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米国防衛目的のイージス・アショアに7000億円払う日本政府

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【軍事の展望台】日本の防衛力はかえって形骸化へ

公開日: 2019/05/30 (政治, ワールド)

「かが」に到着したトランプ夫妻=Reuters 「かが」に到着したトランプ夫妻=Reuters

田岡 俊次 (軍事評論家、元朝日新聞編集委員)

 トランプ米大統領は5月28日、横須賀に停泊中のヘリコプター空母「かが」(満載2万6千トン)を訪問し同盟関係の強化を称賛、「日本は新たにステルス戦闘機F35を105機購入し、同盟国として最大のF35部隊を持つことになる」と演説した。

 米空軍、海軍、海兵隊はF35を計2440機調達する計画で、他に12カ国が採用を決めている。イギリスは138機を発注、トルコが100機、イタリアが90機、オーストラリアが72機、などだ。

 日本は2011年にF35Aを42機発注し、さらに105機購入する計画で計147機になるから、たしかに米国に次ぐ第2のF35保有国になる。トランプ氏は米国内に向け、日本への売り込みに成功したことを誇った。

 日本はF15J戦闘機を201機持つが、うち初期に納入された約100機は電子装備の近代化改修をせず、2025年ごろから退役するから、それと交代するためF35Aを105機導入することは妥当と考えるが、空母用のF35Bの42機購入は合理性を欠く。

 「かが」と同型の「いずも」の2隻は、本来米海兵隊用に開発されたF35Bを搭載するよう改装される。F35のA型は空軍用、C型は海軍の空母用で、B型は操縦席の後方に、下向けの強力な扇風機を付け、短距離の滑走で発艦、垂直に着艦できる。空母のようにカタパルト(発艦用の加速装置)や、着艦用の拘束装置(伸縮するワイヤロープ)を持たない揚陸艦でも戦闘機を運用可能なのが特色だ。

 だが「いずも」級は大小のヘリコプターを14機しか搭載できず、F35Bを積んで「空母化」すると言っても、多くの戦闘機は積めない。敵機は低空飛行で水平線のかげに隠れて接近、対艦ミサイルを発射して来る。空母はそれを防ぐため、大型のレーダーを付けた「早期警戒機」で上空から見張る必要がある。

 米空母は双発ターボプロップのE2C/Dを4機ずつ積んで交代で警戒させるが、「いずも」級はそれを積めないから、対空監視用レーダーを付けたヘリコプター(あるいは将来V22オスプレーを改造か)を使うしかない。

 早期警戒用ヘリを4機のほか、発着艦に失敗して海に落ちた航空機の搭乗員の救難用ヘリコプター2機(1機では整備中で緊急発進できないことがある)を搭載すれば、ヘリコプター14機が入る飛行甲板の下の格納庫に戦闘機8機しか積めない。

「いずも」の空母化は単なる国家的虚栄心

 海上自衛隊は「いずも」級2隻の前に、より小型のヘリ空母「いせ」「ひゆうが」(満載1万9千トン・ヘリ11機搭載)を建造している。早期警戒ヘリや救難ヘリはそちらに乗せて随伴させるとか、戦闘機の一部を飛行甲板上に露天係止して10数機を搭載することも不可能ではないが、海水の飛沫を浴びる甲板上に高価な電子装備の固まりのような戦闘機を並べれば故障のおそれがあるだろう。

 「いずも」級の空母化は、尖閣諸島が占領された場合、「水陸機動団」(佐世保、2100名)が上陸作戦で奪還するのを支援するのが第一の目的だ。だが東シナ海は中国軍にとり最重要の「台湾正面」だから、そこを担当する中国の東部戦区には、台湾空軍と同等の約4百機の戦闘・攻撃機が配備され、うち3百機近くは新しい「第4世代機」と見られる。中国空軍の操縦士の年間飛行訓練は約150時間と米空軍は見ており、航空自衛隊と同様だ。

 航空自衛隊は那覇にF15J戦闘機約40機を置いており、九州の新田原(宮崎県)築城(福岡県)から空中給油で少数機を尖閣空域に出せるとしても数的には決定的劣勢だ。電子装備では日本側が優位にありそうだが、それで約5対1の機数の差を補えるかははなはだ疑問だ。8機ないし10余機の戦闘機を積む小型空母を出しても大勢は変わらない。航空優勢(制空権)を確保できないのに「水陸機動団」を出動させれば、海上で全滅の危険が大きい。もしすきを突いて上陸に成功しても、補給、増援が途絶えては降伏のほかない。逆にもしこちらが制空権を握れるなら、中国軍が尖閣に侵攻することはできない。

 空母を1、2隻持つ国はイギリス、フランス、ロシア、イタリア、インド、中国、ブラジル、タイだが、米国の10万トン級原子力空母11隻(各約75搭載機)とは比較にならず、空母は年間約3カ月はドックに入って整備点検をし、その後再訓練をして出動可能となるから1、2隻の空母は戦力というより、威容を誇りたい国家的虚栄心の表れの面が強い。「いずも」級の空母化を「攻撃能力の保有」と批判する人も多いが、8機から10機余りでは観艦式の花形以上の役に立ちそうにない。

 トランプ氏を「かが」に招いても、ロールスロイスやキャデラック、ポルシェを何台も持つ人を軽自動車に乗せ「私も車を買いました」と言うようなかっこうで、威容を示すことにはならない。ただ「F35Bを42機買います」との約束の現実性を示し、機嫌を取る役には立つだろう。

 トランプ氏が天皇陛下と会見した27日には、原田憲治防衛副大臣が秋田県庁を訪れ、佐竹敬久知事、穂積志秋田市長と会談、イージス・アショアを秋田市の陸上自衛隊新屋演習場に配備することを伝達した。原田氏はトランプ氏が「かが」を視察した28日には山口県を訪問、同県萩市の陸自むつみ演習場への配備を村岡嗣政知事に通告した。

 これも日本政府が米国の要求を呑み、2基で当初約2400億円、将来の維持・運用費を含めると米国に4389億円を支払う「イージス・アショア」(陸上イージス)の配備を確実に履行することをトランプ氏に示すための行動と考えられる。この金額にはミサイルは含まれず別売りで、1発35億円ないし40億円とみられ、2基に定数の24発ずつ買えば1800億円前後になる。一部の用地買収や建設を含めると7000億円は掛かりそうだ。

秋田と山口に配備する理由

  イージス・アショアは自衛隊が要望したものではなく、2014年から約10年先を見通した「防衛計画の大綱」と同年から2018年度の「中期防衛力整備計画」にも入っていなかった。防衛省の計画ではミサイル防衛用の「SM3」を搭載するイージス艦を4隻から8隻に増やすことが決められ、それで日本全域を継続的に守れる、としていた。

  イージス・アショアの日本への配備は米国が強く求め、日本政府がそれを呑み、中射程(約50キロ)、短射程(数キロ)の対空ミサイルの経験しかない陸上自衛隊に射程約2500キロの超長射程ミサイル「SM3ブロックⅡA」を押し付けたものだ。

 イージス艦の垂直発射機には90発ないし96発のミサイルが入れられ、対潜水艦ミサイルや対航空機ミサイルを入れても、弾道ミサイルに防衛用のミサイル50発程は積める。だが、現在の「SM3ブロック1a」でも1発16億円だったから1隻に8発しか搭載していない。

 北朝鮮は中距離弾道ミサイルを数百発配備している、と政府も言っている。イージス艦は8発を発射すれば「任務終了、帰投します」とならざるをえず、政府が「万全の態勢」というのは「虚偽広告」であり、実はミサイル防衛は形だけだ。ミサイル防衛に関係した制服幹部たちに「イージス・アショアの導入よりも、ミサイルの弾数を増やす方が合理的では」と私が言うと、ほぼ例外なく「おっしゃる通り」の反応がある。

 イージス・アショアが配備される秋田は北朝鮮北部から発射される弾道ミサイルがハワイに向う軌道の下で、山口はグアムへのコースの下だ。東京を狙うなら能登半島上空、大阪なら隠岐島付近を通過する。時速1万キロないし2万キロの弾道ミサイルの迎撃は正面から行うのが理想的で、横方向からだと命中率は低下する。イージス・アショアの日本への配備は日本防衛よりも米国領の防衛を狙っていると考えられる。

 米国はルーマニア、ポーランドにイージス・アショアを配備中だが、1箇所約8億ドル(約900億円)の経費は米国が全額を出している。日本はそれよりはるかに高い経費を全額負担させられる。

 防衛省が米国防総省を通じて装備を発注するFMS(有償軍事援助)の契約高は第2次安倍政権が成立した2012年度に1372億円だったが、今年度には7013億円と5倍余になった。

 米国があの手、この手で売込むことも多いのだが、名目上は「援助」だから代金は前払い、金額、納期も米国の都合で変更できる。納期より1年以上たっても届かない部品などが昨年度末で351億円、2年以上も仮払金の清算がされていないものが520億円もあり、防衛省、自衛隊を悩ませている。FMS契約が急増するにつれ、未納、未精算は拡大しそうだ。

 「日米同盟深化」をスローガンに、ひたすら米国に取り入ろうとし、日本の防衛にあまり役に立たない巨額な装備を米国から購入し続けることは、日本の防衛力の形骸化をもたらす結果になりそうだ。
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田岡 俊次(軍事評論家、元朝日新聞編集委員)
1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、筑波大学客員教授などを歴任。82年新聞協会賞受賞。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』(朝日新聞)など著書多数。
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