4月10日にフランス大統領選挙の投票が行われる。
1958年に発足した第5共和制では、大統領任期は7年間、再選制限なしと定められていたが、2000年に行われた国民投票で5年に短縮された。さらに、2008年の憲法改正で任期は2期までとされた。
大統領選挙では、有効投票総数の過半数を獲得する候補者がいない場合には、2週間後に上位2人の決選投票が行われる。
フランスは、大統領と首相が併存する政治システムであり、大統領は直接国民投票で選ばれ、首相は国民議会の多数派が選ぶという仕組みだ。そのため、選挙の結果次第で、大統領と首相が対立する陣営に属することもある。フランソワ・ミッテラン大統領とジャック・シラク首相という組み合わせがそうで、保革共存体制(コアビタシオン)と呼ばれる。
さて、今回の大統領選挙では、右から左まで12人が立候補している。世論調査会社IFOPの3月30日の調査によれば、主な候補の支持率は、
①エマニュエル・マクロン(大統領、「共和国前進」、中道)28.0%
②マリーヌ・ルペン(「国民連合」党首、極右)21.5%
③ジャンリュック・メランション(「不屈のフランス」、国民議会議員、急進左派)15.0%
④ヴァレリー・ペクレス(「共和党」、中道右派)10.5%
⑤エリック・ゼムール(評論家、極右)10.5%
⑥ヤニック・ジャド(環境派、欧州議会議員)
⑦アンヌ・イダルゴ(社会党、パリ市長)
――となっている。
同じIFOPの4月1日の調査では、上位5人の支持率は、
①マクロン28.0%
②ルペン21.5%
③メランション15.0%
④ゼムール11.0%
⑤ペクレス9.5%
――である。
第一回投票が、この支持率通りの結果となれば、前回の大統領選挙と同じく、マクロンとルペンが24日に決選投票で雌雄を決することになる。世論調査では、決選投票の支持率は、マクロンが53.5%、ルペンが46.5%である。
マクロン大統領は中道をうたっているが、富裕層を支援する政治家だとして、格差の拡大に異を唱える人々が「黄色いベスト」運動などを展開し、支持率が一時は2割台にまで下落することもあった。
ところが、ウクライナ戦争の勃発で、フランスのメディアでも毎日のトップニュースがウクライナ情勢となり、プーチン大統領と交渉したりして紛争の解決に奔走するマクロン大統領の姿が大写しで伝えられている。それが大統領支持率をアップさせ、戦時には指導者の支持率が上昇するケースの典型となっている。
また、在任中に失業率を大幅に下げたり、法人税率を下げたり、国鉄を改革したりした点は評価されているが、マクロンに懸念材料がないわけではない。
それは決選投票での支持率調査でルペン候補と拮抗している点である。前回は、66.10%対33.90%とマクロンの圧勝であったが、極右に拒否感を持つ左翼有権者が決選投票ではマクロンに投票したからである。しかし、今回は少し事情が異なる。
ルペンよりもさらに右寄りのゼムールが出馬しているが、彼は移民排斥の急先鋒で一時はマクロンと並ぶ支持率を誇っていた。ところが、ウクライナ戦争の勃発で、逃れてくる避難民への同情が強まり、彼らを温かく迎えるべきだという意見が支配的となりった。その結果、ゼムールは失速してしまった。
そのゼムールとの違いを強調するために、ルペンは移民排斥論を抑えた。それが功を奏し、支持率でゼムールを逆転してしまったのである。
さらに、ウクライナ戦争の影響によるインフレへの対応策を掲げ、貧困層向けに減税を主張したりして、左翼支持者にも触手を伸ばしている。このルペンの「中道化政策」が成功すれば、前回と違って、左翼有権者が決選投票で彼女に投票する可能性があり、勝利することもありうる。
これまでのフランスの政治は、保守と革新の対立が基軸であった。前者の代表がドゴール派政党であり、後者の中心は社会党であった。シラクとミッテランの対立がそうである。近年(2007年~2017年)でもニコラ・サルコジとフランソワ・オランドが大統領職を分担した。
ところが、前回、2017年の大統領選挙でマクロンが勝ったことによって、伝統的対立図式が壊れてしまった。今回、ドゴール派の代表はペクレスであり、社会党の代表はイダルゴであるが、この二人の女性候補の支持率は低迷している。ペクレスはマクロンとルペンに伝統的支持層を奪われている。イダルゴは、急進左翼のメランションに支持基盤を侵されている。
今のところ、マクロン再選が確実視されており、投票率も下がる可能性があるが、フランスの政治に地殻変動が起こっていることは確かであろう。何がそれももたらしたのか、また今後どのように変動が拡大するのか。
「心は左、財布は右」というフランス人の伝統的行動様式、「敵よりも左翼であれ」という政党政治の力学が、移民問題の急進化、グローバリズムの進展、SNSの発展で大きく変わってしまった。
半世紀にわたってフランスの政治と付き合ってきたが、最近は「フランス政治のアメリカ化」とでも言えるような現象が起こっており、ポピュリズムの波にも襲われつつある。今後の展開に注目している。
大統領選でも、仏政治のアメリカ化 |
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【舛添要一が語る世界と日本(136)】4月10日投票日の仏大統領選 ルペンの「中道化」通じるか
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(ワールド)
2022年仏大統領選の候補者パネル=CC BY-SA /Jean-Paul Corlin
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舛添 要一(国際政治学者)
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