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ウイグル族への「ジェノサイド」認定は慎重に

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【軍事の展望台】日本政府は中国に中立調査団の受け入れ勧告を

公開日: 2021/03/01 (ワールド)

新疆ウイグル自治区=Reuters 新疆ウイグル自治区=Reuters

田岡 俊次 (軍事評論家、元朝日新聞編集委員)

 米国の前トランプ政権のポンペオ国務長官は同政権最後の日、1月19日に「中国政府が新彊ウイグル自治区でイスラム系少数民族であるウイグル族に対しジェノサイド(民族殲滅)を行っている」との声明を発表した。バイデン新政権の国務長官に指名されていたブリンケン氏も同日の米上院外交委員会の公聴会でそれに同意を表明した。

 2月22日にはカナダ下院も「中国がジェノサイドを行っている」とする決議案を採択し、政府にこれを公式見解とするよう要求した。

 日本政府は1月20日の記者会見で加藤官房長官が「人権問題に懸念し注視している」と慎重な回答をし、外務省は「ジェノサイド」とは認めない姿勢を示している。

 新彊は古代中国で「西域」と称され、紀元前の漢や唐の時代から断続的な中国の支配下にあった。1775年に清の乾隆帝がモンゴル人のジュンガル部族を駆逐して西域を完全に平定し新彊(新領域)と名付け、1884年に新彊省となった。

 人口は約2500万人で、うちトルコ系で大部分がイスラム教徒のウイグル人は約1200万人とされる。石油、天然ガスの埋蔵量が豊富で近年急速に発展し、漢族の移住者が増大したため、民族間の格差が広がりウイグル人などの反感が高まった。

 私は2000年に観光で新疆を訪れたことがあるが、大平原に伸びる高速道路、林立する風力発電機、点在する油井の塔、開発が進み埃っぽい首都ウルムチなど、風景はアメリカが1846年にメキシコから奪取したテキサスに似ていた。

 ホテルや商店のカウンターには漢族が座り、コーカサス系容姿のウイグル人はドアボーイ、ウェイター、部屋掃除などに雇われており、テキサスでの白人とヒスパニック(スペイン・インディオ系)との関係を思わせた。

 漢族による支配に対し、新彊ウイグル自治区西部、東トルキスタンの独立を目指すイスラム運動が起り、国際テロ組織アルカイダとの密接な関係があるとされる。米国も「東トルキスタン・イスラム運動」をテロ組織と認定してきた。

イスラム過激派のテロ活動

 2008年8月には同自治区の西端カシュガルで武装警察隊が襲撃され、警官16人が死亡、その後もイスラム過激派の攻撃が相次ぎ09年7月には自治区首都ウルムチでウイグル族のデモ隊と漢族デモ隊が衝突、197人が死亡、1700人が負傷する大暴動となった。

 13年10月には北京天安門前で自動車で突入しようとして、5人死亡、38人が負傷した。14年3月雲南省昆明駅で刃物を持った8人が無差別に市民を襲って死者34人、負傷者143人が出た。同年4月にはウルムチを習近平主席が視察した際に自爆テロが起き、3人が死亡、79人が負傷したなどのテロが続発した。

 2011年から始まったシリア内戦ではウイグル人約5000人が反政府部隊アル・ヌスラなどに参加し、特に凶悪な「イスラム国」にも100人以上がいたと報じられる。

 当時米国は「中国はイスラム過激派が他国に潜入するのを防止していない」と非難していたし、中国にとってもシリア帰りのウイグル兵は脅威だから「テロとの戦い」に必死となり、イスラム過激派の逮捕、監視を徹底的に行うだけでなく、ウイグル人の同化を進めて禍根を絶とうとした。

 ウイグル人が新彊の発展から取り残され、就業の機会が乏しく、中国の支配に反感を持つのは中国語の読み書きが十分できないのが一因だから、教育を盛んにすること自体は悪くない。米国がメキシコに侵攻して奪ったテキサス、カリフォルニア等現在の7州で、メキシコ人に英語教育をし、米国人への同化はかったのと同様だ。

 ただそのやり方が中国式で大規模で急激だ。無料で全寮制、週末には帰宅させるのが一般的なようだが、児童だけでなく、成人も説得して一種の「義務教育」を受けさせ、成績や態度によって卒業させるようだから、イスラム教徒に対する弾圧、洗脳のそしりが生じる。

 「再教育施設に100万人を拘束している」とも言われるが、人数には疑問があるし、写真を見れば施設の窓が大きい点で牢獄よりは学校に近い。敷地の周囲は鉄柵で囲われ、見張りの塔もあって、収容所風でもあるが、こうした施設は反対派の襲撃を受けることもあるから防御のためとも考えられる。

 「強制労働をさせている」とも言われるが、卒業後に就職ができるよう就業教育をしているとも思える。

テキサスやハワイの英語教育も「文化的ジェノサイド」なのか

 いずれにせよウイグル人を大量に殺害する目的でこのような施設に巨費を費やすとは考えられず、日本政府が「ジェノサイドとは認められない」とするのは妥当だろう。

 人命を奪わなくても、中国語を教えたり、中国国民の意識を持たせようとするのは「文化的ジェノサイドだ」との論もあるが、それなら米国がメキシコと戦って領土の3分の1を割譲させたり、ハワイを併合して、その住民に英語を教え、米国市民である意識を植え付けたのもジェノサイドとなる。

 日本もかつて韓国、台湾で日本語教育を行い、住民を「皇民化」することに努めた。英、仏など欧州の列強も植民地で同じことをしていた。本物のジェノサイドはドイツによるユダヤ人など約150万人の殺害やアメリカ、オーストラリア等の先住民が絶滅に瀕した迫害などをさすものだ。米国では一部に先住民の児童を閉じ込める寄宿学校が設けられた。

 古来中国は多くの少数民族を抱えてきたから、その懐柔には熟練しており、今日でも進学や公務員採用で「ゲタをはかせる」から、漢族が少数民族と登録する「ニセ少数民族」もいるようだ。

 米国、カナダなどが「ジェノサイド」を叫び、残虐行為と非難する状態を見ると、デマで始まった1999年のコソボ紛争を思い出す。当時ユーゴスラビア(現在はセルビア)の一部だったコソボには西隣のイスラム教国アルバニアから非合法の移住者が大挙流入していた。

 彼らは、91年に始まったユーゴスラビアの内戦に乗じてコソボのアルバニアへの併合を求め「コソボ解放軍」を作り97年に武装蜂起した。ユーゴスラビア軍はこの反乱を制圧しコソボ軍は戦死者約2000人を出した。

 内戦でユーゴスラビア(セルビア)と戦っていた同国北部のクロアチアとそれを支援していたドイツは米国の広報会社に依頼してユーゴスラビアが「民族浄化をはかっている」と宣伝した。

 これにだまされた米国のメディアは「コソボで大虐殺が進行中」と報じ、米国務省も「約50万人が行方不明・死亡の可能性あり」として介入、英、仏、独などNATOの13か国が1200機で79日間ユーゴスラビアを爆撃、ユーゴスラビア軍をコソボから撤退させた。

 その後、コソボを占領したNATO軍はアルバニア系住民の協力を得て、「大虐殺」の証拠を探したが、遺体は2008体しか見つからず、それは97年のユーゴスラビア軍との戦闘で死亡した者であり、大虐殺はまったくのデマだったことが判明した。

 その後米国の広報会社は「民族浄化」のキャッチフレーズを考案し流布したことなど、宣伝戦の経緯、手口を公然と語り、成功を誇示した。

いまでも「セルビアの民族浄化」が唱えられるが

 米国などNATO諸国が偽情報に操られ、ユーゴ軍に死者546人、民間人に約2000人を出し、中国大使館も誤って爆撃したことは大失態だったが、各国のメディアも騙されてデマを拡散をしていたので政府を非難できなかったから、いまでも「セルビアの民族浄化」があったように言う人は少なくない。

 これに対する反省がなかったから、2003年に始まったイラク戦争の前にも「イラクは大量破壊兵器を製造中」とか、2001年9月11日のニューヨーク等の大規模テロについて「背後にはイラクのサダム・フセインがいる」などの虚偽情報が横行、米・英軍は国連の反対を無視してイラクを攻撃、占領したが、大量破壊兵器は発見できず面目は丸つぶれ、その後8年あまりの苦労の末に撤退することになった。イラク戦争で米軍の死者は約4500人、イラク人10万人以上が死亡した。

 2011年にシリアで反政府デモが起こった際には「シリアを支配しているアサド家はイスラムの異端派であるアラウィ派。大部分の民衆と軍人はスン二派だから内戦になれば軍は反旗を翻す」との情報を信じた米国のオバマ政権はイスラエルと対立するシリアのアサド政権の打倒をはかり、政権から離反する軍人を支援して「自由シリア軍」を作った。

 だが、シリアの宿敵イスラエルと同盟する米国が支援する反乱軍に参加する軍人は少なく、シリア軍の主力部隊は政府に忠誠を保った。

 このため米国が支援する反政府勢力の主体は「アル・ヌスラ戦線」になったが、これはイスラム過激組織アルカイダに属しており、米国がアルカイダを援助する妙な形となった。

 困った米国はアルカイダではない反政府勢力を探し求めて武器、車両、資金を提供、ヨルダン内の秘密基地で訓練したが、これはあまりに凶暴なためアルカイダからも破門されていた「イスラム国」だった。「イスラム国」はにわかにイラクでも勢力を拡大したため、米国は自ら育てた「イスラム国」を討伐することになった。

 シリア軍は反乱を起こさなかったが、混乱で徴兵制が機能せず、逃亡兵も少なくなかったため人員不足になった。だが、シリア各地では外国人傭兵が多い反政府武装勢力の横暴に対抗して民間人が自警団を作り、親政府の民兵が活躍して、兵力不足を十分に補った。

 結局、反政府派は政府軍に追われて、トルコ国境に近い一角に封じ込められ、アサド政権は倒れなかった。

 この米国の失敗は米国を引き込みたい下心のある亡命シリア人やイスラエルからの情報で「シリア国民の大多数はアサド政権に反感を抱いている」と思い込んだのが原因だ。米国人はフェイクニュースや偽情報に惑わされやすい国民性があることは「不正選挙」を唱えるトランプ氏の支持者が少なくなかったことが示している。

 日本としてはそれに惑わされないよう、慎重に対処すると同時に、中国に対し中立的な調査団を受け入れるよう勧告することが得策と思われる。
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田岡 俊次(軍事評論家、元朝日新聞編集委員)
1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、筑波大学客員教授などを歴任。82年新聞協会賞受賞。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』(朝日新聞)など著書多数。
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