北朝鮮で新型コロナウイルスの感染が爆発的に拡大している。
これまで北朝鮮は、コロナ感染者はいないと一貫して主張してきた。ところが、5月12日になって初めてコロナ感染が確認されたと公表した。「原因不明の熱病」で18万7800人が隔離され、治療を受けており、12日だけで1万8000人が発熱したという。
これまでに約35万人が発熱し、16万2200人が完治したそうだ。死者は6人で、1人だけがコロナが原因と特定されたが、ウイルスはオミクロン株のBA2だったという。
この状況に対して、金正恩は、全国に都市封鎖を命じた。
13日には、1日で17万以上が発熱したとされ、金正恩は「建国以来の大動乱」だと危機感を強めており、中国のゼロコロナ政策と同様な対応を採る方針を固めた。
14日には、29万6000人が発熱、15人が死亡し、15日には39万2900人が発熱、8人が死亡したという。先月下旬から累積すると121万6000人が発熱し、死者は50人を超えたという。
第一の疑問は、なぜ今頃になってコロナ感染を公表したのかということである。
本当にそれまでは感染がいなかったのか、あるいはいても極限られた数だったのか。それとも、敢えて隠していたのか。真相は不明である。ただ、鎖国状態であり、韓国とは38度線で軍事的に対峙しており、唯一の交流可能な国境は中朝国境である。
これまでは、3年前に武漢でコロナ感染が発生した時期を除けば、その後は中国のゼロコロナ対策が北京冬季五輪のときも含めて成功しており、北朝鮮への感染拡大はほとんど無かったと考えられる。
ところが、上海でオミクロン株の感染が急拡大し、3月末から都市封鎖に入った。まだ封鎖が続いており、この感染が北朝鮮にも伝播したものと考えられる。
北朝鮮の人口は2570万人であり、そのうち120万超が感染と言うことは、20人に1人が感染しているということである。金正恩が国家の非常事態と捉えるのは当然である。
感染を公表したのは、国民に対して感染予防を促すことが第一の目的だと考えられる。
第二の疑問は、データの正確さ、検査、治療などの医療体制の整備が十分かどうかということである。
検査がきちんと行われていないのは確かであり、仮に公表された感染者数や死亡数に操作がないとしても、無症状や軽症者が多いのがオミクロン株の特色であり、感染者の実数はもっと多いと思われる。この点は日本でもおなじである。
検査キットもワクチンも治療薬も不足していることは確かであり、「発熱者」をコロナ感染者と見なすことにしたり、解熱のための民間療法を教えたりしている。
金正恩は、「すべての薬局について24時間運営に移行するよう指示を出したが、医薬品が速やかに供給されていない」と不満をもらしている。そして、内閣や保健部門の対応を批判し、医薬品の流通を監視する検察トップの職務怠慢を叱責した。
感染の公表は、国際的支援を求めるためだとも思われる。中国や韓国は支援に前向きであるが、金正恩が韓国からの援助を受け入れるかどうかは分からない。米韓共同軍事訓練などを行い、安全保障の分野で北朝鮮に対抗する韓国に対して、北朝鮮は厳しい姿勢を維持している。
核兵器やミサイルの開発に巨費と人材をつぎ込んでいる北朝鮮であるが、国民の福祉については軽視してきたことが、今回のコロナ感染爆発で明白になった。
優秀な武器を保有しても、それを操作する人材が病に伏せているようでは戦争はできない。北朝鮮の脆弱性を垣間見る思いである。
北朝鮮 公表データ上だけで、20人に1人が感染 |
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【舛添要一が語る世界と日本(142)】コロナ感染爆発 2つの疑問
公開日:
(ワールド)
平壌=CC BY /sebastianhoyer
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舛添 要一(国際政治学者)
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