開票に手間取ったアメリカ大統領選挙は、7日にバイデン候補の当選確実が報じられた。
トランプ大統領は、選挙に不正があったとして、最高裁まで争うと抵抗している。最終的な決着がいつになるかは不明だが、多くの国の首脳がバイデン「次期大統領」に祝意を表明しており、またトランプ与党の共和党内部からも素直に敗北を認めるべきだとの声が上がり始めている。
トランプの再選を阻止した最大の要因は、新型コロナウイルスの感染拡大である。
世界の新型コロナウイルス感染者は5千万人を超え、死者も125万人以上になっている。最悪はアメリカで、患者が990万人、死者が23万7千人という惨状である。まさにトランプ政権の対策が失敗したことを如実に示しており、厳しい批判の引き金となったのである。
新型コロナウイルスは、ネット通販の拡大、在宅勤務やデジタル化の推進など生活や仕事の様式に大きな変革をもたらしつつあるが、政治にも微妙に影響を及ぼしている。誤解を恐れずに言えば、トランプを政権の座から放逐したのはこのウイルスなのだろう。
もう一つ注目すべきは、選挙制度など、アメリカの民主主義を支える諸制度が時代にそぐわなくなっているのではないかということである。
たとえば、有権者が選挙人を選ぶ、いわば間接選挙のような仕組みが合理的なのか否か。前回の大統領選挙では、得票数ではヒラリー・クリントンが多かったが、選挙人の数でトランプ当選が決まった。
たとえば、フランスの大統領選挙は、有権者が投じた票数で当選者が決まる。極めて単純で明快である。アメリカ全体の大統領を決めるのに、州によって選挙の仕組みが異なり、選挙人の決定も総取り方式や得票比例式とまちまちである。
さらに言えば、トランプ大統領が問題にしている選挙の不正が起こりうるのは、日本のようなしっかりした選挙管理のシステムが不在だからである。
まずは、全国レベルの有権者名簿がなく、市民が有権者登録をし、それに基づいて地方の政府が名簿を作成する。市の職員などが選挙管理人となり、投票用紙の作成、投票の管理、集票などの作業を行う。地域によりその方式も様々である。
そのことが、選挙管理への不信感を生み、トランプが起こしたような訴訟につながるのである。有権者の一票一票が直接集計される仕組みにしたほうがよいが、その改革が容易ではないのは、連邦制というアメリカ建国の理念に関わるからである。
アメリカが独立を宣言したのは1776年7月4日である。アメリカ合衆国憲法は1787年9月17日にフィラデルフィアで起草され、1788年に発効した。それから200年以上が経つが、今回、投票後にペンシルベニア州の票の集計をめぐって、フィラデルフィアで両陣営が激しく衝突したのは皮肉なことである。
権力の過剰な集中を避けるために、建国の父たち、とりわけジェームズ・マディソンが考えたのは、三権分立とともに連邦制である。マディソンは、「適当な連邦制度をとるように特に勧める」と述べている(『ザ・フェデラリスト』第51篇「抑制均衡の理論」)。
アメリカの上院は、州の人口や面積にかかわらず、各州から2人を選出するのも、このような思想から出たものである。その同じ考え方が大統領選挙制度にも反映されているのである。しかし、有権者の意思が直接反映されない制度は、現代民主主義としては相応しくない。今回の混乱を機に、制度改革の議論が起こることを期待している。
アメリカの選挙制度は、時代遅れか? |
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【舛添要一が語る世界と日本(63)】米大統領選の混迷の根に、連邦制の陥穽
公開日:
(ワールド)
CC BY-SA /Elvert Barnes
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舛添 要一(国際政治学者)
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