国は歓喜した。1991年12月25日にソ連邦が解体されてから30年が経つ。
ところが、この30年間、中国は目覚ましい経済発展を遂げ、GDPで日本を抜いて世界第二位に踊り出た。ロシアも混乱の中からプーチンの長期政権が生まれ、シリア内戦に見るように、中東など世界への影響力を強めている。2014年には、ロシアはウクライナ領のクリミアを併合している。
東西冷戦で、ソ連が敗北したのは、「重厚長大」から「軽薄短小」への技術進歩に取り残されたたからだと考えられた。そして、「言論の自由のないところに情報分野の最先端技術は育たない」という認識が一般化した。
ところが、中国は、その認識とは真逆のことを実現しているのである。
AI、5Gなどの技術では、日本よりも先を走っている。顔認証技術などは、独裁で人権を侵害するのも平気だからこそ、ニーズがあり、ますます発展している。これは、北京や上海などの大都会を散策してみれば直ぐに分かる。スマホ一つで買い物から、ワクチン接種証明まで何でもできるようになっており、日常生活におけるITの活用では、日本よりも中国のほうが進んでいる。
最先端技術の開発で、民主主義陣営が権威主義陣営に勝つとは断言できないのである。
それ故に、バイデン大統領は、民主主義陣営の結束を固め、中国やロシアに対抗しようとしているのである。
しかし、「民主主義サミット」への招待の基準が明白ではない。
ブリンケン国務長官は「アメリカは民主主義と人権を外交政策の基軸に据えている。法の支配や公平な選挙、表現の自由が民主主義の基礎だ」と述べている。しかし、招待されたインド、フィリピン、コンゴ民主共和国、イラク、パキスタンと、招待されなかったトルコ、ハンガリー、シンガポール、タイと、民主主義という観点からどれだけの差があるのか明らかではない。
要するに、中国封じ込めに役立つかどうかという判断が透けて見えるのである。台湾が招待されているのがその象徴であり、中国への配慮からパキスタンは参加しなかった。
「汚職との闘い」もテーマの一つであるが、資金洗浄などの不正が専制主義国家で頻発しているというが、それは招待された「民主主義国」の中でも行われていることである。「民主主義だから汚職がない」とは、お世辞にも言えないのである。
20世紀、第二次世界大戦へと至る歴史を振り返ると、ボルシェヴィズム、共産主義との闘いを前面に打ち出したイギリスは、ソ連への防壁としてヒトラーに期待したのである。それが「ミュンヘンの宥和」に繋がり、第二次大戦への導火線になった。1939年8月の独ソ不可侵条約、そしてドイツとソ連によるポーランドの分割も、イデオロギーは関係なく、両国の国益の追求であった。1941年の独ソ戦の開戦も同じである。
バイデンのいう「民主主義と権威主義の闘い」の背後に見え隠れする国益、そしてナショナリズムを見定める必要がある。
日本は日本の国益に沿って動けば良いのであって、玉虫色の方針のほうが賢いこともある。
民主サミット 招待基準に透ける中国封じ込め |
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【舛添要一が語る世界と日本(120)】テーマは「民主主義vs権威主義」 日本は玉虫色対応を
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(ワールド)
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舛添 要一(国際政治学者)
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