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ロシアの侵攻 米国のイラク戦争に酷似

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【軍事の展望台】キエフ陥落でもゲリラ戦の公算 第二のアフガンでロシア「大国」から転落か

公開日: 2022/03/16 (ワールド)

軍事訓練を受けるウクライナ市民=Reuters 軍事訓練を受けるウクライナ市民=Reuters

田岡 俊次 (軍事評論家、元朝日新聞編集委員)

 2月24日にロシア軍がウクライナに侵攻を開始したことは国連憲章等の国際法に違反した侵略行為であることは明白で、この暴挙に対し国連総会で加盟国193カ国中ロシア非難決議に141カ国が賛成し、反対は5カ国、棄権が40カ国、無投票12カ国にすぎなかったのも当然だ。

 国連憲章は武力攻撃が発生した場合(51条)あるいは、安全保障理事会が「軍事的措置」を認めた場合(42条)にしか武力行使を許していない。今回ロシアはウクライナから攻撃を受けていたわけではなく安保理の容認を求めていなかったから、米国は、ロシアを激しく非難するが、2003年3月19日に始まった米国のイラク攻撃はこれと共通する点が多い。

 怪しげな亡命者の情報をもとに米国が「イラクは大量破壊兵器を廃棄し、検証に協力する義務に反している」と力説したため、イラクは再査察を受け入れ2002年11月から査察が始まった。

 IAEA(国際原子力機構)とUNMOVIC(国連監視検証査察委員会)が派遣した査察団はイラクの妨害は受けず米国が疑わしいとしたすべての地点を含む978箇所の査察をし「イラクの核能力は1997年までに解体が済んでおり、再開の証拠はなかった」、「生物・化学兵器の備蓄や活動の証拠は発見できなかった」と2003年3月7日に国連安保理で報告した。

 米国はなお安保理の武力行使容認決議を得ようと湾岸戦争でのイラク攻撃決議まで持ち出したが、10年以上も前に終わった戦争時の決議は他国に相手にされなかった。フランスのド・ビルパン外相は国連総会で「まだ疑問が残ると言うのなら査察を続ければよい」と武力行使に反対、盛大な拍手を浴びた。今回のロシア非難決議の際と似た光景だった。

 ド・ビルパン氏の国連演説をCNNが放映しなかったことが当時問題となった。これはテレビ局の自主的判断だったろうが、今回ロシアが政府に不都合な報道を処罰する法律を定めたことはCNNの放映カット事件を思い出させる。

 米国は武力行使の容認を国連で得ることをあきらめざるをえず、ブッシュ大統領は「米国が安全保障に必要な行動をとるのに国連の許可を得る必要はない」との暴言を吐き、米国の「ユニラテラリズム(一方主義)」は露骨となった。

 ブッシュ政権は2001年のニューヨーク貿易センタービルとワシントン郊外の国防総省に対する大規模テロ事件の背後にサダム・フセインがいて、アルカイダと通謀しているとの偽情報を流布して米国民を興奮させた。だが、サダム・フセインは1980年米国の教唆と支援によりイランに奇襲侵攻し、イランのイスラム政権を倒そうとして失敗、巨額の対外債務に苦しんでクエートに侵攻した人物だ。

 イスラム過激派は彼を「アメリカに捨てられた犬」としていたこと、また彼はマホメットが唱えた偶像崇拝の禁忌、女性の保護・隔離に背いて自分の銅像や肖像画を国内にあふれさせ、顔丸出しで戦闘服姿の女性兵士に銃を担いでパレードに参加させるなど、罰当たりを極めた独裁者だったから、イスラム教の頑固な信者集団アルカイダが彼と共同することはありえないことは分かっていたはずだ。

 プーチン大統領は今回の侵攻後「ウクライナは核兵器など大量破壊兵器の研究を進めている」「東部のロシア系住民のジエノサイドをしている」などの偽情報を流して侵略を正当化しようとしているが、この点でも米国のブッシュ政権と似かよっている。

 ウクライナはソ連時代からロケット兵器開発の技術があって長射程の連装ロケット砲を今も生産し、射程500キロの弾道ミサイル「フリム2」をサウジアラビアの資金により開発している。射程300キロ以上で500キログラム以上の弾頭を運べる弾道ミサイルの輸出はウクライナを含む35カ国が合意した「ミサイル技術管理体制」で規制されているから、輸出用は射程280キロにしているようだ。(「軍事研究」今年4月号)

 ロシアにとってはモスクワに届く射程500キロの弾道ミサイルは嫌な兵器ではあろうが、ウクライナが核弾頭や生物・化学兵器を開発している証拠は無いから、ブッシュ大統領の言い掛かりと同様だ。

 イラク攻撃に対しては米国内の十数都市をはじめ、ヨーロッパ、日本など32カ国でときに10万人を超えるような大規模な反戦デモが起こった。今回は開戦後約2週間でロシアでも65都市に反戦デモが拡がり、すでに1万4900人(3月14日報道)が拘束されたと報じられる。2003年の反戦デモ再現の感がある。

 米国のイラク攻撃には独、仏、露などヨーロッパ諸国をはじめ多くの国が批判的か懐疑的だったから、出動した米軍の地上戦兵力10万人と共に攻撃に加わったのは英国3万人、オーストラリア2000人、ポーランド工兵隊2000人だけで、日本など他の諸国は戦闘が一段落した後に治安確保と復興計画に部隊を参加させた。

 1991年の湾岸戦争では多国籍軍の地上部隊は28カ国の78万人だったが、2003年からのイラク攻撃に積極的に米軍に加担、参戦したのはほぼ英国だけに近かった。今回ロシアのウクライナ侵攻に基地を貸すなど協力しているのはべラルーシだけだから、付いて来る子分が少ない点でもイラク攻撃に似ている。

 当時の米国ではディック・チェニー副大統領、ドナルド・ラムズフェルド国防長官ら、ブッシュ大統領の取り巻きが強硬な主戦論者で「兵力7万人程を出せば数週間で片付く」などと楽観論を唱え、首都バクダッドの制圧後の統治など全く考えていない様子だった。開戦直前の2月25日、日系人の米陸軍参謀総長エリック・シンセキ大将は上院軍事委員会で「イラク攻撃後は数十万人の兵力を数年間駐屯する必要があります」と述べ、これに激怒したラムズフェルド長官は通常2期つとめる陸軍参謀総長を1期で解任した。

 今回のロシアのウクライナ侵攻でも、プーチン大統領は機嫌取りの取り巻きや情報機関の心地よい楽観論に耳を傾け、「おそらく短期間に首都キエフを制圧し、ゼレンスキー政権を倒して親露政権を作ればウクライナのNATO入りを防ぎ、非軍事化、中立化ができる」と思い、その後新政権がウクライナ国民を統治することの困難を十分考えていなかったのだろう。俊才もお世辞には弱いのだ。

 ウクライナ陸軍は14万5000人、それに空挺隊8000人、海軍歩兵(海兵隊)2000人を合わると15万5000人でロシア軍の侵攻兵力約15万人と同等だ。

 ウクライナは2015年に徴兵制を復活し、18か月の兵役で訓練済みの予備兵が90万人もいるから計105万人の地上兵力があり、侵攻しているロシア部隊の7倍の兵力を有する。

 歩兵が携帯する対戦車ミサイルを国内で量産し、米国製の高性能対戦車ミサイル「ジャベリン」(射程2500メートル)1200発を輸入・供与され、英国製の対戦車ミサイル2200発も供与されたから、合計7800発を保有していたと推定される。

 ロシア軍は航空基地をまず攻撃して航空優勢をほぼ確保しており、地形は平坦だから多数の戦車、歩兵戦闘車が展開して突進すれば首都キエフに突入するか、遠巻きにして兵糧攻めにして降伏させる可能性は十分ある。

 だが、当初「2―3日で首都陥落か」と言われたロシア軍の進撃は遅滞した。15万人のロシア軍は国境地帯での演習に参加していたのだから、多分本格的戦闘をするだけの弾薬、燃料、食料を持参しておらず、急に出撃を命じられて越境はしたものの、補給の不足で一時停滞したようだ。イラク攻撃で米軍は快進撃をしたがイラク民兵の妨害を受けて補給が追い付かず、1日1食の部隊も出て6日間停止せざるを得なかった。

 ウクライナでロシアも同じ状況になった。冷戦時代の米軍の計算では、ロシアの自動車化歩兵部隊は1日1人当たり90キログラムの補給が必要とされたから15万に対して1日1万3500トン、トラックが平均5トンを運ぶとして毎日2700台が前線に到着する必要があるから大渋滞が起きた。

 だが、補給不足は一時的な現象だからロシア軍は再び前進、侵攻開始から3週間後にはキエフ中心部に15キロの地点に到達、同市を大砲の射程内に入れて包囲する陣形になった。

 人口296万人の大都会に突入して市街戦になれば、戦車は対戦車ミサイルに狙われやすいし、双方の軍と民間人に万単位の死傷者が出て町は瓦礫の山となりそうだ。そこに親露派の政権を擁立しても、それはウクライナ国民の恨み、憎悪の的となるから、ロシア軍は突入は控えて包囲を続け、兵糧攻めで降伏させる戦略をとる公算が高いと考える。

 だが、首都を陥落させても攻撃側の勝利に終わるとは限らない。国民の抗戦意志が失われない限り、戦争は続き、攻者の敗北で終わった例は少なくない。

 1812年9月にナポレオンはモスクワを制圧したが市街は大火災となり、冬が迫るのに兵舎がなく、撤退を余儀なくされた。その帰途でフランス軍とその同盟国軍はロシア軍の追撃により致命的な損害を受け、ナポレオンの没落を招いた。

 日本軍は1937年12月に、蒋介石の率いる中華民国の首都南京を占領、日本各地で戦勝祝賀の提灯行列が行われたが、蒋介石は奥地の重慶に移って抗戦を続け、8年後には日本は敗戦を迎えた。

 ソ連は1979年、友邦だったアフガニスタンでイスラムゲリラが支配地を拡大、社会主義政権が倒れそうになり、それがソ連南部のイスラム地域に波及するのを恐れて出兵、首都カブールを確保したが、ゲリラ制圧はできず、8年後に撤退、軍事的威信を失ったため東欧諸国の離反を招き、ソ連は崩壊した。

 米国は2003年3月イラクに侵攻、3週間で首都バグダッドを制圧、ブッシュ大統領は5月1日、空母「リンカーン」艦上で勝利宣言をしたが、これは当時から見るからに馬鹿げていて、イラク人のゲリラ、テロによる米軍、親米政権に対する抗戦に加えて、宗派、民族間の争いなどに巻き込まれ、統治は困難を極め、侵攻から8年9か月後の2011年12月にイラクから撤退した。

 この戦争では米英軍の死者4807名、民間の請負業者が1554名、米国が作ったイラク治安部隊は1万6623名、民間人は11万6000人以上が死亡したとされるが、約220万人が国外難民、約100万人が国内で避難民となり、そのために病死した人が多く、米国の公衆衛生学者の調査ではイラク戦争による死者は総計50万人と推計される。

 この死者はすべて米軍に殺されたわけではないが、米軍の侵攻がなければ大混乱は起きなかったのだから、偽情報に踊らされて戦争を始めた米国に主たる責任がある。生命の安全は人権の最たるものだから、これほどの大惨事を起こした米国が謝罪もせず、他国の人権侵害を批判するのは整合性に欠けると思わざるを得ない。

 今回のロシアのウクライナ侵攻は、米国のイラク侵攻と同様、ウクライナ国民に多大な苦難、被害を与える結果になるだけでなく、ロシアにも大損害になりそうだ。

 ロシア軍がキエフを制圧し、親露政権を作っても、長期のゲリラ戦になる可能性が大きい。仮に人口4300万人のうち0.1%、4万3000人がゲリラとなれば、隣接するポーランド、ルーマニアなどは元から反露的、NATO加盟国だからゲリラが拠点を設け、米国等からの武器供与を得て、ウクライナに出没するのを支援することになりそうだ。

 テロリストが出入りするのを黙認し、ウクライナの親露派を狙うだけでなく、ロシアからの独立をめざして蜂起し2000年に制圧されたチェチェン人のようにロシア本国に潜入して活動することも起きかねない。米国の9・11テロ事件の後「テロは絶対悪」の標語が流布したが、欧州には「一方のテロリストは他方の英雄」との諺があり、それが当たっている場合も少なくないのだ。

 ロシア陸軍は兵力28万人、陸上自衛隊の約2倍に縮小されている。ほかに空挺軍が4万5000人、海軍歩兵(海兵隊)が3万5000人いるから、それを加えて地上戦部隊は36万人だ。

 ゲリラ制圧には相手の数倍の兵力が必要だし、日本の1.6倍の面積があるウクライナを抑え込むにはロシア軍は地上戦部隊全員を投入しても足りないかもしれない。ロシアには200万人の予備役兵もいるが、予備役召集まですればプーチン政権はウクライナ侵攻の失敗、苦戦を国民に対し認める形になる。

 一方、ロシア軍が撤退すれば、ウクライナに敗北したことになり、プーチン大統領の失脚だけでなく、すでにGDPでは韓国に次ぐ11位になっているロシアは大国の地位を失う結果になりそうだ。

 今回のウクライナ侵攻はソ連の崩壊をもたらしたアフガニスタン出兵の二の舞になる可能性が高い愚行だ。2000年から大統領だったプーチン氏の周囲にはその危険を説くような気骨のある人物がいなくなっていたのだろう。
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田岡 俊次(軍事評論家、元朝日新聞編集委員)
1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、筑波大学客員教授などを歴任。82年新聞協会賞受賞。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』(朝日新聞)など著書多数。
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