マクロン仏大統領は、4月5〜7日に中国を訪問し、習近平主席と首脳会談を行った。また、広州訪問に際しては習近平が同行するなど、異例の厚遇を受けた。
訪中期間中に、仏紙『レ・ゼコー』と米政治専門サイト『ポリティコ』の共同インタビューで、マクロンは、台湾危機を巡って、欧州は米中の双方から独立した戦略を追求すべきだと述べた。
欧州は米中間の第3極であるべきだとして、マクロンは、「最悪の事態は、欧州が台湾問題で追従者となり、アメリカのリズムや中国の過剰反応に合わせねばならないと考えることだ」と語った。さらに、防衛産業、通貨などで、欧州は米国に依存せず、独立性を高めるべきだと主張した。
この発言に対して、欧米の議員から、中国に配慮しすぎているという批判が出たが、マクロンは、12日、オランダでの記者会見で、自らの主張の正当性を重ねて主張し、「アメリカの同盟国であることは下僕になることではない。自分たち自身で考える権利がないということにはならない」と述べている。台湾問題に関しては、「フランス政府は、『一つの中国』政策と、事態の平和的解決の模索を支持する」とした。
この立場は、日本政府と同じであり、私は国会議員のときは台湾に行くことができたが、閣僚のときは行くことができなかった。中国の反発を考慮したからである。
同じ政策であっても、岸田首相はマクロンと同じ発言はできないであろう。「下僕」ではないにしろ、ウクライナでも台湾でも、アメリカと一線を画するような態度をとれないのである。
それでは、フランスと日本のこの違いはどこから来るのか。
第一は、先の第二次世界大戦で、日本は敗戦国、フランスは連合国の一員で戦勝国、そして、国連安全保障理事会の常任理事国である。つまり、拒否権を持ち、アメリカと対等である。
敗戦国で、枢軸国のメンバーであったドイツやイタリアも日本と同様な状況に置かれており、自国内に米軍基地がある。
なおイギリスは、アメリカとは伝統的なアングロサクソンの絆があり、ときに困難はあっても、英米同盟は盤石である。
第二は、フランスが独自の核兵器を保有していることである。ロシアがフランスを核攻撃した場合、フランスは核兵器によって反撃する。つまり、モスクワやサンクトペテルブルクを攻撃する能力のある核戦力を持つというのが、フランスの核抑止力戦略である。したがって、フランスは中距離核を保有している。
イギリスも、同様な核戦略を維持している。
日本、ドイツ、イタリアは核兵器の保有を認められていない。敗戦国の地位を引きずったままである。
第三は、原子力発電である。フランスは、電力の7割以上を原子力に頼っている。そのために、ウクライナ戦争の影響を被ることはほとんどなかった。これに対して、ドイツやイタリアは、ロシアの石油や天然ガスに大きく依存していたために、電気料金の高騰など経済に大きな打撃を受けている。
4月15日、ドイツは全ての原発を停止した。しかし、再生可能エネルギーだけで必要な電力を確保できるか否か不明である。不足分を石炭火力で補うようだと、本末転倒である。今のショルツ政権は、緑の党が政権に参加しており、原発停止は既定の方針であったが、ウクライナ戦争によって実施時期が昨年末から今まで延期されていたのである。
フランスが、アメリカやロシアに対して、強い立場を維持できるのは、国民が圧倒的に支持する原子力発電のおかげである。
日本は、今年はサミット(主要国首脳会議)の議長国を務めるが、アメリカやEUと異なる日本独自の外交政策を展開できるのであろうか。平時ではなく、ウクライナ戦争という有事であるだけに、NATOとは異なる戦略を展開するのは困難であるが、「日本の国益」という観点を最優先にする発想法を政治指導者も国民も持つ必要がある。
マクロン訪中 「米中から独立」の仏外交みせつける |
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舛添 要一(国際政治学者)
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