パンダがキリンを抱きしめている。「中国へようこそ」。8月に就航した中国南方航空のナイロビー広州間の直行便の宣伝だ。
すでに喧伝されていることであるが、ケニアなどアフリカへの中国の進出が著しい。首都ナイロビに住んでいると、そのことを肌で感じる。多くのケニア人によく、「ニーハオ」と声をかけられ、「中国人か?」と訊かれる。単なる好奇心からの発言である場合が多いが、侮蔑を感じることもある。
毎年、5万人の中国人がケニアを訪れる。ケニア航空の機内誌の一部は中国語になっているほどだ。中国製品は文具からスマホにいたるまで、街中にあふれている。たくさんの中国人が住んでいるため、中華料理店も多く、安くてうまい料理にありつけるのはありがたい。
中国企業の投資によるビルやマンションの建設ラッシュが続いている。中国はケニアに対する最大の海外直接投資国で、2013年の投資総額は約4億7400万㌦(約570億円)。同年の二国間貿易額は約28億4000万㌦(約3500億円)にのぼる。
中国による主要なインフラ事業の一つはナイロビと第2の都市で港湾都市であるモンバサを結ぶ鉄道建設だ。植民地時代に宗主国の英国が敷設したものを代替する計画で、将来的には近隣のウガンダやルワンダ、ブルンジ、南スーダンを結ぶ予定だ。その他に、火力発電所建設や太陽光発電、送電網の拡充などの電力網の整備やナイロビの高速道路建設なども計画されている。
合計50社が80のプロジェクトに関わっており、総額は約31億ドルともいわれる。中でも、ナイロビーモンバサ鉄道建設は規模が大きく、昨年7月(ケニアの会計年度初月)から、今年1月までの、中国からケニアへの2国間借款額は約20億㌦にのぼり、最大の貸付元であった日本を抜いて、中国が最大の供与国となった。昨年6月までの1年間の中国の借款額は約8億5000万ドルで、約9億ドルの日本の後塵を拝していた。ちなみに、昨年7月から今年1月までの日本の借款額は約3億7000万ドルだった。
中国の「ソフトパワー」も存在感を増している。中国語教育などを行う孔子学院が大学に置かれ、人民日報のアフリカ版(英語)が毎週、発行されている。China Radio International(CRI)というラジオ局は中国や世界のニュースを流している。ケニアの公用語であるスワヒリ語の放送も行っており、中国語講座の番組もある。テレビ放送では中央電子台の英語放送であるCCTV(China Central TV)が放映されている。
こうした中国の進出に対するメディアの反応はまちまちだ。「人権」を盾にして外交圧力をかけてくる欧米への対抗軸として中国を歓迎する声もある。これには2007年の大統領選挙後の暴動に現職大統領と副大統領が関与していたとして国際刑事裁判所に訴追されたことも関係している。一方で、中国は警戒すべきとする向きもある。
日本はどう受け取られているだろうか。路上には、トヨタなどの日本の中古車があふれている。ニコンは最近、新たな市場であるケニアにショールームを開いた。日本で丸亀製麺を展開しているトリドールは、鶏肉のファーストフード店を開いた。日清食品はケニア人向けインスタントラーメンを販売、ロート製薬の薬品も売られている。
ジェトロによると、日本企業は経済成長著しいケニアの消費市場に注目している。(注1) 日本企業による巨大プロジェクトとしては、豊田通商と韓国の現代の合弁による地熱発電所建設がある。タービンは東芝が提供する。
その他に、320億円の円借款によるモンバサ港の拡張工事や、原油採掘とパイプライン敷設、肥料工場建設なども計画されている。物流改善のためのバイパスや橋梁の建設も予定されている。ただし、ケニア政府の円借款受け入れ手続きが遅れているようだ。
8月、80社以上の日本企業の代表が、大統領を含むケニア政府代表と通商会議を行った。来年には第6回アフリカ開発会議が(首脳会議として)初めてアフリカで開催され、ケニアがホスト国となる。この会議では、日本とアフリカの経済関係強化が主要議題の一つとなる見通しで、日本企業の進出をめぐる動きが活発化するだろう。
今年は戦後70年。先述した人民日報やCRIは盛んに、旧日本軍の残虐行為や抗日勝利について伝えている。反面、日本のポップカルチャーを取り上げたり、中国の経済停滞や公害についても伝えている。
中国は歓迎される一方で、地元で軋轢も生んでいる。「安全のため」という理由で夕方以降の黒人の入店を断った中華料理店が住居用の建物を違法に店舗として使用していたことが発覚、営業停止処分を受けた。
中国企業による病院改築における入札価格水増し疑惑も報告されている。中国の鉄道建設プロジェクトでは、地元の作業員が賃上げと労働環境改善を求めて、ストを行う事態にもなった。筆者が中国人と間違われて感じる「侮蔑」とは、こうした不祥事に対するものを含むのかもしれない。
しかし、中国人はたくましい。中国料理店やスーパーはさながらミニ中華街だ。企業が進出し、あわせて中国人労働者が流入する。英語をしゃべれなくても、彼らのコミュニティの中だけで生きている。筆者がリベリアに駐在していたころ、隣国のシエラレオネにも寄る航空便で日本と行き来していた。ある時、リベリアで降機した際、一緒に降りようとしていた中国人に話しかけられた。彼の搭乗券は次の行き先であるシエラレオネまでのものでそのまま乗っていくように身振りで伝えた。おそらく、どこへ行くのか、経由地がどこであったのか理解できていなかったのだろう。
このように英語がまったく理解できず、まったく旅慣れていないような中国人が、どういう理由で遠いアフリカまで渡航したのか、恐ろしい感じがした。
ケニア政府は中国の進出を、欧米からの投資や援助とのバランスでうまく利用しようとしている。中国は欧米のように人権や環境についてうるさくない。先の鉄道プロジェクトはナイロビの自然公園を横切る計画だ。リベリアでは中国企業が建設した道路が、マングローブが生い茂る有数の湿地を横断している。
欧米の価値観には屈しないとするケニア政府は、テロ対策の名のもとに、人々を連行したり、拷問したりしている。「疑わしき者には容赦しない」として、警察官が容疑者を射殺することさえある。こうした事情に目をつぶる中国と競いながら、日本はどのような役割を果たせるだろうか。
アフリカでも、嫌われても、たくましい中国 |
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ケニア政府、欧米への対抗軸に利用
公開日:
(ワールド)
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中嶋 秀昭(国際NGO職員)
1970年兵庫県生まれ。日経新聞記者を経て、国際NGO職員として紛争後国・地域を含むアジア・アフリカの10ヶ国以上にて保健・平和構築分野等の支援に従事。現在はバングラデシュでのロヒンギャ難民支援に携わっている
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