対立してきた中東の大国、サウジアラビアとイランが10日、外交関係を正常化することで合意した。
中国の仲介によるものである。
これは、中東におけるアメリカのプレゼンスの低下と中国の影響力の増大を物語るものであり、アメリカ外交の失敗である。バイデン政権はウクライナ戦争と台湾有事に集中するあまり、中東への関与を低下させてきた。中国は、その間隙を突いたのである。
アメリカを中心とする西側諸国が2003年3月20日にイラクに侵攻し、サダム・フセイン体制を倒してから20年が経つ。しかし、軍事介入の理由とされたイラクによる大量破壊兵器の保持というのは、全くの嘘であったことが後で判明している。
しかも、20年後の今のイラクは、民主主義が定着するどころか、腐敗と政治的不安定に悩まされている。
1979年12月24日、ソ連軍がアフガニスタンに侵攻したが、10年にわたるアフガン介入失敗し、ソ連軍は撤退した。アフガニスタン侵攻は、ソ連邦の解体をもたらした大きな要因の一つであり、ゲリラ組織からイスラム原理主義タリバンが生まれ、アルカイダなどのテロへと繋がっていった。
その後、ソ連に代わって、アメリカがアフガニスタンの庇護者となったが、20年に及ぶアメリカの関与は実を結ばず、2021年8月31日に米軍は撤退した。
そして、アフガニスタンは、今また、女性の権利などを認めないイスラム原理主義のタリバンが統治する暗黒の時代に戻ってしまっている。
2015年9月には、内戦が続くシリアで、ロシアはアサド政権の要請に応える形で、9月30日に空爆を開始した。国際テロ集団ISを退治するためだという大義名分を掲げて、トランプ政権のアメリカが撤退したシリアで大国としての存在感を増したのである。アサド政権下でなお内戦が続く今のシリアを見ると、アメリカの責任の大きさを感じざるをえない。
イラクやアフガニスタンやシリアにおけるアメリカの関与は何だったのか。このように、アメリカの中東政策は嘘(フェイク)と失敗の連続なのである。
イスラム教が主流の中東地域で、西欧流の民主主義を錦の御旗にしても通用しない。
イランはアメリカと敵対しているが、親米国であるサウジアラビアにしても、王制の下ではバイデン流の民主主義の押しつけは耐えがたい。反体制ジャーナリスト殺害への関与が疑われているムハンマド皇太子への批判がその典型である。
ロシアに対する経済制裁の効果を高めるために、アメリカはOPECに原油増産を期待したが、サウジアラビアは応じなかった。したたかなアラブ商人であり、国益優先である。
昨年12月に習近平はサウジアラビアを訪問し、アラブ諸国との首脳会議を開いた。アメリカ流民主主義の押しつけ、アメリカ一極主義への反対という点では、中国もアラブ諸国も同じである。
一帯一路構想を実現するためにも、中東諸国との関係改善は不可欠である。習近平政権は、水面下でサウジアラビアとイランとの仲介に汗を流していたようである。
イランにとっては、アメリカの制裁によって悪化した経済を建て直すためにも、中国やサウジアラビアとの関係強化は願ってもないことである。イランはまた、トランプ政権がご破算にした欧米との核合意を復活させたいという思惑もある。
今回のサウジアラビアとイランの外交関係正常化に、アメリカとともにショックを受けてるのがイスラエルである。
ネタニヤフ政権にとっては寝耳に水の話であり、イラン包囲網に穴が開いてしまった。トランプ政権の仲介によって、イスラエルは2000年にはアラブ首長国連邦やバーレーンとの国交を正常化しており、次はサウジアラビアとの関係改善だと意気込んでいた。イスラエルは、まさにはしごを外された形になってしまった。
世界は権威主義と民主主義の戦いの場になっており、ロシアや中国が前者、アメリカが後者の代表である。しかし、世界では民主主義の旗色が悪い。中東地域は圧倒的に権威主義が支配している。
中国やロシアは、アメリカによる一極支配を批判し、世界の多極化を模索しているが、その主張は中東では説得力を持つ。
今後は、世界の覇権を巡ってアメリカと中国の競争が激化するが、中東ではアメリカが中国に競り負けている。
中国に競り負けた米国 米国の中東外交は失敗の連続だった |
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【舛添要一が語る世界と日本(185)】中国の仲介でサウジアラビアとイランが外交正常化
ブリンケン米国務長官と中国の王毅外相(2021年)=cc0
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舛添 要一(国際政治学者)
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