トルコの総選挙が6月7日に実施され、エルドアン大統領が率いる与党の公正発展党(AKP)が改選前から69議席減らして258議席と過半数(前議席数は550議席)を割り込んだ。最大野党の共和民主党(CHP)が3議席減の132議席、民族主義者行動党(MHP)が81議席となった。注目されたクルド人の権利拡大を目指すクルド系人民民主党(HDP)は議席獲得のための最低得票率(10%)を上回り、79議席を獲得する第4党となった。
今次総選挙で世界の耳目を集めたのは、エルドアン大統領が強い大統領を目指すための憲法改正に必要な議席を獲得するか否かにあった。議席数の2/3(367議席)を占めれば議会の採決で改憲でき、3/5(330議席)であれば国民投票にかけて憲法改正ができる。これが不可能になったことからエルドアンの独裁が強化される道が途絶えた、と欧米の論調はAKPの退潮を歓迎している。
しかし、独裁性強化の懸念と並び、エルドアンの敗因となった経済の停滞は、政局の不安定化から悪化の度を増すものとみられる。エルドアンが2002年にAKPを立ち上げて政権を奪取して以来、トルコ経済はインフレ抑制に成功し、外資を呼び込んだ高い成長を遂げてきた。2005年には経済力の強化等を背景にEU加盟交渉すら始められた。
しかし、このところ実質経済成長率は2014年中で2.9%台、今年も3%には届きそうもない。失業率は11%近辺の高水準である。経常収支の赤字もGDP比6%台とOECD加盟国中最悪の水準にある。ここ2年で40%下落したトルコリラはAKPの敗戦で史上最安値を更新した。エルドアンが度々中央銀行に利下げを強要してその独立性を脅かしてきたこともインフレ高進と通貨安に繋がっている。
トルコ経済がエルドアン政権下で高成長を続けて賞賛を浴びていた頃は若手労働力が豊富な人口ボーナスを背景に自動車,電気製品、家具などの製造業が台頭、いずれ世界の経済大国にのし上げると予想された。それが行き詰ってきたのは米国の利上げを控えて短期資本による国際収支赤字のファイナンスが危惧されるといった問題もある。しかし、基本的には厳しい産業規制、イスラム教のもとで女性の労働力化が中々進まない、高付加価値産業を育成して生産性を引き上げるといった構造改革の努力に欠けることにある。どこの新興国も直面する「中所得国の罠」から抜け出す難しさをトルコは体現している。