中国では、燎原の火の如く新型コロナウイルスの感染が再拡大している。
11月26,27日の週末、ゼロコロナ政策に反対するデモが全国で起こり、習近平や中国共産党の退陣を叫ぶ声まで上がった。それに危機感を持った指導部は、急遽ゼロコロナ政策を取り止め、規制を緩和したのである。
その結果がこの感染再拡大である。
青島市は、23日、感染者が1日当たり49万~53万人で推移していると発表した。また、25日、浙江省は、1日当たり100万人を超えているとした。
さらに、23日の香港紙『明報』によると、12月1~20日に2億4800万人が感染したと中国政府が推計しているという。これは、14億の人口の約2割であり、北京市や四川省では感染者は人口の5割を超えているという。
死者も増え、火葬場が満杯になるほどで、各地で火葬待ちの車の長蛇の列ができている。
このような事態に直面して、中国政府は、14日には無症状感染者の人数公表を停止したが、それは大規模なPCR検査を止めたことにより把握不能になったためだからだという。そして、20日には、明確なコロナ感染による肺炎や呼吸不全以外は関連死に含めないという基準を決めた。そのため、死者がゼロか1桁となり、実態からほど遠いという批判が出ていた。
こうして、25日には遂に新規感染者数の発表を行わないことを決めたのである。この方針転換を見ても、政府の混乱した状況が想像できる。因みに、中国疾病予防センターは、25日に確認されたコロナ感染者は全国で2637人と発表したが、地方政府の発表とは桁違いに少なく、あまりに意味の無い数字である。
感染者の急増に伴って、医療体制の逼迫という事態も生じている。問題は、今になってなぜこのような感染爆発に至ったかということである。
中国のコロナ対策は、「検査と隔離」という感染症対策の基本に忠実であり、それは、一人でも感染者が出れば、地区全体を封鎖するという徹底ぶりであった。そのため感染の拡大は防げたが、経済活動は停滞し、人々の日常生活にも支障を来すようになったのである。部品供給などが止まり、日本の企業にも大きな影響を与えた。
ところが、11月末にゼロコロナに固執する政権を批判するようなデモが起こり、そのため大きな政策転換となったのである。
ゼロコロナ政策、そしてその急な解除は、独裁政権だからできることであるが、いわば「急ハンドル、急ブレーキ」といった運転操作であり、それが今回の「事故」につながったと言えよう。要するに、ゼロコロナ政策から「コロナとの共存」政策に転換するために必要な準備を整えないまま、焦って規制緩和をしてしまったのである。
感染急拡大の原因の一つは、免疫を持った人が少ないことである。それは、ゼロコロナ政策によって感染しなかったからである。そして、ワクチン接種が不十分であることも理由である。
中国製の不活化ワクチンは、メッセンジャーRNAワクチンに比べ性能が落ちるとともに、オミクロン株対応でないことも問題である。中国ではワクチンを毛嫌いする高齢者が多く、とくに農村部では接種が思うように進んでいない。
海外からオミクロン株対応ワクチンを輸入するなどしないと急場を凌げないであろう。政府の急激な政策転換によって国民は自助努力を求められ、検査キット、治療薬なども自分で入手せねばならなくなった。そのため、日本の薬局では中国人のための風邪薬の爆買いが起こっており、品薄になるような状況になっている。
また、26日の毎日新聞によると、中国政府は、11月下旬に、民間企業や研究機関に対して新型コロナウイルスのゲノム(遺伝情報)配列の解析を当分の間、行わないように通知したという。これは問題である。
今のような感染爆発が続き、人口の半数までもが感染する状態になると、新たな変異株が発生する確率が高まる。それが現実のものとなると、世界的に大きな影響を及ぼすことになるため、政府が情報管理に乗り出したのである。しかし、情報統制によって感染が防止できるわけではない。
北京市を中心に、オミクロン株のBF.7が流行しているが、これは感染力がデルタ株の2~3倍もある。全国的には、BA.5.2系統のウイルスが主流だという。
コロナは武漢から始まった。今回新たな変異株がまた中国で発生し、それがパンデミックを長引かせることになるのは避けたいものである。
習近平は3期目に入り、異常な長期政権への道のりを歩み始めたが、まずはコロナ対策で失敗したと言ってもよい。コロナ対策についても、権威主義体制のほうが民主主義体制よりも対応が優れているとはもはや言えない状況である。
この政権は長続きしないのではあるまいか。
ゼロコロナ策の準備なき急転換 習3期目の危うさ映す |
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【舛添要一が語る世界と日本(174)】極端から極端へ、180度急転換が大感染に
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舛添 要一(国際政治学者)
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