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米国が似る覇権国アテネ、疫病流行後にスパルタに敗戦

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【軍事の展望台】米中の覇権争いよりコロナ軍縮が起こるだろう

公開日: 2020/05/04 (ワールド, コロナ(国外))

アテネのアクロポリス=CCBYXtoF アテネのアクロポリス=CCBYXtoF

田岡 俊次 (軍事評論家、元朝日新聞編集委員)

 「ツキジデスの罠」という論が世界の国際政治学者、戦略研究家達の間で流行している。覇権国家と新興国家の対立で戦争が起きた例が歴史には多く、今日の覇権国アメリカと新興国である中国との対立も戦争に発展しかねない、との説だ。

 これはハーバード大学のベルファー科学・国際問題研究所長で、クリントン政権の国防次官補などを歴任したグレアム・アリソン博士が唱えたものだ。2015年にオバマ米大統領が習近平中国国家主席との首脳会談でこれを話題とし、中国の軍事力増強を牽制しようとしたとして注目されるようになった。

 ツキジデスは古代ギリシアのアテネの人で艦隊の部将を務めた後、ギリシアの両雄アテネ対スパルタの死闘「ペロポネソス戦争」(BC431年~404年)の記録「歴史」を書いた。彼の「歴史」は英雄物語りでなく、おおむね実証的で「科学的歴史の祖」と言われる。

 今日の米中対立をペロポネス戦争の前夜になぞらえる人々は、当時のギリシアの覇権国はスパルタであり、新興のアテネが台頭してスパルタの覇権を脅かす形勢だったため、戦争に至ったと考え、米国をスパルタにたとえ、中国をアテネに擬すことが多い。だが実際にはアテネの方が約50年も前からすでに覇権国であり、その帝国主義的な横暴に耐えかねた一部の都市国家が慎重なスパルタをたきつけて戦争に向ったのだ。

 ギリシアは北方の大国ベルシアの侵攻を3度にわたって受けた。第1回(BC492年)はペルシア艦隊が暴風で難破し遠征は中止された。第2回(BC490年)は600隻に乗る2万人のペルシア軍がマラトン海岸に上陸したが、9000人のアテネ軍が巧みに迎撃して大損害を与え、総退却させた。第3回(BC480年)はペルシア軍約30万人がアテネまで攻め込んだが、アテネ艦隊は1000隻の敵艦隊を狭いサラミス水道に引き込んで撃減、ペルシア陸軍を退却させた。

 第2回のペルシア軍来襲に際し、アテネはスパルタに援軍派遣を求めたが、スパルタは参戦しなかった。3回目の侵攻に対してはスパルタのレオニダス国王自身が出陣したが、スパルタ兵はわずか300人でテルモピレーの要害を守って玉砕した。

 ペルシア陸軍は海軍がサラミス海戦で大敗した後、一度は北方に退却したが、翌年再び南進、アテネの北約50キロのプラタイアイでギリシア連合軍と戦い、大損害を受けてペルシアに引き揚げた。この際には、スパルタ陸軍5000人が力戦したが、ペルシア戦争でのギリシアの第1の勝因はアテネ海軍の制海権確保だった。

 あいつぐ戦功によりスパルタを抜いてギリシア第1の都市国家となったアテネはBC477年、ペルシア軍の再侵攻に備えるため、都市国家を糾合し「デロス同盟」を結成、それぞれの都市国家がアテネ人を司令官とする艦隊に軍艦と乗組員を供出するか、あるいは貢納金をおさめることを取り決めた。

 この同盟には200以上の都市国家が参加し、そのほとんどは金を出す方を選んだ。同盟の財政はアテネ人の財務官が管理し、各都市国家の貢納額を査定したからアテネは巨額の歳入を確保し、強大な海軍力を持つ盟主となって権力を振った。

 同盟の初期には金庫はどの都市国家の領地でもないデロス島のアポロ神殿に置かれたが、結成23年後のBC454年に金庫をアテネのアクロポリスに移し、アテネはその基金を借用する形でパルテノン神殿などの建設に流用した。

 その約5年後のBC449年、アテネは同盟国に無断でペルシアと講和条約を締結、相互不可侵を取り決めた。アテネの使節の名から「カリアスの平和」と呼ばれるこの条約によりペルシア戦争は正式に終決、デロス同盟の本来の目的は消滅した。

 だがデロス同盟は解散されず、アテネは貢納金の徴収を続けた。同盟から離脱をはかった都市国家に派兵して「民主派」(親アテネ派)を支援、行政監督官や駐留軍を置いて内政干渉を強化、裁判権も掌握した。同盟が結成された当時は各都市国家の自治、独立が明記されていたが、アテネは徐々に同盟国を属国化し、収奪の対象とする帝国となり、次々と起きたアテネに対する「反逆」を武力で鎮圧した。

 アテネの勢力圏はギリシア半島の東岸からエーゲ海の対岸およびエーゲ海諸島の都市国家に拡がっていた。さらにアテネは強大な海軍力を用いてギリシア半島西方のイオニア海にも進出、イタリア半島やシシリー島への通商路を支配しようとした。ここは有力な都市国家の1つだったコリントの勢力圏だったからアテネと対立が生じ、アテネはコリント側についた都市国家メガラの商人をデロス同盟圏の港や、市場から排除する経済制裁を行った。

 ギリシアの西部、ペロポネス半島の都市国家の多くはスパルタを盟主とする「ペロポネス同盟」を結んでいたから、コリントはスパルタに対し、アテネを攻撃するよう強く求め遂にBC431年春、ギリシアを2分して、27年もの戦争となった「ペロポネス戦争」に発展した。

 スパルタ陸軍はアテネ周辺に侵攻したが、アテネ側は籠城しつつ、海軍でペロポネソス半島の要地を次々と攻略、当初の戦局は全体的にアテネ側優位となった。

 ところが戦争2年目の夏、アテネでチフスと思わる疫病が流行、その後4年間でアテネ人口の約3分の1以上が病死する惨事となった。

 だが戦争はその後も続き、停戦をまじえて一進一遅の長期戦となった。いくつもの都市国家内でも親アテネの「民主派」と、親スパルタの「寡頭派」の葛藤で大量の処刑が行われるなどの残虐行為が発生した。

 民主派の中心地アテネでは、威勢の良い主戦論を唱えて大衆の人気を得る「扇動政治家」(デマゴーグ)が政権を握り、無謀なシシリー島遠征行って大敗することも起きた。富裕を誇ったアテネも財政危機に陥り、デロス同盟の貢献金は当初の3倍にする状況となったから、離反する同盟国も続出した。

 BC405年、本来は陸軍国だったスパルタの艦隊200隻がエーゲ海の北端、黒海への出入口付近で海軍国アテネの艦隊180隻と戦い120隻を捕獲するという番狂わせの大勝利を博した。

 アテネの同盟国は盟主に見切りをつけて続々と離反、スパルタ艦隊がアテネの外港ピレウスを封鎖する状態となり、アテネはBC404年に降伏し「デロス同盟」は解体、27年続いたペロポネソス戦争は終結した。

 だが勝者となったスパルタは目標としてかかげた「アテネの専制からのギリシアの解放」は達成したものの、本来孤立主義的体質があり、自存のための軍事国家だったから、全ギリシアを統括し指導する能力も経済力も欠けていた。ギリシアは再び混乱し、ギリシア人が北方の蛮人(バルバロイ)と見ていたマケドニアのフィリッポス2世(アレキサンドロスの父)がギリシアを統一、支配することとなり、ギリシアは滅亡した。

 ペロポネソス戦争の経緯を顧みれば、今日の中国を新興国としてアテネになぞらえ、米国を既存の覇権国としてスパルタに比するのは全く当を得ていない。むしろ米国のほうがアテネに似ている。

 ①アテネはBC480年にペルシア軍を撃破し、ペロポネソス戦争が始まったBC431年にはすでに約50年もギリシアの覇権国だった。これは米国が第2次世界大戦で連合軍の主役となり、戦後に世界的指導力を持ったのと同様だ。
 ②アテネは開放的で商工業が栄え、富裕を誇った国だった。
 ③アテネは「デロス同盟」を結成し、その盟主となった。米国もNATOを結成、他の日本などの諸国とも同盟網を造り盟主となった。
 ④アテネは同盟国に軍を駐留させたが、米国もそうしている。
 ⑤アテネは同盟国に貢納金を課したが米国も日本、韓国、などで駐留経費を負担させ、財政難に陥ると増額を迫っている。

 ⑥アテネは絶大な海軍力を持ち、それをペルシアの再来襲へのそなえとし、同時にギリシアでの覇権維持の背景としたが、今日の米国も圧倒的な海軍力を保持する。
 ⑦アテネは民主制を旗印にして他国の内政に干渉し勢力を拡大したが、米国もそれを行っている。
 ⑧アテネはペルシャと平和条約を結び「デロス同盟」の本来の目的が失われた後も同盟国の離脱を認めなかった。米国も1989年12月マルタ島での米ソ首脳会談で冷戦終結を宣言したが、同盟は解散しなかった。
 ⑨名門出身の知識人ペリクレスが死去した後のアテネでは、商工業界の成金が「煽動政治家」となり、無責任な対外強硬論で大衆の人気を得て戦禍を拡大した。米国でも品位に欠ける言動で岩盤支持層を確保する政治家が台頭した。
 ⑩アテネは自国に従わない都市国家に対し、デロス同盟の諸都市国家が通商することを禁じる経済制裁を行い、激しい反発を招いた。今日の米国による「2次的制裁」(自国が取引しないだけでなく、他国にも同調を強いている)と同様だ。

 これら約2400年前のアテネと今日の米国の類似点を考えれば、「新興国アテネの台頭を嫉視した覇権国スパルタがペロポネソス戦争を起こした」と言い、今日の中国をアテネになぞらえるのは無知蒙昧の論と言うしかない。アテネは当時の覇権国で、その専横な行動に対し、圧迫されていた他の都市国家がスパルタを担いで決起したという方が、大筋において正しいと思われる。

 今年に入って突如もう一つの類似点が現れた。疫病の流行だ。前述のとおり、ペロポネソス戦争中にアテネでチフスかと言われる感染症が発生し、アテネの国力を削いだが、今回の新型コロナウイルスも特に米国で猛威を振い、3か月で米国で5万6000人の死者が出ている。8年7か月も続いたベトナム戦争での米軍の死者は事故死、病死も含み5万6000人だった。

 密閉した空間に5000人程度が乗る空母は艦内感染が拡大しやすく、「セオドア・ルーズヴェルト」だけで4月23日現在840人の感染者が出た。他の空母や駆逐艦などにも感染者が続出している。潜水艦は特に危険だ。軍艦の感染者をすべて下船させ、艦内を完全に消毒しても安全ではない。交代で乗り込む乗員の中に症状が出ず、検査でも発見漏れした者が1人でもいれば、たちまち艦内感染が拡がる。予防、治療の方法が確立しない限り、海軍に入ること自体が冒険となる。

 陸軍、空軍でも他の将兵との間隔を常に6フィート以上に保って訓練や整備をすることは不可能だから、どの国の軍も行動は低調にならざるをえない。各国軍にとりさらに大きな問題は財政難だ。米国はコロナウイルス対策と経済支援に2兆6800億ドル(約288兆円)を投入することを決めた。これは今年度の米国の軍事費約7300億ドル(国防総省以外の軍事関連支出を含む)の3年半分以上に当たる。

 日本の緊急経済対策費は108.2兆円で、うち政府支出は39.5兆円だが、これは今年度の防衛費5.3兆円の7年分だ。IMF(国際通貨基金)は今年の米国のGDPは昨年より5.9%減、日本は5.2%減、ユーロ圏は7.5%減と予想している。中国は1.2%増の予想だが、前年の6.1%増と比べ大幅の下落でほとんどの国で税収は縮小する。

 米国政府はすでに23兆ドル(約2470兆円)の累積債務を抱え、日本の国債残高は約900兆円だ。国債乱発による将来の財政の逼迫は不可避で、どの国も軍事費は削減せざるをえない。

 中国は過去20年間、国防費をGDPの約1.3%に保ってきたが、GDPの急増に伴い国防費も約10倍になった。世界的大不況で輸出も国内消費も減少し、中国の経済成長が急減速すれば国防費の増加や「一帯一路」への投資、融資にブレーキがかかるだろう。

 どの国も近い将来極度の財政難にあえぐなか、装備の更新や新規開発の停滞、訓練や哨戒、海外派兵など活動経費の削減に向かうことになろう。これに加えてコロナウイルスの感染拡大を警戒して演習なども控えめになれば、軍備競争は停止し、少なくとも一時的には「コロナ軍縮」の現象が生じることになりそうだ。「ツキジデスの罠」は幸か不幸か昔日の論となったようだ。
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田岡 俊次(軍事評論家、元朝日新聞編集委員)
1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、筑波大学客員教授などを歴任。82年新聞協会賞受賞。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』(朝日新聞)など著書多数。
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