イスラム国が日本人2人を人質に取ったのを受けて、米地政学コンサルティング会社社長のイアン・ブレマー氏にインタビューした。
――イスラム国が日本人2人を人質に取ったことに、日本では衝撃が広がっている。
グローバル化の時代にあっては、誰も無関係では済まない。イスラム国が直接的なメッセージを送っているのは明らかだ。ターゲットは、米国人やサウジアラビア人、イスラム国への軍事行動に参加している国の人々だけでなく、誰もが標的になりうる、ということだ。2億㌦の人道支援を行う日本に対して、それを見せつけたのだろう。
イスラム国は、人類史上、最も資金力が豊富で、力を持ったテロリスト集団だ。われわれは、ようやく、少なくともイラクでイスラム国への反撃を開始したが、シリアでは(空爆などは)まださほど進んでいない。この事実は、域内のみならず、もっと広範囲な場所や国々で脅威となるだろう。
こうした脅威や危険は非常に大きなものであり、簡単にはなくならない。自分たちの支配地域で人質を取るだけでなく、豊富な資金力で、(イスラム勢力圏の)他のテロリスト組織から人質を買うことができるからだ。こうした人質の捕獲が、自分たちの脅威を見せつけるための大プロパガンダになり、イスラム国という名前を世界中に広めるための格好の戦略であることを、イスラム国は承知している。
――あなたは、今年の「10大リスク」の5番目に、「イスラム国がイラクやシリア以外に勢力を広げること」を挙げた。中東情勢は、さらに悪化するのか。
原油価格は急落し、シリアは、(内戦で)もはや国家とは言えない状態だ。イラクは、(イスラム国の支配で)国の多くの部分を失った。中東は、さらにリスクが高い、危険な地域になるだろう。その一方で、米国や中国、日本への影響は、依然として比較的小さいと言える。もちろん、罪のない市民が人質に取られるのを見るのは悲惨なことだが、本当に苦境に陥っているのは、中東の人々自身だ。この事実に関心を払っている人は、あまり多くないが。
――イスラム国や欧米でのテロなど、こうした問題はすべて、イスラム文化と欧米文化とのギャップや軋轢がなせる技なのか。
違う。イスラムが宗教として非常に保守的になりがちなのは確かだ。特に政府がかかわると、回帰志向が強まる。女性が働けなかったり、教育制度が不十分だったり、問題があるのは確かだ。
とはいえ、最大の問題は、多くの人々に経済発展が及んでいないことだ。フランスの(イスラム移民が住む)貧困地区にせよ、シリアやイラクにせよ、そうした状況がイスラム過激派への支持を助長する。イスラム教徒だからといって、みんなが過激派とは限らない。大半のイスラム教徒は違う。だが、国の経済力が落ちると、過激なイデオロギーへと向かう国民が増える。
(テロには)文化や宗教も一役買っているとは思うが、中東がうまくいっていないのは、彼らだけの責任ではない。先進国にも責任があるということを忘れてはならない。
――あなたのツイートによると、「米国と同盟国の対イラク政策は進歩しているが、対シリア政策は、まだ存在すらしていない」という。
米国には、対シリア政策というものがない。(空爆により)米国がイスラム国と戦うことで、シリア政府が恩恵を受けているのは確かだが、シリアとは対話がない。イスラム国への攻撃に関して、あまりサポートを受けていないのだ。空爆も、対イラクに比べ、非常に限られたものだ。英国の(ハモンド)外相は22日、イラクのイスラム国は1~2年で倒すことができると言ったが、シリア(のイスラム国)については何も言わなかった。ばかげている。
(米国が世界の主導役を降りた)「Gゼロ」時代にあって、米国では、中東に深くかかわりすぎる政策がもはやまったく人気を得られないという事実もある。民主党支持でも共和党支持でも同じだ。
――1月22日、米国主導のイスラム国対策会議がロンドンで開かれたが、日本政府は参加しなかった。
軍事的な有志連合による、軍事戦略にフォーカスした会議だったからだ。日本政府も参加したかっただろうが、国際社会での日本の強みは軍事面ではなく、インフラや人道援助、テクノロジーだ。再建が必要な国々にとっては非常に重要なものだが、イスラム国との戦いにおいて、日本の戦闘能力は重要とは言えない。
最大の問題はイスラム圏の貧困 |
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「イスラム国」による日本人人質事件から何を読み取るか。イアン・ブレマー氏に聞いた 肥田美佐子(NY在住)
公開日:
(ワールド)
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肥田 美佐子(ジャーナリスト 在NY)
ニューヨーク在住ジャーナリスト。東京都出身。「ニューズウィーク日本版」編集などを経て1997年、単身渡米。米広告代理店などに勤務後、独立。08年、ILO(国際労働機関)メディア賞受賞。米経済、大統領選など幅広く取材。現在、経済誌を中心に寄稿。カーリー・フィオリーナ元ヒューレット・パッカードCEO、ジム・オニール前・英財務省政務次官、シカゴ連銀副総裁、トム・リッジ元国土安全保障長官など、米(欧)識者への取材多数。
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