7月末のオバマ米大統領の訪問に沸いたケニアで、同月18日、首都ナイロビのイスラエル資本のショッピングセンター「ウェストゲート・ショッピングモール」が営業を再開したことも大きな話題となった。
このショッピングモールは2013年9月、隣国ソマリアを拠点とするテロ組織「アルシャバブ」の武装グループの襲撃を受け、67人が犠牲となった場所だ。2年をかけて大惨事の傷を癒して営業再開にこぎつけたことは、「テロには屈しない」というケニアの強いメッセージの表れでもある。一方で、建物自体が破壊されたわけではなかったので、商売の早期再開を望む声も強かった。欧米の物質的価値観を忌み嫌っているアルシャバブにとっては皮肉な展開だ。
今年4月には、ケニア北東部のガリッサ大学で、5人のテロリストが学生148人を殺害する大惨事があった。これもアルシャバブによる犯行だった。ケニア社会に大きな衝撃を与えたのは、犯人が全員ケニア人であり、最高学府であるナイロビ大学法学部の卒業生も含まれていたことであった。
事件から3ヶ月、テロの原因となったケニアの政治的、社会的状況が大きく改善されたわけではない。ソマリア人が多数を占める難民キャンプがテロの温床といわれ、800キロにわたるソマリアとの国境に壁を設けようという案も浮上しているが、現実的ではない。
高学歴で比較的恵まれていると思われるエリート学生を含めたケニアの若者の過激化は深刻な問題だ。政府はアルシャバブのメンバーでも投降した場合には恩赦を与える方針を発表、これまでに300人以上が投降し、当局に情報提供しているそうだ。だが、テロの危険性は依然として高く、政府のテロ対策の不十分さを追及しようとするジャーナリストらが弾圧されている(Committee to Protect Journalists(2015年7月15日). Broken promises: How Kenya is failing to uphold its commitment to a free press)。
他のアフリカ諸国同様、ケニアの人口における若者(15~24歳)の割合は2割弱と高い。ここに住んでいると、彼らの鬱憤のマグマのようなものを感じる。貧困や差別が蔓延する社会の不正義に対するもやもやとした不満だ。このマグマがテロの温床となっている。ケニアだけではなく、欧州からイスラム国に身を投じる若者や、移民として定住した欧州でテロを起こす者に共通する社会に対する不満であろう。情報が国境を越えて行き来し、若者を刺激している面もある。
テロ集団の論理では、テロで命を失うと天国が待っているという。アルシャバブもそんな甘言で若者を勧誘している。そうして、若者をテロの道具として使い捨てにしているのだ。
男性だけではない。警戒されにくいとして、女性や子供が自爆テロ要員にされることもある。ナイジェリアの過激派組織ボコハラムの常套手段だ。10年ほど前、スリランカに駐在していた時、軍の幹部に近づき妊娠した女性が国防省で自爆テロを起こした。テロは失敗に終わった。彼女は反政府組織タミール・イーラム開放のトラ(LTTE)のメンバーだった。爆破で吹き飛んだ彼女の顔を張り合わせた写真が、「憎きテロリスト」として新聞に掲載されたりもした。今でも疑問に思う。お腹に子どもを宿した女性は自爆をためらわなかったのだろうか。非常に悲しく痛ましく、新聞の写真掲載や論調に憤りを感じたことを覚えている。
テロを根絶するためには、若者の怒りや絶望の種を取り除き、次代を担う機会を十分に与えなければならない。若者の憤りを招く経済、社会状況は世界に共通している。ケニア政府によるメディアへの圧力もその一つである。そうした根本的な問題を解決しようとせず、力によってのみテロを押さえ込もうとする世界の趨勢に日本も巻き込まれていくことになるかもしれない。その最前線に立つのは、やはり若者である。
テロに利用される若者たち |
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ケニア、若い世代の社会的不満が温床に
公開日:
(ワールド)
営業再開したショッピングモール=Reuters
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中嶋 秀昭(国際NGO職員)
1970年兵庫県生まれ。日経新聞記者を経て、国際NGO職員として紛争後国・地域を含むアジア・アフリカの10ヶ国以上にて保健・平和構築分野等の支援に従事。現在はバングラデシュでのロヒンギャ難民支援に携わっている
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