ブラジル経済の悪化が止まらない。第三四半期の実質GDP(国内総生産)がマイナス4.5%にまで落ち込んだ。6四半期連続のマイナス成長であり、1930年代の大恐慌以来の景気後退に直面している。
為替レートは史上最安値圏の1ドル=3.8レアルに暴落し、最盛期の1/4まで切り下がっている。12月2~4日に予定されていたルセフ大統領の訪日も紛糾する議会との予算交渉に追われて中止されてしまった。
ブラジルは経済ばかりでなく、政治も混迷の窮みに達している。国営石油会社ペトロブラスを舞台とする汚職事件が、拡大を続けている。11月25日には与党に所属して院内総務を務める大物のアマラウ上院議員が逮捕された。
金融界でも地元投資銀行のCEOであるエステベ氏が金融界から初の逮捕者となった。一連の混乱からルセフ大統領の支持率は8%まで落ち込んでおり、政権運営はダッチロール状態に陥っている。
経済面に戻れば、冒頭で述べたようにマイナス成長が恒常化している。IMF(国際通貨基金)の見通しでは15年にマイナス3.0%、16年もマイナス1.0%とまだまだ苦境が続くようだ。
物価の高騰も収まらず、10月の消費者物価は9.93%に達した。15年末には10%の大台を超えそうだ。中央銀行は物価目標レンジの上限(6.5%)を大きく超えているため、相次いで利上げに踏み切り、政策金利は14,25%と新興国の中でも最も高水準となっている。
消費者マインドの急速な悪化から個人消費が落ち込み、設備投資も不安定な政治情勢、最大の企業でもあるペトロブラスの業況悪化などから大幅なマイナスになっている。
深刻なのはこれほど為替が切り下がっても輸出が増えないことである。最大の輸出国が中国(輸出全体の18%)であり、中国向け鉄鉱石、大豆などが中国の景気減速から落ち込んでいるためである。為替の大幅下落はむしろ輸入品の価格高騰で輸入の抑制につながってしまっており、貿易収支は改善しようもない。
財政収支の悪化も急速である。ブラジルは国債の元利払いを除いたプライマリーバランス(基礎的財政収支)で黒字を確保してきた。しかし、昨年には初めての赤字(GDP比マイナス0.59%)に落ち込んだ。
景気低迷により税収が伸び悩む一方で、公務員給与や補助金支出などの支出削減が不徹底であったためである。15年、16年ともにプライマリーバランスは赤字を続ける見通しである。
このため、格付け会社では国債の償還能力を査定したうえ、今年に入って相次いで格下げを実施、例えばS&PではBB+と投資不適格とした。なお国営石油会社のペトロブラス自身も国営石油会社としては世界最大といわれる巨額の債務を抱えて、会社の信用力を反映するCDS(クレジットデリバティブスワップ)が7%に達している。
かつては奇跡の高度成長を遂げて中南米の雄と謳われ、新興国の雄としてBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の一角を占めていたブラジルだが、政治的にも経済的にも不安定の度を増している。米国のFRB(連邦準備理事会)が12月央に利上げに踏み切れば、資本流出に見舞われるとも予想されている。
流通コストや労働コストが高い、貸出金利などの金融費用も高い、など、いわゆる「ブラジルコスト」の是正も進まない。ペトロブラス事件にみられるような政治腐敗も深刻である。ブラジルが蘇るのは相当先のこととなろう。他人事ながら、来年のオリンピックが無事開催できるのか、心配である。