ワシントンDCで、4月16日午後(日本時間17日未明)、菅首相はバイデン米大統領と首脳会談を行った。
これは、バイデン大統領が対面で会談する初の首脳会談であり、両首脳間で信頼関係を構築し、多岐にわたるテーマについて議論が行われた。
議論は、中国に対する対応が中心であり、共同声明では「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と明記された。日米首脳会談後の文書で台湾問題が取り上げられるのは、1969年の佐藤栄作・ニクソン会談以来、実に52年ぶりのことである。
この半世紀に、中国の国力も中国を巡る国際環境も大きく変化しており、今回の共同声明がどのような影響を持ってくるのか、容易には予測できないし、断定的な評価を下すのは時期尚早である。
しかし、いくつかの論点は指摘しておきたい。
まずは、バイデン政権の対中姿勢である。
経済問題について、トランプ前政権は、保護貿易主義とも言える強硬策を北京に対して繰り広げてきた。それは、「アメリカ第一主義」の下、アメリカの企業と雇用を廉価な中国製品から守ることを最大の目的としたものであった。
そのトランプ政権が去り、バイデン政権になって米中関係が好転することを日本は期待していたのではあるまいか。しかし、対外貿易摩擦の歴史を振り返ると、民主党政権のほうが共和党政権よりも保護主義的であり、また、人権問題についてもより強硬である。
バイデン政権もその民主党政権の流れの中にあり、香港やウイグルにおける人権問題への懸念を深め、その弾圧姿勢が台湾にも及ぶことに憂慮の念を示しているのである。
インド・太平洋軍のデービッドソン司令官は、中国が6年以内に台湾に軍事侵攻するという見解を示しており、台湾有事のシナリオ書きが進められている。
その背景には、中国が、航空母艦の建造など海軍力の増強に努めており、太平洋、南シナ海で国際法を無視して既成事実を積み重ね、海洋拠点を築いていることがある。海警法制定や尖閣諸島への連日の中国艦船の接近も、その一環である。
中国は、日本を抜いてGDPでは世界第2位にのし上がってきた。軍事力でも、核戦力をはじめ、アメリカに対抗できる軍備を整えつつある。パックス・アメリカーナに代わるパックス・シニカを樹立する戦略である。
アメリカは、その中国の軍拡に対抗し、中国の動きを封じ込めるために、中国海軍の動きを扼する地理的位置にある日本の協力が不可欠なのである。だからこそ、バイデン政権が最初の首脳会談の相手として日本を選んだのである。日本重視などと単純に喜ぶべきではない。
経済でも、軍事でも、その基盤はAI、5G / 6Gなどの先端技術である。
ところが、この分野でも中国の発展はめまぐるしい。その開発競争でも、アメリカは中国とよりいっそう鎬を削る姿勢を鮮明にしている。レアメタルの確保なども、経済安全保障の一環である。
一方、中国の立場からは、台湾は中国の一部であり、日米が台湾防衛という方針を打ち出すことは、内政干渉であり、断固として撃退すべきなのである。習近平主席の夢は、中国建国100周年の2049年までに世界一の大国になり、かつての中華帝国の地位を回復することである。
その前提は台湾を統一することである。台湾の対岸の福建省でキャリアを積んだこの最高指導者には、人一倍、その思いが強い。強権で進めている香港やウイグルの中国化も中華帝国の再建という路線の一部なのである。外交では、一帯一路政策がそうである。
今や中国は世界の工場としても、また14億の人口をかかえる巨大市場としても、不動の地位を占めている。日本もアメリカも中国と経済的相互依存関係を深めている。中国と対立することで失われる経済的利益もまた大きい。
日米が、台湾問題を前面に掲げて中国封じ込めを図ることのリスクも大きいのである。アメリカは、日米首脳会談の裏側で、ケリー特使が訪中し、中国側と環境問題について議論し、気候変動対策で協力することをうたっている。
日本もアメリカと中国の板挟みになるのではなく、米中両国を手玉にとるくらいのしたたかさが必要である。
巨大市場にして「世界の工場」中国と、どう対峙? |
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【舛添要一が語る世界と日本(86)】中国封じ込めは可能か 日米首脳会談、終わる
日米首脳会談(2021年4月17日)=Reuters
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舛添 要一(国際政治学者)
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