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無謀すぎたアフガン戦争 ソ連の前例に学ばず

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【軍事の展望台・アフガン撤退(上)】9.11前からアフガンとは戦争状態だった

公開日: 2021/09/06 (ワールド)

タリバン=Reuters タリバン=Reuters

 8月30日米軍はアフガニスタンからの撤退を完了。20年間続いた戦争はタリバンの勝利で終了した。

 ソ連は1979年12月、当時アフガンの29州中21州を支配していたイスラムゲリラを制圧し、アフガンの社会主義国政権を守ろうとしたが苦戦の末に89年2月に撤退を完了した。ソ連の共産主義政府は東欧支配と国内統治の要だった軍事的威信を失い、東欧諸国の離反、国民の信頼喪失を招き、撤退からわずか2年10カ月後の91年12月にソ連は崩壊。小国のゲリラが超大国を滅した世界史上稀な事態となった。

 ソ連は第2次世界大戦で強大なドイツ軍の怒涛の進撃を必死で喰い停めて、反攻に転じ、自国と東欧諸国を開放する功績を挙げたから、国民と周辺諸国の畏敬の対象となっていた。

 だが、「山賊」と呼んでいたアフガンゲリラに負ければ、カリスマは消滅し、多くの衛星国や、自治共和国(属領)を支配した大帝国が瓦解したのも当然だ。今日のロシアがGDPでは韓国に次ぐ12位となっているのは、オスマン帝国が崩壊後トルコ共和国として残っていることを思わせる。

 アメリカはソ連と異なり、同盟国をもっぱら軍事的威信を頼りに一方的に牽引してきた訳ではない。経済、政治、文化などで双方向の関係があるから、若干の不満、反発があっても、今回の米国の敗戦を好機として離反を図る国はありそうになく、国内の激しい対立が国の分裂にまで拡がることも起きそうにない。

 また米国は最先端の情報技術を有し、サイバー軍は断然最強だから、ソ連のように突如弱体化することもないだろう。

 だがソ連滅亡後、唯一の覇権国を誇ってきた米国の威信低下は避けれず、財政危機とあいまって盟主の指導力が減少する可能性がある。

 世界銀行が今年5月に発表した物価の違いを加味した「販売力平価」によるGDP比較では、2017年の中国のGDPは19・6兆ドル、(約2110兆円)で米国より980億ドル(約10・5兆円)多かった。額面では昨年のGDPは米国が20、9兆ドル、中国は14,7兆ドルで米国の70%だが、実力ではすでに米国を抜いた、とも言えよう。

 また日本の財務省が5月に発表した各国の純債権(対外債権と債務を通算)では昨年末の米国の純債務は1460兆円に達しており、最大の純債権国である日本の純債権356兆円の約4倍にあたる途方もない借金だ。

 米国の経常収支は、昨年6400億ドル(約70兆円)の赤字、財政赤字は3兆ドル(330兆円)に急増しそうだ。米国のアフガン戦争の戦費は、負傷兵の今後の療養費等を含み8兆ドル(約880兆円)と試算されている。

 米国はベトナム戦争で最大の債権国から債務国に転落したが。イラク戦争で3兆ドル、アフガン戦争で8兆ドルを浪費し経済力の弱体化を招いた。もちろん当面ドルは唯一の基軸通貨であり、米国金融機関は他国から預かった資金を運用して世界的影響力をなお保っているが、ドルの権威が低下し、もし複数の基軸通貨が使われるような事態となれば米国の覇権は崩壊する。

  米国がアフガニスタンで失態を演じたのは2001年の9・11テロ事件に怒るあまり、大義の乏しいアフガニスタン攻撃をしたことによる。米国は、この事件の首謀者は当時アフガニスタンに居たサウジアラビアの富豪、オサマ・ビンラディンと見て、アフガニスタンに引き渡しを求めた。

 タリバン政権は、「証拠があれば引き渡す」と回答したが、当時米国は証拠を握っていなかったため、「ビンラディンをかくまっている」と言い立て「9・11事件はタリバンがやらせた」との説も流布。英軍と共にアフガン各地に航空機、巡航ミサイル攻撃を加え、同国北部の軍閥を雇い、海兵隊4400人を投入してタリバン政権を崩壊させた。のちアフガニスタンに計50国が派兵し最大時には14万人に達した。

 米国は9・11事件の以前にも、8月7日にケニアのナイロビとタンザニアのダルエスサラームで米大使館が爆破された事件の報復として、8月20日アフガニスタンのアルカイダ訓練場とスーダンのビンラディン系薬品工場を巡航ミサイルで攻撃していたから、すでに米国とアフガニスタンは戦争状態にあり、9・11事件はその米国による攻撃に対する報復と思われた。

 だがアフガニスタンが、「証拠があれば引き渡す」と回答したのは法的には当然だった。日米間の「犯罪人引渡し条約」でも、それを要求する側は犯罪の事実、相当な証拠、裁判官が発した逮捕令状などを提出する必要がある。

 外国が要求しても二つ返事で渡すのはまさに人権問題だから犯罪の黒幕の引き渡しを求めるには、いつ、どこで、誰に対し、どのような指示をしたかの証拠がいる。それを出さずに「かくまっている」として攻撃するのはマフィアの報復合戦を思わせる。

 後日の米議会の調査委員会の報告では9.11事件の首謀者はパキスタン人のハリド・シェイク・モハメドだったとされている。ビン・ラディンが事前に計画を知っていたとしても、アフガニスタン国家が米国を攻撃したのではなく、寄留していた外国人の個人的な犯行だから「自衛権の行使」として他国を爆撃、ミサイル攻撃をし、さらに侵攻、占領したことには疑問がある。

 これを日本に置き換えれば、仮に中国で爆弾テロが起き、日本に住む台湾独立派の跳ね上がり頭目がそれを指示した疑いがある、として中国が引き渡しを要求すれば、日本政府は「まず証拠を示されたい」と答えるしかあるまい。それに対し中国が「犯人をかくまっている」として日本各地にミサイルを発射、侵攻することは許されないだろう。

 9.11事件は極めて大規模で日本人を含む多数の外国人も犠牲となったから、国連でもアフガニスタン攻撃を許容するに近い決議が出た。だが、冷静に2手、3手先を考えれば、かつて最盛期の大英帝国に勝ち、10年前に軍事大国ソ連を崩壊させたゲリラ戦の雄であるアフガニスタンに地上侵攻、占領することは長期のゲリラ戦になる危険が高いことは分かったはずだ。報復を求める国民感情を満足させるため意趣返しの爆撃にとどめておく方が賢明な戦略だっただろう。

 米国はフランス軍が大敗した後のベトナムに出兵して失敗し、ソ連が⒑年間戦い敗北した後のアフガニスタンに侵攻し、同じ失敗を繰り返した。「前車の覆(くつがえ)るは後車の戒め」との中国漢代のことわざのとおりとなったのは「自国の軍事力は絶大」で「正義の国」だからフランスやソ連とは違うとの美しい自画像に捉われているためと思われる。

 近年の米国はどこかで戦争をしていない年はないほどだが、ベトナムから1973年に撤退後は懲りたのか83年に人口10万人のカリブ海の島国グレナダに侵攻し「大勝利」に熱狂するまでの10年間は慎重、温和だった。今後もしばらくは莫大な出費をもたらす武力行使を避けることになるのではあるまいか。

田岡 俊次 (軍事評論家、元朝日新聞編集委員)

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田岡 俊次(軍事評論家、元朝日新聞編集委員)
1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、筑波大学客員教授などを歴任。82年新聞協会賞受賞。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』(朝日新聞)など著書多数。
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