ウクライナを巡って緊張が高まっている。バイデン大統領は、「プーチン大統領がウクライナ侵攻を決断した」とまで述べた。
2月18日~20日まで、ミュンヘンで安全保障会議やG7の外相会議が開かれ、外交的な問題解決への努力が続いている。
マクロン仏大統領は、米露首脳会談を提案したが、アメリカはロシアがウクライナに侵攻しないことを条件に同意した。しかし、ロシアは時期尚早だと判断している。
プーチン大統領は、ウクライナがNATOに加盟しないことを文書で保証するようにアメリカに求めている。これ以上のNATO拡大は絶対に阻止するとして、ウクライナ国境地帯に19万人の部隊を集結し、演習を行って威嚇している。
ロシア・ベラルーシ合同軍事演習は20日に終わったが、ロシア軍はベラルーシから撤収せずに居残ることを明らかにした。これは緊張を増す動きだが、プーチンの瀬戸際戦術は続いている。
一方、アメリカは、主権国家がどの同盟に参加しようが、それは自由であるべきだという立場を堅持している。両者の主張の妥協点を見出すのは容易ではない。
隣国が敵陣のNATOに加盟し、そこにアメリカのミサイルや核兵器が配備されることは、ロシアにとっては安全保障上、許容できない危機であるというのがプーチンの主張である。
1962年のキューバ危機のときに、自分の庭先にソ連のミサイル基地ができるのは容認できないとして、海上封鎖で対応したケネディ大統領の主張と同じである。この問題は、フルシチョフが基地建設を止めたために片付いた。今回妥協すべきは、アメリカであるとして、軍事力で牽制しているのである。
アメリカやイギリスは海によってロシアとは隔離されているが、ヨーロッパ大陸諸国はロシアと陸続きである。ナポレオンやヒトラーは、陸軍力でロシアに攻め入り、冬将軍に敗れた。
地政学的にロシアと国境を接する国々の生存戦略には厳しいものがある。欧州大陸では、多くの中小国がドイツとロシアという大国によって、地図上から存在を消されたり、国境線を変更させられたりしてきた。
1989年のベルリンの壁崩壊、1991年のソ連邦の解体以降、ワルシャワ機構軍に加盟していた東欧諸国はNATOへの加盟を急いだ。また、ソ連邦に属していた15の共和国は独立国家となり、バルト3国はNATOに加盟した。
隣接国のこれ以上のNATO加盟は認めないというプーチン大統領の意に反して、ウクライナは加盟を狙っている。ミュンヘンの会議でも、ゼレンスキー大統領は、ロシアに対して挑発的とも思われるように、その要求を繰り替えした。
プーチンの武力による威嚇は、北欧諸国にも影響を与えている。ノルウェーやデンマークは1949年のNATO発足以来の加盟国であるが、スウェーデンは中立政策、フィンランドは米ソ冷戦下ではフィンランド化と呼ばれるソ連寄りの外交政策を堅持した。
フィンランドについて言えば、ソ連邦の崩壊で、フィンランド化は終わったが、それでも反ロシアの姿勢はとらなかった。「冬戦争」(1939年11月~1940年3月)などソ連と戦火を交えた経験が、そのような慎重さを生み出したのである。スウェーデンもフィンランドも1995年にEUに加盟したが、NATOには加盟していない。
それは地政学的配慮からであるが、ウクライナへのロシアによる武力威嚇を見て、今年の初めにフィンランドのニーニスト大統領はNATO加盟という選択肢があることを明言して、ロシアを牽制した。スウェーデンでも、ロシアの傍若無人の軍事的挑発に対してNATO加盟論が議論されている。
皮肉を言えば、プーチンのウクライナ恫喝は、スウェーデンやフィンランドをNATOの側に追いやろうとしているのである。ヨーロッパにおける新たな冷戦は、ロシアにとって不利な方向に進みつつある。
プーチン大統領は、この難局をどう乗り切るのであろうか。武力の行使を選択肢として維持していることに世界中が警戒心を抱いているのである。
戦争は偶発的なことから起こる。ウクライナ危機が第三次世界大戦の引き金とならないことを祈るしかない。
フィンランドとスウェーデンにNATO加盟の動き |
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【舛添要一が語る世界と日本(130)】プーチンの誤算 北欧を敵陣に追いやる愚
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(ワールド)
フィンランドのニーニスト大統領(2020年)=CC BY /FinnishGovernment
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舛添 要一(国際政治学者)
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