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米中首脳オンライン会談 本当に対立したのか

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【軍事の展望台】自民外交部長の林外相の訪中反対は感情的で奇妙

公開日: 2021/12/10 (ワールド)

Reuters Reuters

田岡 俊次 (軍事評論家、元朝日新聞編集委員)

 ジョー・バイデン米大統領と習近平中国国家主席は11月16日、オンラインによる3時間半の首脳会談を行った。

 日本のメディアは「対立鮮明」と報じたが、米国が発表した会談要旨(17日朝日新聞)によれば、バイデン氏は台湾について「米国は台湾関係法と3つの共同コミュニケ、6つの保証に基づき、一つの中国政策に引き続き関与していることを強調し、一方的な現状の変更や台湾海峡の平和と安定を損なう試みに強く反対する」と強調した。

 「3つのコミュ二ケ(共同声明)」の第一は1972年2月にニクソン大統領が訪中した際に調印された敵対関係の終結、米軍の台湾からの撤退などに関する上海コミュニケで、「中国人が台湾を中国の一部と見ていることに米国は異議を唱えない」と述べた。

 第2は1978年12月に発表された米中国交樹立に関するコミュニケで、その中で米国は中華人民共和国を「中国唯一の合法的政府」と認め「1つの中国」の原則を承認し、台湾の中華民国との公的関係を断絶した。

 3番目のコミュニケは1982年8月に発表された台湾への武器輸出に関するもので、米国は武器輸出を縮小し、一定期間後に最終的に解決する用意がある、と約束した。この際に米国は「1つの中国と1つの台湾」の政策はとらないことも宣言した。

 2番目のコミュニケの中で「台湾は中国の一部」とする中国の立場を米国が認めたが、英文では「ac knowledge」(認識する)と書かれ、漢文では「承認する」となっているから若干の差があった。

 1972年から米国が中国に接近したのは1964年からのベトナム戦争に疲れた米国が、なんとかして南ベトナム政府を残したまま「名誉ある撤退」をするためには中国を抱き込んで、北ベトナムを説得してもらう必要があったためだ。

 一方、中国は当時ソ連と対立し、境界を巡った戦闘も起きていたから米国と和解し、国連に入ることは有益だった。1979年の米中の国交樹立後、米国と中国はソ連を共通の仮想敵として准同盟国関係になり、米国は中国の戦闘機F8Ⅱ開発や、対潜水艦魚雷MK46やUH60ヘリコプターの供与など、中国軍の近代化に協力し、ソ連の無線通信を傍受する米軍施設が中国西域に設置された。

 だがソ連がアフガニスタンで敗退し、東欧諸国が離反、1991年12月にソ連が崩壊すると米国にとり中国との同盟的関係は不必要になり、米国は92年9月に台湾にF16戦闘機150機を輸出するなど、中国との親密な軍事的関係はほぼ消滅、96年3月に李登輝氏が台湾総統に当選した初の直接選挙の際に中国が弾道ミサイル3基を台湾沖に発射して威嚇すると米国は空母2隻を台湾近海に派遣する事態になった。

 だが、1978年に鄧小平氏が実権を握った中国は市場経済化を進め、外資導入につとめて急速に経済が発展し、米国企業にとって重要な投資先、有望な市場となり、中国は米国債の大口保有国にもなったから、米国は中国との友好な関係保持をはからざるを得なくなった。

 もし台湾が独立をはかって中国と武力紛争になれば、「民主化した台湾を支援すべきだ」との世論が米国で高まるのは必定だったが、それは米国の経済、財政上不利だから、米国は台湾独立に対しては極めて警戒的だった。

 2000年に台湾で独立志向の民進党の陳水扁氏が総統に就任、国名を「台湾」として国連に加盟することを目標とし、台湾を独立国とする憲法の改定も語っていたが、これに対し、米国政府は「1つの中国政策」を再確認したり「米国は台湾を防衛する責任は負っていない」との声明を発表するなど独立派を牽制した。

 米国は1979年1月に中国との国交を樹立し、中華民国との国交を断絶したが、議会では自由主義陣営の一員である台湾を政府が切り捨てたことに批判が強く、上下両院は「台湾関係法」を可決、カーター大統領に署名を迫り、同年4月10日に大統領が署名して成立した。

 この法律は経済、文化その他の関係で台湾をほかの国とほぼ同様に扱うことなどを定め、防衛については「台湾住民の安全や社会、経済体制を危機にさらすいかなる武力行使、強制に抵抗する能力を米国は維持する」「台湾に防衛的性格の武器を売却する」としている。

 だが、米国は台湾防衛の「能力を維持する」だけで、それを行使して防衛することは規定されていない。コリン・パウエル米国務長官が台湾の陳水扁総統の独立論に反対し「米国は台湾防衛の義務は負っていない」と牽制したことは法的には正しかった。

 バイデン大統領は11月16日の習近平主席とのオンライン会談で米国は「一つの中国」政策に引き続き関与していることを強調し、一方的な現状の変更や台湾海峡の平和と安定を損なう試みに強く反対した。これは中国に統一のための行動をとらぬよう求めると同時に、台湾側が独立に向かって現状を変更しようとし、米国の「一つの中国」政策を妨げることも防ぐ方針を示している。

 一方中国が発表した首脳会談の要旨では、習主席は「台湾情勢が新たな緊張を迎えているのは台湾当局が米国に頼って幾度も独立を謀ろうとし、米国側の一部の人々が台湾を使って中国を牽制しようとしているからだ」と述べ、バイデン政権ではなく、一部の米国会議員等の言動を非難している。また習主席は「台湾は中国の一部分であり、我々は辛抱強く誠意を尽くし平和統一をする将来図を持っているが、台湾独立勢力が挑発を重ね一線を越えれば断固たる措置を取らねばならない」と強調した。

 中国側の発表ではバイデン大統領は「同盟を強化して中国に対抗し、衝突する考えはない。米国は長年にわたる一貫した一つの中国政策を追求し、台湾独立を支持せず、台湾海峡の平和と安定を希望する」と言明したとされる。

 米、中が発表した会談要旨ではどちらも毅然とした態度を取ったことを自国民に示したいから、不都合な発言は削ったとも考えられるが、録画はしているからウソの発言内容は公表できない。

 バイデン大統領が「同盟関係を強化して中国に対抗し衝突する考えはない」と述べたのは事実だろう。日本では「中国に対抗するため日米同盟強化が必要」との声が強いが、バイデン政権は同盟強化よりも衝突回避の方を重視していることが表明された。

 米国が台湾独立を支持し、米中の軍事的衝突が起きれば日本にとって極めて重大な危機となるところだった。経済面では2020年の日本の輸出は中国向けが22.1%、香港が5%で計27.1%、米は18.4%だ。一方中国からの輸入は日本の輸入の23.5%で、日系企業が中国工場生産する商品や部品、原材料、食品などの輸送がとまれば日本で多数の工場や商店が閉鎖を余儀なくされることも起こりそうだ。

 もし米中戦争になれば、米軍の出撃拠点となる沖縄の嘉手納空軍基地、青森県の三沢空軍基地、山口県の岩国海兵航空団基地、横須賀海軍基地、佐世保海軍基地などが中国の中距離弾道ミサイルの優先目標となり、在日米軍司令部がある東京の横田基地や防衛省、首相官邸などの指揮中枢も狙われそうだ。

 だが中国軍が台湾に侵攻する公算は低い。今年3月には当時のインド太平洋軍司令官フィリップ・デービッドソン海軍大将が上院軍事委員会で「中国は6年以内に台湾に侵攻する可能性がある」と述べ反響を呼んだが、6月17日の上院歳出委員会で制服軍人のトップ、統合参謀本部議長のマーク・ミリー陸軍大将は「中国は台湾全体を攻め落とす能力は持っていない。近い将来に侵攻する可能性は低い」との見解を示した。

 中国軍が台湾に侵攻するには大陸からの最短地点で約170kmの台湾海峡を渡る必要があるが、中国軍の渡洋輸送能力は揚陸艦に加え貨物船、漁船を動員して約2万人と見られている。中国海軍は4万t級の強襲揚陸艦「海南」を今年4月23日就役させ、同型艦2隻を建造中だ。1隻で約1200人の陸上部隊とヘリコプター約30機を搭載できる。さらに3隻を建造するのでは、との噂もあるが、仮に6隻が揃っても7200人程度で、在来の揚陸艦などを加え、陸上から直接ヘリコプターで運ぶ部隊を含めても最大3万人ほどだろう。

 一方、台湾軍はかつて32万人の人員がいたが、渡洋侵攻の可能性は低いと見て2018年に徴兵制を廃止、陸軍は8万人、海兵隊1万人に削減している。その代わり、志願しない18歳の男子は4か月の訓練を受け予備役兵となる制度だ。

 現役だけで海兵隊を合わせ9万人の陸兵がいる台湾に、3万人の中国軍が上陸作戦を敢行しても勝算は低い。

 仮に一時的に台北を占拠できても、他地域から駆け付ける台湾部隊に包囲されそうだし、人口2400万人、面積は日本の10分の1、山地が多い台湾を制圧し、ゲリラを掃討するのは困難だ。工場やインフラ施設を弾道ミサイルや爆撃で破壊すれば中国への部品供給が止まって、自分の脚を撃つような結果になる。

 日本では、中国と台湾が朝鮮半島の南北のように、にらみ合っている様に思っている人も少なくないようだが、実態は全く逆だ。中国と台湾は親密な相互依存関係にあり、台湾の輸出の44%は中国向けで、対外投資の約6割は中国にあり、台湾人約100万人が中国で勤務している。コロナウィルス禍以前には年に200万人以上の中国人観光客が台湾を訪れ、中国本土と台湾の航空便は1日平均88便もあり、台北の西北約12㎞の淡水には横浜港の2倍、25隻が接岸できる巨大な台北港が98年に築かれ、大陸との交易の拠点となっている。

 台湾政府の大陸委員会が昨年11月に行った世論調査では「すみやかに独立」を求める台湾人は5.0%、「現状維持後に独立」を望む人が20.8%、「永遠に現状維持」が29.9%、「現状維持後に独立か統一を決める」も29.9%、「現状維持後に統一」が7.0%、「すみやかに統一」は1.1%で、現状維持派は計87.6%に達し、やや増加の傾向がある。

 バイデン大統領が「台湾独立を支持しない」と言明したのに対し、習主席は「平和統一は将来図。独立勢力が挑発を重ねて一線を越えれば断固たる措置をとる」と言うのは、これまで程度なら辛抱するが今以上にやらせないようにしてほしい、という現状維持の要請と思われる。 

 だが、米国には強硬論者が多いから、バイデン政権は「弱腰」の非難を避けるため「北京の冬季オリンピックに外交団を出さない」との無害なジェスチャーを示すが、米中の元首が「ひとつの中国」と現状維持で衝突を回避しようとしている以上、少なくとも当面、台湾有事の危険は去ったと考える。

 安倍晋三氏は12月1日、台湾のシンポジウムにオンラインで参加し「台湾有事は日本の有事、日米同盟の有事でもある」と語った。もし台湾を巡って米中が衝突すれば、米軍の作戦の拠点となる日本は巻き込まれ、経済への大打撃、人的被害は避けがたいから「台湾有事は日本有事」との見立ては正しいだろう。

 安全保障の要諦はできるかぎり敵を作らないことにあり、幸い米国が「一つの中国」政策を追求し、台湾人の大部分が現状維持を望み、蔡英文総統も10月10日の双十節式典で「両岸関係については現状維持が我々の主張であり、一方的な変更を全力で阻止する」と演説している。

 米、中、台湾の三者の意見が一致するのだから、日本は1972年に田中角栄総理と周恩来総理らが調印した日中共同声明の「中華人民共和国が中国の唯一の政府であることを承認」「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であるとの中華人民共和国政府の立場を日本が理解し尊重・・・」を再確認し、従来通り台湾とは非公式の関係を保っていれば済む。

 林芳正外相が王毅中国国務委員兼外交部長の訪中招待を受けたことに対し、自民党の佐藤正久外交部長が「日本の外務大臣の訪中は完璧に間違ったメッセージとなる」と反対したのは奇妙な話だ。

 二国間の関係が悪化したり、険悪になりそうな場合、相手国の外相などと対話して妥協の道を求めて衝突を防いだり、相手国の真意を探るのは外相の務めであり、外相が会談するのを「完璧に間違ったメッセージを海外に出す」として反対するのは、極めて感情的と言わざるをえない。

 日中戦争が本格化してから約3か月後の1937年11月、日本は中国駐在のドイツ大使オスカー・トラウトマン氏を仲介として蒋介石政権と和平交渉を進め、蒋介石は受諾を申し入れていた。だが、12月13日に首都南京が陥落したため有頂天になった広田弘毅外相らは停戦交渉打ち切りを主張、1月16日に「国民政府を相手にせず」との声明を出した。

 このとき、早期停戦の必要を説いていた陸軍参謀本部は交渉継続を唱えて内閣と対立した。だが、近衛文麿首相、広田外相、杉山陸相、米内海相らの強硬派は「相手とせず」との声明を出してしまった。このため、日本は優勢のうちに停戦する機を失し、泥沼の長期戦に苦しむことになった。

 この時には参謀本部の実力者、参謀次長の多田駿中将が先見の明を示したが、今回は佐藤正久元一等陸佐が「相手にせず」を唱えたのは皮肉だ。

 しかも王毅中国外相が林外相に訪中を求めたのは11月18日で、バイデン・習近平のオンライン会談の2日後だ。米国側が中国との衝突を避けるため、「台湾独立を支持しない」と言ったことは報道されていたから日本の外相が訪中しても米国の機嫌を損ねることはありそうにない。

 日本にとって最悪の事態となりかねない米中戦争の回避をさらに確実にする役割を演じる好機を逸するのは、国益に反することになるだろう。
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田岡 俊次(軍事評論家、元朝日新聞編集委員)
1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、筑波大学客員教授などを歴任。82年新聞協会賞受賞。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』(朝日新聞)など著書多数。
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