6月11日から13日まで、イギリスのコーンウォールで開催された先進国サミットが終了した。
菅首相としては、東京五輪開催への支持をとりつけ、また、コロナ対策への国際協力が実ったことで、大満足のようである。しかし、表面上の華やかさの裏に、様々な問題が孕まれていることも看過できない。
東京五輪は40日後に迫っている。IOCも日本側も予定通り開催する方向を崩していない。しかし、ワクチン接種状況を見ると、日本がG7の国で最も遅れている。英米をはじめ、カナダ、フランス、ドイツ、イタリアも日常への回帰が始まり、マスクを装着しない人の割合も増えている。
それに対して、日本はまだ緊急事態宣言発令中である。
6月20日に解除しても、東京をはじめ蔓延防止等重点措置を継続する地域も出てくるであろう。公衆衛生の観点からは、東京五輪開催は無謀と言わざるをえない。世界の感染症の専門家やマスコミからは、中止を勧告する声が高まっている。
高温多湿な東京でマスクが必要な状態は、苦痛である。競技中は選手はマスクを外すだろうが、大会関係者はそうはいくまい。涼しい場所を求めて札幌に競技場所を移したマラソンや競歩も、その札幌で感染が収束せず、医療崩壊状態なのである。国民からは歓迎されない大会となりそうである。
開催するか否かは、データと科学に基づいて、感染状態、医療崩壊状態などを総合的に判断して決めるべきであり、政治的思惑が優先されてはならない。「WHOが6ヶ月前までに収束を宣言しないかぎり、パンデミックのときは五輪は4年後に先送りする。その後の大会も順送りする」というルールを作るべきである。
異常気象の影響もあり、これから10年に1度は新たな感染症が発生すると予想すべきだからである。
パンデミック収束という観点から、G7が10億回接種分のワクチンを世界に提供するというのは歓迎すべきことである。世界ではワクチン格差が拡大しており、貧しい国々が未接種のままだと、パンデミックの収束は遅れてしまう。
実は、このワクチン供給も中国に対抗するためである。中国は、ワクチン支援を武器にして発展途上国への影響力を増そうとしている。習近平政権が進める「一帯一路」政策の一環である。
今回のサミットの影の主役は中国である。習近平政権は、軍拡を進め、経済力でも日本を抜いてGDP世界第2位の地位に躍り出ており、しかもAIやG5などの先端技術開発でG7と鎬を削っている。
ウイグル新疆自治区や香港での人権弾圧は激しさを増しており、次の標的は台湾統一である。2049年は、中華人民共和国建国100年記念の都市であり、それまでに台湾を統一することが習近平政権の大きな目標となっている。その手段として武力侵攻も排除されていない。
アメリカの軍事専門家は6年以内に軍事侵攻があるという見立てをしており、台湾海峡の緊張が高まっている。今回のG7が、台湾情勢に言及したのも、中国を牽制するためである。ヨーロッパからイギリス、フランス、ドイツも日本周辺に艦船を派遣して、中国包囲網を形成しようとしている。
G7主催国であるイギリスが、韓国、インド、オーストラリア、南アフリカを招待したのも、その包囲網にこれらの国、とくに韓国を加えるためである。
しかし、日本や独仏伊、それに韓国も、中国とは経済的相互依存関係を深めており、容易に英米の対中強硬策には乗れない事情もある。
様々な知恵を働かせて、競争的共存の道を模索すべきであろう。
G7サミット 影の主役は中国 |
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【舛添要一が語る世界と日本(94)】東京五輪への支持を取り付けたというが
G7が開かれた英コーンウォールのカービス湾=CC BY /Hedgehog_Digital
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舛添 要一(国際政治学者)
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