日米のトップが代わって初の外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)が開かれた。中国を名指しで批判し、厳しい姿勢を示した。これより前、Quad(クアッド=「4」を意味する英語)と呼ばれる日米豪印4カ国のオンライン首脳協議も初めて開催され、中国を意識した「価値観の共有」が演出された。
中国を「最も重大な競争相手」と位置づけるバイデン米大統領にとって、実質的な外交デビュー戦ともいえるが、逆に中国の影響力の膨張を印象付けたともいえる。
日米2プラス2は3月16日、来日した米国のブリンケン国務長官、オースチン国防長官と茂木敏充外相、岸信夫防衛相の4氏が出席して行われ、終了後に共同文書(新聞により共同発表、成果文書などの呼称もある)を出した。
中国の軍備増強や海洋での行動などが「既存の国際秩序と合致しない」との共通認識の上に、具体的に中国海警局の艦船に武器使用を認める海警法に「深刻な懸念」を表明したほか、米国の日本防衛義務について定めた日米安全保障条約第5条の沖縄県・尖閣諸島への適用を確認。
さらに、「南シナ海における中国の不法な海洋権益に関する主張や活動への反対」、台湾海峡の平和と安定の重要性、香港、新疆ウイグル自治区の人権状況への深刻な懸念なども盛り込んだ。中国に日米スクラムを組んで対抗すると謳いあげる内容だ。
同時に、共同文書には「日本は国家の防衛を強固なものとし、日米同盟を更に強化するために能力を向上させる」と明記した。
これに先立つ12日のクワッド首脳協議後に発表された共同声明は、4か国が「自由で開かれたインド太平洋のための共通のビジョンの下で結束している」と謳い、「法の支配」「民主的価値」を支持すると明記した。
クワッドは米トランプ前政権時代の2017年に局長級で始まり、2019年に外相級に格上げした。中国の影響力拡大を意識したものだが、インドは伝統的に「非同盟」を外交の基軸にしており、今回の首脳協議にも慎重だったとされるだけに、「対中包囲網」ととられることを嫌がるインドに配慮し、共同声明は中国を名指しは避けた。
「ワクチン支援での協力」を前面に出してインドを引き込んだとされ、とにもかくにも首脳協議を実現したことを米国や日本は大きな前進と評価している。
クワッド首脳協議がバイデン大統領の主導で実現し、2プラス2は米2長官の就任後初の外国訪問であり、バイデン政権の中国への対決姿勢、そこでのインド太平洋重視の考えが鮮明になった。尖閣諸島などをめぐり中国への警戒を強める日本も、4月には菅義偉首相が訪米して日米首脳会談が開かれる見通しであることを含め、日米協力を軸に中国に対抗していく構図をひとまず描くことに成功した形だ。
ただ、トランプ政権で世界的に米国を中心とした同盟関係がきしみ、やっとバイデン政権が修復に取り組み始めたところ。日米関係では政権発足早々の2プラス2と言えば聞こえはいいが、裏返せば議論の積み上げはほとんどなく、ひとまず大枠を示した段階であり、例えば日本の領海警備のありかたなど、個別に詰めていかなければならない問題が山積している。
クワッドも中国への対抗ムードを高めるうえで一定の効果はあっても、具体的に何かをすると決まったわけではない。
大手紙は2プラス2を、かなりの紙面を割いて報じた。13日朝刊は読売、産経、日経が1面トップ、朝日、毎日は1面2番手(左肩3段見出し)のほか、各紙、2、3面などで大きな解説記事を掲載した。東京は2面左肩3段見出しという小さい扱い。その東京も含め、6紙そろって同日の社説でも取り上げた。
1面に「日米『中国 深刻な懸念』」と、大きな横見出しを張った産経は3面の関連記事で「インド太平洋 進む対中シフト」として、日米だけでなく、欧州がアジアへの艦船派遣などで対中牽制に歩調を合わせているなどの記事と併せて大展開。
読売も3面をつぶした「スキャナー」欄で「『台湾有事』米危機感」と、台湾を念頭に米国の日本への協力要請が強まることに覚悟が必要というトーン。日経は3面解説記事を載せた。
朝日は2面をつぶした「時時刻刻」で日米の危機感の一致などを解説したが、日本が役割拡大を求められる可能性に言及。11面(国際面)で中国側の受け止めなども報道。毎日は2面の3分の2をつぶした「焦点」欄で日米の狙いを中心に解説し、11面(国際面)では日韓関係、沖縄・辺野古の基地建設など日米が抱える懸案、日本の防衛力整備に絡む今後の課題などを書き込んだ。
13日に一斉に掲載された社説(産経は「主張」)では各紙、中国への警戒心という点は基本的に共通。特にトランプ政権の同盟軽視からの転換ということで、バイデン政権が〈アジアに積極的に関与していく姿勢を鮮明にしたことは、地域の安定にとって極めて重要〉(日経)といった受け止めが一般的といえる。だが、読み進むと、そのトーンは大きく異なる。
まず、対中国で最も〝戦闘的〟な産経からみてみよう。
〈中国の脅威に対して日米同盟の抑止力を強化することが平和を保つ近道である。……日米が、中国の「既存の国際秩序と合致しない行動」を問題視し、抑止していく決意を示したことは評価できる〉
と最高レベルの表現で評価。そのうえで、
〈歓迎できるが、日本は安堵(あんど)するだけではいけない。対中抑止の方針に魂を入れる必要がある〉
として、日本の防衛能力向上が文書に盛り込まれたことを踏まえ、
〈これを口約束に終わらせてはいけない。菅首相には防衛力強化に向け、防衛予算の思い切った増額を決断してもらいたい〉
と書き、軍拡をあけすけに求める。
産経はバイデン政権の「国家安全保障戦略」暫定指針発表を受けた7日主張で
〈国益に資する中国との協力は排除すべきでないとし、気候変動に加え医療・保健、軍縮といった分野での「中国政府の協力を歓迎する」とわざわざ表明した〉
と、懸念も示していただけに、2プラス2には安堵したようだ。
読売も、
〈日米は、中国の独善的な行動は許さないというメッセージを今後も送り続ける必要がある。……バイデン政権が日本とともに、「自由で開かれたインド太平洋」に積極的に関与する姿勢を示した意義は大きい〉
と歓迎しつつ、より根本的に、
〈従来通りの姿勢では、中国の「力による現状変更」を阻止できなくなる恐れがある。日米同盟を強化すると同時に、日本自らが対処力を高めなければならない〉
と、産経と同様、日本の主体的な努力の必要を強調。
〈政府は日米の役割分担を含め、同盟の抑止力を強化する具体的な方策を真剣に検討することが大切である〉
として、日米共同演習や自衛隊による米艦・航空機防護、ミサイル防衛の具体的議論を進めることなどを要求する。
日経も、
〈大事なのは……冷戦時代の「米国に頼っていれば大丈夫」という志向にもとらないことだ。……日本も応分の負担をしなくてはならないということだ〉
と書く。
こうした安倍晋三前政権以来の親米保守派の主張の背景には、米国に見捨てられる恐怖心ともいえる感覚がある。在日米軍駐留経費に関する2月25日の読売は
〈米政府は近年、……国防予算を大幅に増額してきた。一方で、バイデン氏は「国内の再建」を最優先する立場を表明している。トランプ前大統領ほどではないとしても、同盟国に対して、より大きな貢献を求める姿勢は変わらないだろう。安全保障関連法の下で、自衛隊が米軍の艦艇や航空機を防護するなど、日本の役割は広がっている。同盟の抑止力を高めるために何が必要かを、日本自身が進んで検討し、実行に移すことが重要だ〉
と指摘している。こうした考え方が今後も日本政府の基本スタンスになっていくだろう。
これに対し、朝日、毎日、東京は、スパッと割り切る書きぶりではなく、歯切れは悪い。
朝日は
〈最大の課題は、軍事的にも経済的にも台頭著しい中国にどう向き合うかである〉
との問題意識を立て、特に
〈(南シナ海、香港、新疆ウイグルなど)強権的な手法に問題があるのは確かだ。共同発表が、これらに「深刻な懸念」を示し、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調したのは当然である〉
と書く。
毎日も
〈ルールに基づく国際秩序に挑戦する中国に連携して対処する、という強い姿勢を鮮明にしたといえよう。……中国の突出した行動を日米がけん制することはできるだろう。同盟の結束力が強まれば、その効果も高まる〉
と、対中協力を評価する。
その一方、朝日は
〈日米両国ともに、中国とは経済面などで深い相互依存関係にある。気候変動や新型コロナ対策など地球規模の課題に取り組むうえでも、協調は欠かせない。米中対立を先鋭化させず、健全な共存をめざす土台として日米同盟をいかす知恵が求められる〉
として、
〈日本が米国の対中戦略にのみ込まれ、米中の軍事対立の最前線に置かれるようなことがあってはならない〉
とくぎを刺す。
毎日も
〈重要なのは、安全保障における米国との連携と、経済での中国との協力をどう両立させるかだ〉
〈同盟を中国との覇権競争の道具にしてはならない。日本の国益は、周辺地域の安定と繁栄にかかっている。そのためには、中国とも共通利益を探る戦略的な対話が欠かせない〉
と、軍事面の対立をあおるような議論を牽制する。
東京は
〈中国とは対抗しながらも共存を図ることを忘れてはならない。自由主義諸国の結束はそのためにも必要だ〉
と、共存の重要性を前面に出し、
〈バイデン政権が同盟関係を重視し、同盟国と意見調整を重ねることを歓迎したい〉
としつつ、対中で
〈「競争と協力」のバランスを崩さぬよう心掛けてほしい〉と注文する。
このように、朝日、毎日、東京の3紙は、経済関係のほか、気候変動や新型コロナ対策など、バイデン政権も中国と協力姿勢を示す分野が多いことも踏まえ、中国への対決姿勢一辺倒にならないよう抑制的な対応を求めている点で共通する。
もう一つ、米新政権発足から最初の大イベントだったにもかかわらず、トランプ政権の負の遺産ともいえる諸点について、2プラス2がほとんど素通りし、この点に言及する論調も少なかった。
沖縄・普天間飛行場の辺野古移設を「唯一の解決策」と今回の共同文書にも明記したが、沖縄県の反対のほか、工事費の膨張など問題が指摘されても、日米とも思考停止状態だ。
安倍政権による防衛装備品(武器)の〝爆買い〟も、例えば、陸上イージス導入決定から撤回までのプロセスは不明朗なままで、代替の「陸上イージス・システム搭載艦」2隻建造方針が決まったものの、コストなどはなおはっきりしない。
F35戦闘機など高額な米国製兵器の大量購入などを含め、トランプ政権の自国産業優遇策の一環に安倍首相(当時)が応じたものだが、バイデン政権も自国大事という点では変わらず、日本側からアクションを起こす気配もない。
長年の懸案ということでは、在日米軍の特権的な地位問題もある。米兵の犯罪の扱いなど地位協定や首都圏の空域が米軍優先になっていることなどがことあるごとに問題になり、最近も毎日新聞の「特権を問う」とのキャンペーン記事で、都心を米軍ヘリが低空を飛び、「スカイツリーに6回接近」(3月5日朝刊)など写真入りで報道されたが、日米両政府は頬っ被りを決め込んでいる。
2プラス2を受けた社説では、朝日が
〈米軍普天間飛行場の辺野古移設を「唯一の解決策」と繰り返しながら、日米地位協定の見直しには言及がなかった。これでは「同盟強化」を唱えても、幅広い国民の理解は得られまい〉
と書いたほか、東京は米軍駐留経費に関する社説(3月4日)で
〈F35戦闘機など高額な米国製兵器の大量購入や、沖縄県名護市辺野古での米軍新基地建設をこのまま続けていいのかも、検討を要する喫緊の課題である〉
と指摘する。産経や読売には、こうした視点は見当たらない。
中国は日米のスキを突こうと様々なことを仕掛けてくるだろう。隙を見せないためにも、中国とどう向き合っていくかを考えるにあたって、日米間の不合理な関係を整理することが欠かせないはずだ。
読売、産経、日経は日本に防衛増強求める |
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【論調比較・2プラス2】朝毎東は中国との「対決一辺倒」を戒め
Reuters
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岸井 雄作(ジャーナリスト)
1955年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。毎日新聞で主に経済畑を歩み、旧
大蔵省・財務省、旧通商産業省・経済産業省、日銀、証券業界、流通業界、貿易 業界、中小企業などを取材。水戸支局長、編集局編集委員などを経てフリー。東 京農業大学応用生物科学部非常勤講師。元立教大学経済学部非常勤講師。著書に 『ウエディングベルを鳴らしたい』(時事通信社)、『世紀末の日本 9つの大 課題』(中経出版=共著)。 |
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