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中国若者の間で 寝そべり族「タンピン」が発生

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【藤和彦の目】30年前の日本と似ている?

公開日: 2021/06/16 (ワールド)

「奮闘」を唱える習主席=cc0 「奮闘」を唱える習主席=cc0

 中国政府は今年5月31日、1組の夫婦に3人目の出産を認める方針を示した。

 中国政府は2016年、30年以上続けてきた「一人っ子政策」を廃止したが、出生数はその後、2016年の約1800万人から2020年には約1200万人に減少した。

 今回の政策転換が、いつ、どのように施行されるのかは明らかではないが、3人の子どもを認める政策が有効に機能するのは(1)補助金を受けている貧しい家庭か(2)多くの子どもに必要な教育を与えられることができる富裕層に限られることから、出生数を増加させる効果は期待できないだろう。

 多くの夫婦は3人目どころか、2人目も望んでいないのが現状である。 

 2016年に失敗した政策(出生数の制限措置の緩和)を懲りずに実施しようとしている政府の姿勢は、国民の間に「政府は出生数の低下の真の理由がわかっていない」との不信感を広げるだけだと言っても過言ではない。

 出生数低下の要因は、教育を始めとする生活関連コストの高騰に尽きる。

 中国メデイアの試算によれば、1人の子どもが大学卒業までにかかるコストは北京市や上海市では4000万円以上になるという。

 出生数を増加させるためには、子どもを1人以下しか持たない夫婦に対する巨額の財政支援が不可欠となるが、中国政府にはその覚悟があるとは思えない。
 
 都市部を中心に物価が高騰したことで「稼ぎ」の大半が日常の支出と住宅ローン返済でなくなってしまう夫婦にとって、子どもをつくることは贅沢以外の何ものでもない。

 国民の生活の隅々まで管理しようとする中国政府でも、統制だけで子どもを増やすことはできない。むしろ統制が過ぎれば、経済自体が窒息してしまう。

 政府の失政を尻目に、国民は次第に白けつつある。

 これを象徴するのが「タンピン」という最近の流行語である。「タンピン」とは「だらっと寝そべる」という意味である。仕事をしないで寝そべって何も求めない、マンションや車も買わず、結婚もせず、消費もしないというライフスタイルのことである。

 発端は今年4月、あるネットユーザーが中国のSNSに投稿した「タンピンは正義だ」と題する文章だった。「2年もの間仕事をしなかったが、何の問題もなかった」とする書き手は、最低限の生存レベルを維持し、他人の金儲けの道具や搾取される奴隷になることを拒絶すべきと主張した。その後「寝そべり族」が都市部を中心に多数誕生したという。

  「改革開放」以来、経済の右肩上がりが続いてきた中国では、猛烈に働き、地位や財産を得て裕福な家庭を築くことが国民の目標となってきたが、不平等感の高まりと生活コストの上昇でこの目標ははるか遠く手の届かないものになってしまった。

 就職難や物価の高騰、当局による情報統制などにより閉塞感が漂っており、「90後(90年代生まれ)」「00後(2000年代生まれ)」と呼ばれる世代を中心にアグレッシブな親たちが望む出世や結婚などに関心を持たない人々が急増している。

 「タンピン」はそうした若者たちの心を見事に捉えたのだと言えよう。

 中国政府は「今年第1四半期に人手不足が深刻な業種が100を超え、そのうち7割近くが製造業であり、技能労働者の不足が顕著になっている」ことを明らかにした。若者の「3K労働」離れが進んでいる。

  中国政府が今年に入ってITサービス企業の統制を強化すると、事業をさらに拡大させる年齢の若手企業経営者が直後に辞職するケースが相次いでいる。「長いものには巻かれろ」と言わんばかりの現象である。

  「資本家のために残業や努力はしない」とする中国の若者だが、「国家のためには何でもやる」としている(6月8日付ニューズウイ-ク)。目の前の現実にはあまりに無力で「タンピン」しか選べない自分のふがいなさを、欧米に対する中国政府の強硬な態度を賛美することで必死に糊塗しているかのようにみえる。

 中国の若者の急激な変貌ぶりを見て、筆者は「既視感(デジャブ-)」を感じずにはいられない。現在の中国の若者が30年前の日本の若者とそっくりだからである。

  「若者・アパシーの時代:急増する無気力とその背景」という著書がバブル経済真っ盛りの1989年に出版されている。アパシーとはドイツ語で「外界からの刺激に無感覚になること」を意味する概念であり、1960年代の米国で生まれた。

 著者である稲村博氏は「近年極端に無気力な状態を続ける若者が急増している。病気でもないのに仕事にも就かず長期間何もしない若者が目立つようになった」とした上で、「その原因は進学一辺倒の競争社会や若者から夢を奪う管理社会などだ」と指摘している。

 若者のこのような「堕落」に危機感を抱いた中国政府系メデイアは「奮闘すること自体が一つの幸福であり、奮闘する人生こそが幸福な人生だ」とするキャンペーンを展開し始めている。「奮闘」という言葉は、習近平国家主席が発言の際にたびたび使ってきたキーワードである。習近平政権は2012年に誕生以来、「正能量(ポジテイブなエネルギー)」を前面に掲げ、市民の社会的責任を極度に要求している。

 しかしポジテイブさの押し売りを中国の若者はもはや受け止めることができない。「タンピン」というキャッチフレーズのもとで、若者は過剰なポジテイブさと生産性を求める風潮に対して静かな抵抗を示しているのである。

 若者が仕事もせずお金を持たず消費しない社会になれば、高度な経済発展は望めない。中国も日本と同様に「失われた30年」を経験するのではないだろうか。

藤 和彦 (経済産業研究所コンサルテイング・フェロー)

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藤 和彦(経済産業研究所コンサルテイング・フェロー)
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣参事官)。2016年から現職。著書に『原油暴落で変わる世界』『石油を読む』ほか多数。
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