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「金の卵産むガチョウ」アラムコの首を絞めるサウジアラビア

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【藤和彦の眼】それほどの資金難でも、イスラエルとの国交正常化には踏み切れず

公開日: 2020/08/24 (ワールド)

Reuters Reuters

 米WTI原油先物価格は、このところ1バレル=40~43ドルの範囲で安定的に推移している。コロナ禍による原油需要の急減という逆風の最中に、サウジアラビアが大増産を宣言したことにより、3月下旬に1バレル=マイナス40ドルという異常値を付けるなど大混乱に陥ったWTI市場だったが、その後、OPECプラスの協調減産などで以前の状態に戻りつつある。

 しかし引き続き気がかりなのは大混乱の要因を招いたサウジアラビアである。

 国営石油企業サウジアラムコは4月2日に日量1210万バレルと過去最高の原油生産を行ったが、このことが災いして第2四半期の決算は散々なものとなった。

 8月10日に行われたサウジアラムコの決算発表によれば、同社の第2四半期の純利益は前年比73%減の65.7億ドルと大幅減益となった。戦後最悪とも言える四半期を損失を出さすに乗り切ったことは評価されるべきだが、問題なのは配当の方針である。

 欧米の大手石油会社が軒並み配当を引き下げたのに対し、サウジアラムコの今年の配当計画(750億ドル)は維持され、純利益の3倍近い配当(187.5億ドル)が支出されたのである。最大株主であるサウジアラビア政府の意向によるものだが、第2四半期のフリーキャッシュフローが61億ドルしかなかったサウジアラムコは、今後借入額を大幅に増加せざるを得なくなっている。

 サウジアラムコは決算時に、「原油生産能力を現在の日量1200万バレルから1300万バレルに拡大する」ことを表明したにもかかわらず、今年の設備投資額は328億ドルから250億ドルに減額し、来年は200億ドルに抑えるとしている。

 サウジアラムコの設備投資圧縮の影響が既に出始めている。サウジアラムコは22日、「中国に100億ドルを投じて石油精製・石油化学複合施設を建設する合弁プロジェクトを凍結する」ことを明らかにした。このプロジェクトはムハンマド皇太子が昨年2月に北京を訪問した際に調印されたもので、当時は「サウジアラビアと中国の間で結ばれた画期的な合意」として注目を集めたが、「無い袖は振れない」ということだろう。

 富の源泉であるサウジアラムコの「今後」を犠牲にしてでも、サウジアラビア政府が配当にこだわるのは、過去数十年で最悪の財政危機に直面しているからである。既に付加価値税を3倍の15%に引き上げ、国民の大部分を占める公務員の手当てを停止するという荒療治を実施した。財政赤字の主要因は今年前半の原油価格の急落だが、ムハンマド皇太子肝いりの巨大プロジェクトが大きな負担となっていることも見逃せない。

 そのプロジェクトとは、5000億ドルを投じて紅海沿岸に大規模未来都市を建設する「NEOM」であるが、財政難にもかかわらず、ムハンマド皇太子は予定通りの実施に固執している(2020年8月18日付日本経済新聞)。

 「どこから資金を捻出すればよいのか」と頭を抱えた政府幹部たちが目を付けたのが、国営石油企業サウジアラムコだったのではないだろうか。

  「金の卵を産むガチョウ」の首を絞めるほどに資金難に陥っているサウジアラビアにとって、喉から手が出るほどほしいのは投資マネーである。

 トランプ大統領は13日、「イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が国交正常化で合意した」と発表した。UAEはエジプト、ヨルダンに続き、イスラエルと国交を樹立する3番目のアラブ系国家となる。

 今回の合意で中心的な役割を果たしたのは、ムハンマド・ビン・ザイド皇太子である。

 サウジアラビアのムハンマド皇太子と異なり、水面下で秘かに行動することが多く、あえて力を誇示するような表立った言動は控えてきたが、今回の合意でUAEのムハンマド皇太子についても世界が注目するようになった。トランプ米大統領からの信頼も厚く、米国の中東政策に大きな影響を与えているとされている。

 UAEは今後、国内産業の振興に必要なハイテク技術・資金の両面でイスラエルの支援が期待できるが、このことを何より望んでいるのはサウジアラビアだろう。

 トランプ大統領は19日、「イスラエルとUAEによる国交正常化合意にサウジアラビアも加わると予想している」と述べたが、サウジアラビアにはUAEとは異なり、国交正常化の波に乗れない大きな障害がある。

 サウジアラビアを統治しているサウド家の正統性は、イスラム教の聖地であるメッカとメディナにある「2つの聖なるモスクの守護者」に由来するからである。今回の合意のように、イスラム教の第3の聖地とも呼べるエルサレムに対するイスラエルの支配を認めてしまえば、「すべてのイスラム教徒の擁護者」という立場が大きく揺らいでしまう。

 さらにサルマン国王の兄であり、第4次中東戦争でイスラエルに手痛い敗戦を喫したファイサル国王の遺訓(他のアラブ諸国がイスラエルと国交を樹立しても、サウジアラビアはこれに加わってはならない)もある。

 サウジアラビアのファイサル外相は19日、「パレスチナ問題の解決が先決であり、UAEに追随してイスラエルとの国交正常化を急ぐ考えはない」との立場を表明したが、ムハンマド皇太子は、イスラエルとの関係強化に前向きであると言われている。

 ムハンマド皇太子が自らが掲げる「脱石油改革」をやり遂げるために、イスラエルとの国交正常化に焦れば、サルマン国王は可愛い我が子(ムハンマド皇太子)と決定的に対立する立場に追い込まれてしまう。そうなれば、サウジアラビア王族内の不満が噴出し、分裂の危機を迎えてしまうのではないだろうか。

藤 和彦 (経済産業研究所コンサルテイング・フェロー)

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藤 和彦(経済産業研究所コンサルテイング・フェロー)
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣参事官)。2016年から現職。著書に『原油暴落で変わる世界』『石油を読む』ほか多数。
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