ウクライナで戦闘が終わらない。
6月25日、ロシア軍はウクライナ東部のルガンスク州のセベロドネツクを占領した。ウクライナ軍は撤退し、対岸のリシチャンスクで抗戦している。
また、26日朝には、キーウの集合住宅などがロシア軍のミサイル攻撃を受け、死傷者が出ている。キーウ攻撃は、ドイツで開かれているG7サミットを牽制する意味もあろうが、そのサミットの最大のテーマはウクライナである。
G7は、ロシアに対する追加の経済制裁措置として、ロシア産の金の輸入停止、資産凍結対象の拡大などを決めている。
経済制裁はロシアの首を真綿で締め付けるような効果を持つが、即効性のあるものではない。制裁に参加してるのは、世界中で4分の1の国に過ぎず、残りの4分の3は参加していない。中国やインドという大国もそうなのであり、ロシアにとっては制裁逃れも容易である。
制裁は、制裁も受ける側のみならず、課すほうにも大きな犠牲を強いる。戦争と制裁の影響で、エネルギーや食糧などの価格が高騰しており、国によっては政情不安にまで発展している。
6月19日に行われたフランス国民議会決選投票では、マクロン大統領の与党連合は245(−100)議席と大幅に議席を減らし、過半数289(定数577)に達しなかった。左派連合(131議席)と極右国民連合(89議席)は大幅に議席を増やしている。
与党敗北の最大の要因はウクライナ戦争による物価高である。
国民にとっては、ウクライナの独立と自由も大事だが、自分たちの日々の生活が第1なのである。たとえば、ガソリン1リッターの価格は、日本でも170円と高くなっているが、フランスでは280円である。日本よりも遙かに車社会のフランスで、国民が悲鳴を上げているのはよく分かる。
お隣のイタリアでは310円である。また、電気代は従来の2.5倍になっている。イタリアの電気は原発ではなく天然ガスによっているために、ウクライナ戦争の影響がもろに出ているのである。
ドイツや東欧諸国も石油や天然ガスに依存しており、石油禁輸については、ハンガリーの反対でパイプライン経由の輸入は続けられることになっている。天然ガスにつては、すぐに禁止すると欧州大陸の諸国は生存できなくなるので、まだ話はまとまっていない。いずれにしても、大衆の生活が脅かされていることは疑いえない。
西側諸国は、ウクライナに対して軍事・財政・人道支援を行っており、ドイツのキール世界経済研究所によると、その総額はこれまで(1月24日~6月7日)に783億ユーロ(約11兆円)に上っている。アメリカが427億ユーロ(55%)、イギリスが48億ユーロ(6%)、ドイツが33億ユーロ(4%)で、日本は6億ユーロ(0.7%)で7位である。
GDP比で見ると、支援額13位のエストニアが0.87%で1位、支援額4位のポーランドが3位である。ロシアの近隣のバルト三国や東欧諸国は、次は自分たちがロシアに侵略される番だという認識が強いのである。
このような支援は、それぞれの国の納税者の負担である。アメリカやイギリスは、国産のエネルギー資源にも恵まれており、またロシアと陸続きではない。
これに対して、ロシアにエネルギー供給を依存しながら、そのロシアの戦車が侵攻する危険性が現実的である欧州大陸諸国は、一方では安全保障に力を注ぎながら、他方ではウクライナ戦争に伴う国民生活への打撃にも対応しなければならないのである。
そのような苦しい状況の中で、ゼレンスキー大統領が武器支援が足りないし、遅すぎると不満を漏らすのを、支援国の国民はどう聞くのであろうか。
「自分たちは皆さんの自由のためにも戦っている」と言われても、日々の生活が困窮を来す状況では、いつまでもウクライナの訴えに耳を傾けることはできなくなる。
これが「ウクライナ疲れ」、「ゼレンスキー疲れ」の実態である。
日本でも事情は同じで、ワイドショーは言わずもがな、ニュース番組でもウクライナ報道の比重が落ちている。
このような事情が停戦への動きを促進するのか、それとも戦争をさらに長期化させるのか分からない。G7も停戦に向けて決定的な手は打てないようだ。
欧州覆うゼレンスキー疲れ |
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【舛添要一が語る世界と日本(148)】戦費負担ばかりか物価高に苦しむ
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舛添 要一(国際政治学者)
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