2月24日、プーチン大統領はウクライナに対して全面的な軍事攻撃に出た。世界の大方の予想を裏切る侵略行為である。
2014年3月のクリミア併合の手順で手を打ってくるのであれば、まずロシア系住民が多く住む東部のルガンスク、ドネツクの2つの「人民共和国」を国家承認して、そこにロシア軍を進駐させるのがシナリオだと考えるのが普通である。
しかし、プーチンは東部、そして北のベラルーシ、そして南のクリミア半島から一気にウクライナ全土に攻め込んだ。目的はウクライナを絶対にNATOに加盟させないことであり、親欧米派でNATO加盟に固執するゼレンスキー政権を打倒し、親露派政権を樹立することである。そのために、首都キエフに向かって進軍しているのである。
ところが、ウクライナ軍の予想以上の抵抗に遭っていること、また欧米や日本がSWIFTからの除外を含む強力な経済制裁を課していること、さらには内外で戦争反対の運動が拡大していることなど、プーチンにとっても計算外のことが起こっている。しかし、そのようなことでひるむようなプーチンではない。
同盟国でもないウクライナにNATO軍は一兵たりとも送らないし、経済制裁に対しては石油や天然ガスの供給停止という対抗手段もある。一番怖いのは、戦争が長引き、ロシア兵の死傷者が増えて、国内に厭戦気分が漲ることである。
ゼレンスキーの申し出に対し、プーチンは両国の代表団で協議をすることに同意した。最初はロシアが提示したベラルーシという会談場所にウクライナ側が難色を示したが、結局はベラルーシ・ウクライナ国境で行われることになった。
双方の側で、これ以上の戦争の被害を出さないために停戦交渉のテーブルに着こうというのである。しかし、調停をする国は不在である。
武力の行使によって目的を達成しようというのは砲艦外交であり、停戦交渉はそう簡単にはまとまらないであろう。
前提条件をつけないで会談するというのがウクライナ側の主張であるが、ロシア側はウクライナの非軍事化と中立化を要求している。要は、双方がどれだけ妥協できるかにかかっているが、それを決めるのは何か。
まずは戦況である。
欧米が武器や資金の援助をしているが、兵力を参加させていないので限界がある。北、東、南の三方から攻め込んでいるロシア軍の兵力を考えれば、ウクライナ軍がどこまで持ちこたえられるかは不明である。
プーチンは、停戦協議の場をウクライナに降伏を迫る場とするであろう。そのために、核兵器の使用という脅しもかけてきている。プーチンは、27日には核戦略抑止部隊に臨戦態勢に入るように命令を下している。戦闘が長引いた場合には、最悪の場合、核兵器のボタンを押す可能性もある。
ウクライナがNATOに加盟しないという確約を得るまでは、プーチンは絶対に引き下がらないであろう。その点で、自らの退陣を含めて、ゼレンスキーが何らかの妥協ができるのか否か、それが問題である。
多数のウクライナ人が死傷し、インフラにも大きな被害が出ているが、それとNATO加盟とをどのように天秤をかけるのか。NATO加盟国も、現状のようなウクライナでは加盟を認めないであろう。
経済制裁についても、中長期的には効果があるが、すぐに戦闘を中止させるだけの即効性があるわけではない。ロシアの主張に理解を示し、制裁に反対する中国の支援を受けて、プーチンは何らかの抜け道を探るであろう。
停戦への道は険しいが、下手をすれば核戦争となる。戦術核の使用をプーチンは躊躇しない。そのことを念頭に置いた外交交渉が必要である。
外交で「100 対0」ということはありえない。「50対50」か「60対40」か「40対60」か、できれば「70対70」のような「win・winの関係」になれれば幸いである。
しかし、あまり甘い期待は禁物である。これ以上の血を流さないという決意のみが停戦に繋がる。
ロシアとウクライナ、妥協の着地点はあるか? |
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【舛添要一が語る世界と日本(131)】ロシアがウクライナへの全面的な軍事攻撃 プーチンの砲艦外交は成功するか
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(ワールド)
ロシアからのミサイル攻撃を受けたキエフの様子(2022年2月24日)=CC BY-SA /Arrikel
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舛添 要一(国際政治学者)
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