昨年の2月24日にロシア軍の侵攻で始まったウクライナ戦争は、11ヶ月目を迎えた。
世界中の多くの人々は、戦争がここまで長引くとは予想もしていなかった。しかし、これからもまだ長引く可能性が高い。
軍事大国ロシアに対して、ウクライナがここまで抵抗できているのは、西側からの最新鋭の兵器の支援があるからである。
たとえば、M142高機動ロケット砲システム「ハイマース」、榴弾砲M777、携帯式防空ミサイル「スティンガー」、携帯式対戦車ミサイル「ジャベリン」、各種のドローンなどがそうである。
ウクライナは、ある意味でアメリカ製兵器の実験場となっており、米軍需産業にとっては笑いが止まらない状況になっている。ゼレンスキー大統領が昨年末の12月21日に訪米したのは、武器支援の継続を直訴するためであった。
フランスのマクロン大統領は、1月4日、ゼレンスキー大統領との電話会談で、軽戦車「AMX-10RC」を供与することを伝えた。欧米の戦車がウクライナの戦場に送られるのは初めてである。
14日には、イギリスが「チャレンジャー2」を供与することを決めた。この戦車はロシアのどの戦車よりも優れた性能を有している。
ただ、提供されるのは12台で、ウクライナが要求している数百台にははるかに及ばず、戦局を転換させる効果はない。西側の支援姿勢を示すシンボリックな意味のほうが大きい。
19日、欧州11カ国はエストニアでウクライナ支援会合を開き、英、デンマーク、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、チェコ、オランダ、スロバキアの9カ国が軍事支援を表明した。
同じ19日、バイデン政権は、装甲車「ストライカー」90両、ブラッドレー歩兵戦闘車59両、約30万発の弾薬など、25億ドル(約3200億円)の追加軍事支援を発表した。ストライカーは今回が初めての供与である。
しかし、アメリカの主力戦車「エーブラムス」は含まれていない。それは、ディーゼルで動く「レオパルト2」と違い、この戦車はジェット燃料が必要など、維持管理にコストがかかりすぎるからだというのが、アメリカ側の説明である。
20日には、ドイツのラムシュタイン米空軍基地で、約50カ国が参加するウクライナ支援会議が開かれた。この場で、ドイツが主力戦車レオパルト2の供与を決定するか否かに注目が集まったが、ドイツはさらに検討が必要だとして、結論を先送りした。
そもそも、ドイツは、米戦車エーブラムスの供与をレオパルト2供与の前提としていたとされている。
ポーランドは、自国が保有するレオパルト戦車をウクライナに供与する予定で、すでにウクライナ兵を招いて訓練を始めたというが、最終的には製造国のドイツの許可が必要である。
ドイツは、なぜ自国の戦車の供与に慎重なのか。
それは、戦闘が拡大し、泥沼化し、さらにはNATOがロシアとの戦争に巻き込まれることを危惧しているからである。国内でも、根強い反対論がある。
最大の問題は、停戦の条件をNATO側がきちんと詰めていないことである。
ゼレンスキーが言うように全面勝利まで戦うということになると、ロシアには無条件降伏を迫るということになる。広島、長崎に原爆を投下して、日本を打ち負かしたのと同じである。
しかし、今回は、核兵器を保有しているのがロシアである。今は軍事的に劣勢だとはいえ、直ちに降伏するとは思えない。石油・天然ガス、食糧などの資源は豊富にあり、しかも中国やインドなどの協力で経済制裁の打撃を一定程度回避している。最悪の場合、核の選択ということもある。
どの程度までロシアの力を殺げば停戦交渉を行うのか、ゼレンスキーの要求をどれくらい抑えることができるのか、そのシナリオをNATO側、とくにバイデン大統領が描いているとは思えない。
20日のウクライナ支援会議で、米軍のミリー統合参謀本部議長は、「軍事的な観点から言えば、今年中にウクライナ内の隅々の占領地からロシア軍を駆逐するのは極めて困難と判断している」と述べ、外交交渉での妥結を求めた。しかし、政治指導者の側が同じ認識を共有しているかどうかは不明である。
仲介役のいない戦争は、戦場で決着がつかないかぎり長引く。
「NATOが戦争に巻き込まれかねない」と、独が戦車供与を躊躇、停戦がみえない |
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【舛添要一が語る世界と日本(178)】笑いが止まらない米軍需産業 NATOのウクライナへの武器支援、拡大続く
アメリカの主力戦車「エーブラムス」=cc0
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舛添 要一(国際政治学者)
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