日本経済新聞が10月31日に掲載した日米同盟に関するシンポジウムの発言録に目がとまった。主たる話題は中国の台頭や日米韓関係だが、興味を惹かれたのは、ロシアに関する発言だ。
ナイ・ハーバード大学教授「日本とロシアは中国の台頭に対して利害が一致している。ロシアを完全に孤立させたり、冷戦状態にしたりするのは避けるべきだ」
キャンベル前米国務次官補「欧米や日本のとってきた対ロ制裁の結果、中国とロシアが距離を縮めている。両国の接近を懸念している」
北岡国際大学学長「ロシアに対する強硬姿勢が本当によいかは考えものだ。西側の連帯に温度差があるのは仕方がない」
小野寺前防衛相「ロシアはこれからも重要な隣国だ。日本がウクライナ問題で欧米と同調して制裁に参加したことで、かなりの犠牲を払ったことを、米国にも理解してほしい」
当面日米両国の最大の外交・安保課題が中国とどう向き合えばよいのか、であることを考えれば、以上の懸念はもっともだ。日露関係の改善を目指してプーチン大統領と話し合いを重ねてきた安倍政権は「我が意を得たり」という以上に、「そう思うなら、日本に『対露制裁の隊列を乱すな』と言わないでほしい」と思うだろう。
この問題では米国内も割れている。懸念は外交関係者に広範に共有されている。先日も「フォーリン・アフェアーズ」誌が重鎮ミアシャイマー教授の「悪いのはロシアではなく欧米だ-プーチンを挑発した欧米のリベラルな幻想」という論文を載せていた。
しかしオバマ政権の態度は硬い。民主党らしく「自由と民主」の原理主義者も加わっているし、世界中が覇権国の言動を注視しているから、たとえ建前だけで律しきれない事情があっても、「自由と民主」に反する事態に沈黙を守る訳にはいかない。中間選挙に敗れたオバマ政権がどう外交の舵を切るか、見定める必要もあるだろうが、頑なさは簡単には変わらないだろう。
外交アクターが多様化していることも事態を複雑にしている。米政権の外にも世界各地で独裁的な非民主国家を打ち倒そうとする「カラー革命」を支援するNGO(非政府組織)がいるのだ。中国やロシアは、その振る舞いを見て、米国政府との共謀を疑っている。香港やウクライナでの経緯ゆえに、その思いを強めているだろう。
複雑な外交情勢の中で、「日本はかなりの犠牲を払った」が、問題は今後の対露政策をどうするかだ。米国政権の不興を買って我が意を通すことは簡単ではない。諸外国との貸し借りで外交資産を増やし負債を減らす、首脳との信頼関係を築く・・・営々とした積み重ねの中で、日本外交の立場を少しずつ動かしていくほかない。対中国でロシアを追い込みすぎるのが日本にとって大きなリスクだが、同時に間合いを少しずつ調整していかなければならない外交相手には、実は中国も含まれていることを忘れてはならない。