ブラジル経済の不振が続いている。かつての英国が「欧州の病人」と揶揄されたようにブラジルはかつての高度成長が嘘のように、いまや「新興国の病人」と呼ばれている。
実質GDP成長率は15年第一四半期で前年比1.5%のマイナスと4期連続のマイナス成長を続けている。今年の成長率見通しについて民間エコノミストの平均値では1.7%のマイナス成長となっている。一方で消費者物価は15年中9.2%まで高騰する見通しであり、いわゆるスタグフレーション(物価高騰下のマイナス成長)に陥っている。
物価抑制を狙って7月29日、ブラジル中銀は政策金利を14.25%に引き上げた。最近11か月で8回目の利上げだ。ブラジル経済は中国を中心とした鉄鉱石、石炭など資源輸出の価格・数量の爆発的増加、いわゆる資源のスーパーサイクルによって高度成長を続けてきた。
しかし、中国の景気後退などを背景とする資源ブームの終焉に直撃された形でマイナス成長に喘いでいるわけだ。失業率も6.9%(6月)と一年前の4.8%から急増している。通貨ブラジルレアルは12年ぶりの低水準に落ち込んだ。
景気が悪化してみると、今まで構造調整を怠っていたツケが一挙に噴出してきたことも大きい。脆弱なインフラ基盤に伴う物流コストの高さ、強力な労働組合による生産性を無視した賃上げの横行、現地調達比率の義務付けなどを通じる国内産業の保護策などだ。
これらがブラジル特有の高コスト体質を形成して、ブラジルコストと揶揄されている。こうしたブラジル経済の悪化を眺めて格付け会社ムーディーズが格下げ、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)も格下げを検討し始めた。S&Pが格下げすれば、投資不適格になる。ただ、かつての中南米危機の時と異なり3,690億ドルという世界屈指の高水準の外貨準備を保有しているだけに直ちに債務危機が到来することはないとみられている。
ブラジル経済にとって本当に深刻なのは政治のリーダーシップが期待できないことかもしれない。世界中を騒がせた国営石油公社ペトロブラスの汚職問題はルーラ前大統領に対しても本格的捜査の手が伸びている。大手建設会社オデブレヒトの受注に関し便宜を図った嫌疑がかけられている。
それ以外にも上下院議長など与党幹部が事情聴取を受けている。このような政治腐敗の広がりは経済の停滞と相まってルセフ大統領への失望を生んでいる。大統領に対する支持率は政権発足当初の73%から15%(6月)にまで落ち込み、不支持率は逆に83%にまで高まっている。
財政面から景気対策を打ちたくとも、2015年の財政の基礎的収支の黒字が当初の1.2%から0.15%に落ち込む見通しとなっており、その余裕はない。基礎的収支の赤字転落は格付けの低下に直結するだけに何としても回避したいため、開発予算の削減を含む緊縮財政を組まざるを得なかった。
今後、中銀による利上げを通じて物価の高騰が落ち着けば、消費の持ち直しに繋がる、あるいはレアル安が輸出競争力の回復をもたらして輸出が伸長する、という期待がかけられている。
しかし、例えば輸出競争力を引き上げるには割安な外国からの資本財・中間財を増やしていければよいのだが、国内産業保護の狙いから現地調達(ローカル・コンテンツ)比率が60%と定められているなど、国内規制がその実現を阻みそうである。昔日の栄光を取り戻すには時間がかかろう。