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トランプ支持者がテロに走る危険

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【軍事の展望台】白人テロリストの監視は実にむずかしい

公開日: 2021/02/04 (ワールド)

米議会襲撃=TapTheForwardAssist-ShareAlike 米議会襲撃=TapTheForwardAssist-ShareAlike

田岡 俊次 (軍事評論家、元朝日新聞編集委員)

 米国下院は1月22日、ドナルド・トランプ前大統領が6日に反乱を煽動して連邦議事堂を襲撃させたとする弾劾訴追決議を連邦上院に送付した。賛成232票、反対197票で共和党議員10人も賛成した。

 今後上院で裁判が行われるが弾該成立には100人の上院議員の3分の2に当たる67人以上の賛成が必要で、民主党上院議員は50人だから共和党の17人の向背が焦点だ。

 トランプ氏に対する批判は激しく、共和党議員にとって落選したトランプ氏に追随し続ければ彼の転落に巻き込まれる危険がある。他方、共和党支持の選挙民にはトランプ崇拝者が多く、弾該に賛成すれば「裏切者」の烙印をおされ、次の選挙で議席を失うことになりかねない。

 「トランプ氏の言動には賛成できないが」と言いつつ、何とか理屈を付けて弾該に反対した共和党議員が下院でも多かった。

トランプ氏 脱税、口止め料などで訴追が濃厚

 仮に上院で無罪の表決が出ても、すべて無罪放免とはならない。「現職大統領は刑事訴追しない」という米国司法省の不文律による特権を失い、一市民となったトランプ氏に対し、刑事事件の訴追が行われる可能性が高い。

 10年間連邦所得税をほとんど払っていない脱税の疑いや、ポルノ女優に口止め料13万ドル(約1400万円)を選挙資金から出した事件、今回の選挙でジョージア州の州務長官(共和党)に「1万1780票を見つけろ」と、選挙結果の改竄を要求(電話録音あり)などなど、多くの疑惑があり、その一部に関して捜査が行われてきたが、大統領の特権で訴追にはいたらなかった。

 トランプ氏が特権を失った今、それらが堰を切ったように噴出する可能性があり、さらに「11億ドル(約1140億円)」とも報じられる債務の処理を迫られることもありそうだ。

 米国ギャラップ社が18日に発表した世論調査ではトランプ氏への支持率は34%で11月3日の大統領選挙前と比べ12ポイント低下したものの、議事堂襲撃事件を起こした割には、現在のところなお相当の支持を保っている。だが、今後、刑事事件の裁判で有罪となったり、破産するような状況になれば、穏健な共和党支持者の目が覚めてトランプ氏から離れることになるだろう。

 とは言えトランプ氏は大統領選挙で7422万票を得ており、その数は軽視できない。トランプ支持者の多くは同氏に不利な報道は「Fake News(偽情報)」だとして陰謀説を信じ、トランプ氏の落選は不正選挙によると唱え、「議事堂襲撃は極左がトランプ支持者を装って行った」と言う程だから、新興宗教の教祖崇拝に似て、トランプ派には岩盤支持層が存在している。

 仮にトランプ氏に投票した7400万人余りの1%だけがトランプ派の残党となるとしても、74万人の強固な信者が残ることになる。それらがバイデン政権への報復を企図する危険は軽視できない。

 人口3憶3000万人の米国には私有銃器が約3億丁もあり、コロナウィルスの蔓延が始まった昨年3月には鉄砲店やスーパーマーケットに銃弾を求める人々が殺到、売り切れが起った。もともと銃を持つ人々は少なくとも1箱、数十発程度の弾は持っていたはずで、護身用にはそれで十分だろう。大量の弾を買い込む人々は内乱を想定していると考えるほかない。そもそも感染症対策として銃に頼る人が多いのは特異な国柄だ。

 州によっては「長い銃」(小銃、猟銃)を公然と携帯したり、見える形で拳銃を付けることは規制せず、拳銃を隠し持って外出することを取締り対象にする州もある。開票が進みバイデン氏の優勢となるなか「不正選挙」を叫んで州の庁舎に押しかけたトランプ派群衆の中にはヘルメット、防弾チョッキを着用し、自動小銃をかざす者も少なくなかった。

 ただ首都のワシントンには政府の要人が多く、外国の首脳もしばしば訪問するから、銃を持って外出することは規制されており、議事堂を包囲、突入した暴徒が銃を見せびらかすことはなかった。

 だが、拳銃を隠し持っていた者は多分いただろうし、鉄管に爆薬を詰めたパイプ爆弾2発が発見されている。

トランプ支持は先細り、先鋭化の恐れ

 この事件でトランプ氏の信用は失墜し、1月23日のワシントン・ポスト紙は同氏の発言のファクト・チェック(真偽点検)で、この4年間に3万573回の虚偽と、誤解を与えた発言があった、と報じた。

 今後、共和党内でもトランプ氏の支援者は先細りになる形勢だ。同氏は共和党を離れて「愛国者党」を結成することを検討している、とも報じられたが、資金提供者が減り、当面その意欲もないようだ。

 反政府勢力は小さくなるほど尖鋭化するのが常で、白人至上主義にこり固まったトランプ派の残党がテロ活動に向う危険はかなり高い。南北戦争最末期の1865年4月、エイブラハム・リンカーン大統領はワシントンの劇場で南部連合支持者の俳優ジョン・W・ブースに拳銃で射殺された。

 当時南軍の主力部隊はすでに降服し散発的抵抗が続いていたが、ブースと仲間8名は大統領、副大統領、国務長官の3人を殺して政府を混乱させ戦局を一転させようとしたが、大統領を暗殺するだけに終わった。

 バイデン大統領は選挙運動中の昨年10月6日、南北戦争の激戦地ゲティスバーグ(ペンシルベニア州)で演説し、リンカーンが南北戦争前に述べた「2つに分かれた家は立つあたわず」を引用し、トランプ大統領が激化させた今日の米国の分断を修復する努力を約束した。

 今回の米国の分断は相手が虚言癖のある小者で、自滅に向かっているだけに内戦に発展するおそれはないが、ブースのようなテロリストが出現する可能性は否定できない。

バイデン氏よりハリス副大統領が狙われやすい

 これまで米国では大統領4人が暗殺され、レーガン大統領も瀕死の重傷を負っている。最初に暗殺されたのがリンカーンで、それ以降トランプ氏までの29人の大統領中4人が殺されたから約14%の死亡率だ。

 テロの標的にもっともなりやすいのはバイデン大統領より、カマラ・ハリス副大統領かもしれない。バイデン氏を殺せば、ハリス氏が米国史上初の女性大統領になる。

 彼女の父親はジャマイカ生まれの黒人経済学者、母はインド生まれの医師だ。検事出身の黒人女性が大統領になることは、白人至上主義者が多く、高学歴者の少ないトランプ支持層にとってはもっとも腹立たしい事態ではないか、と思われる。

 バイデン氏は78歳で4年後の大統領選挙に出馬する公算は低く、次の民主党の大統領候補には知名度の高いハリス氏(現在56歳)が選ばれ、トランプ氏の愚かな言動によって下落した共和党の勢力は当分低迷、と考えれば、ハリス氏が次期大統領になる公算は相当高いだろう。

 また1月6日に大統領選挙の当選者を確定する連邦協議会の議長をつとめ、事前にトランプ氏が選挙結果を覆すよう求めても「そんな権力は私にはない」と断ったマイク・ペンス副大統領や、議事堂襲撃を「失敗した反乱」と断じた共和党のミッチ・マコネル共和党院内総務などの共和党良識派を「裏切者」と非難するトランプ支持者も少なくないから、そうした人々にもテロの危険が及びかねない。

 FBI、CIA、要人警護を主任務とする「シークレット・サービス」など、米国の公安当局は極右団体の動向の監視、要人警護の一層の強化などに全力を傾注せざるをえない。

 米国では2001年ハイジャックされた旅客機4機のうち3機がニューヨークの世界貿易センターと国防総省に突入した大規模テロ9・11事件の後「愛国者法」が制定された。

 これは公安機関の権限を大幅に拡張し、令状なしで電話や電子メールなどを傍受することや、捜査員がひそかに家宅等に侵入すること、外国人の無期限留置を許す、外国人の金融口座を規制する、など人権侵害に当たる点が多く、憲法違反の判決が出たこともある。この法律は4年間の時限立法だったが、手直しして延長され、いまも一部は恒久法として残っている。

白人右翼テロ、イスラム過激派より多く、未然防止率は35%しかない


 イスラム過激派のテロに対してはイスラム諸国からの移民、旅行者の監視を厳しくし、モスクに出入りする人物を尾行することも行われたが、右翼の白人至上主義者は見分けが付きにくい。

 銃を持って集会に参加しても合法の州が多いし、警察官や軍人にもトランプ支持者が少なくなく、それだけで監視や取締りの対象にはできない。公安当局にとってはイスラム過激派よりはるかに厄介な相手だ。

 米国の調査報道支援団体「インベスティゲイテブ・ファンド」の調査では2008年から2016の間に発生したイスラム過激派のテロ事件は63件で、うち76%は未然に防止されたが、白人右翼による事件は115件で35%しか未然に防止されていない。白人右翼のテロ事件の方が1.8倍も多いがそれに対する未然防止率は半分以下だ。白人テロリストに対する監視が緩やかで、かつ困難であることを示している。
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田岡 俊次(軍事評論家、元朝日新聞編集委員)
1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、筑波大学客員教授などを歴任。82年新聞協会賞受賞。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』(朝日新聞)など著書多数。
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