4週間目に入ったウクライナ戦争は、簡単には終わりそうにない。
圧倒的軍事力で早期にウクライナを降伏させるというプーチン大統領の戦略は実を結んでいない。
2014年3月18日にロシアはクリミアを併合したが、それから8年目の記念日には大々的にウクライナ戦勝を祝うつもりだったのであろう。しかし、戦況は予想通りには行かなかった。
数万人を集めたモスクワでの集会で、プーチンは軍事侵攻を正当化し、その目的はロシア系住民をジェノサイドから守るためだと獅子吼した。
戦闘の長期化の原因の1つは、ウクライナ軍の激しい抵抗にある。
クリミア併合以降の8年間、アメリカは総額約15億ドル(1600億円)の軍事援助を実施してきた。そのおかげで、ウクライナ軍は装備も訓練も近代化できたのである。
紛争の激化とともに、NATOからのウクライナへの武器援助が拡大しており、とくに対戦車ミサイルのジャヴェリンや対空ミサイルのスティンガーが大いに役立っている。
因みに、アメリカのウクライナへの軍事援助を一時中断したのがトランプ大統領であり、そのためロシアから支持されたのである。トランプ政権だったら、ウクライナ戦争は起こらなかっただろうという推測は、あながち根拠のないものではない。
さらには、バイデン大統領の息子がウクライナのガス会社役員になり多額の報酬を得ていたことも話題になった。ウクライナ紛争の背後には、アメリカ国内の権力闘争のドラマがあることもまた忘れてはならない。
ロシアによる国際法違反の侵略行為は弾劾されて当然であるが、「民主主義 vs 専制主義」といった単純な図式のみならず、アメリカとロシアによる「むき出しの国益追求」があるのである。
今回の戦争は、潤沢な資源や地政学的重要性を持つウクライナの、米ロ間での奪い取り合戦でもある。アメリカもロシアも、ウクライナを自らの陣営に引き込みたいのであり、それがNATOの東方拡大問題として焦点になっている。プーチンにしてみれば、自分の縄張りは死守するという思いで軍事侵攻に踏み切ったのである。
ウクライナの最大の貿易国は、今やロシアを抜いて中国である。ゼレンスキー大統領は、停戦を実現するために、中国に対して仲裁の労をとるように要請した。これまで、フランス、ドイツ、トルコ、イスラエルなどが仲介役として動いてきたが、中国もまた一定の役割を果たすことが可能であろう。
ドイツは天然ガスの55%、石油の42%をロシアから輸入している。EU全体の比率は、天然ガスが45%、石油が27%である。もしロシア産を禁輸すれば、EUは生存できない。
アメリカは、ソ連時代からパイプラインによるロシアへのエネルギー供給の危険性を指摘したが、ヨーロッパは逆にソ連・ロシアと相互依存関係を築くことが平和に繋がると主張した。米ソ冷戦時代の西ドイツのシュミット首相、ドイツ統一後はメルケル首相がそうである。
フランスもまた、アメリカのレーガン政権による1982年の石油・天然ガス開発関連機器の対ソ禁輸政策を無視して、コンプレッサーやガスタービンなどの禁輸品をソ連に輸出している。
その結果、ソ連の西シベリア天然ガス開発計画は進行し、1984年1月1日から西欧への輸送が始まった、その背景には、欧州への代替エネルギーの供給に熱意のないアメリへの独仏の失望もあった。そして、パイプライン計画を実現させたもう一つの背景は、1970年代のデタント時代に構築された西欧とソ連・東欧との緊密な経済関係の蓄積である。
しかし、今回のロシアのウクライナ侵略は、相互依存関係が平和ももたらすというヨーロッパの主張を根本から覆してしまった。プーチンは、ロシア産の石油や天然ガスの輸出は止めないと明言しているが、それは貴重な外貨獲得源を失うからでもある。
EUは、2027年までにロシア産エネルギーへの依存度をゼロにすることを決めた。それを実現させるには輸入元の多元化とともに、再生可能エネルギーの供給増加も必要である。さらには、原子力発電である。フランスのような原発大国は問題ないが、脱原発をうたい、反原発の「緑の党」が政権に参加しているドイツにとっては難題である。
エネルギーという観点からも、今回のロシアの侵略は、ヨーロッパにも大きな犠牲を強いるものとなっている。
「相互依存関係が平和への道」という欧州の主張に傷 |
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【舛添要一が語る世界と日本(134)】ロシアの侵略で揺れるEUのエネルギー政策
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(ワールド)
露のパイプライン開通を祝うメルケル独首相ら(2011年)=CC BY /Kremlin.ru
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舛添 要一(国際政治学者)
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