7日にシンガポールで行われ、世界の注目を集めた会談で中台両首脳は、「1つの中国」の原則を確認、今後の両国関係に関心が集まっている。台北市台日経貿文化交流協会名誉顧問を務め、台湾事情に詳しい丹羽文生・拓殖大学海外事情研究所准教授は、今回の会談でも中台両国の現状を大きく変える動きにはつながらず、来年の総統選の野党優位も動かないとみている。
――習近平・中国国家主席と馬英九・台湾総統との首脳会談について台湾では評価が割れているようですが、先生のご友人の反応はいかがですか?
人によっても評価は異なります。ただ、与党・国民党に支えられた馬英九総統の2期8年の任期は間もなく終了するため、今さら何をやっても無駄・・・との冷めた感想を持っている人が国民党支持者、民進党支持者を問わず大半です。
――この会談は、来年の総統選にどんな影響を与えるでしょうか?
現段階で来年1月の次期総統選は、民進党の蔡英文主席の当選が確実視されており、同時実施される立法委員選でも民進党の大勝が予測されています。
蔡総統誕生となれば1期目の任期は2020年、再選されれば2024年までです。
中国の習近平国家主席の場合、最大で2期10年、つまり任期は2022年までとなります。中台統一は現実的には考えられません。
習主席からすれば、今回は、今まで誰もやったことがない台湾のトップとの首脳会談を行うことで権力固めになるとでも思ったのではないでしょうか。
――一方、馬総統ですが、物価高騰、所得格差、食品安全問題、側近によるスキャンダル・・・と失政続きで、支持率も極端に低く、レームダック状態です。
ご承知の通り、馬総統という人は香港生まれの外省人で、祖籍は中国の湖南省にあって「中国人アイデンティティ」が、非常に強い人です。かつては、中台関係を「地区と地区の関係」と表現し、終局的には中台統一を実現すべきであるという「終極的統一論」を唱えてきました。
したがって、今回の中台首脳会談は、よく言われているように、何とかして歴史に名を残そうという思惑と同時に、蔡総統誕生を見込んで、今のうちに「1つの中国」の原則を確認したとの既成事実を設けようという「理念的動機」の側面が強いようにも思われます。
――現在の野党、民進党の基本的姿勢は台湾の独立と聞いています。もし総統選で、勝利すれば内政外交、対中姿勢にどんな変化が予想されますか?
独立志向ではあっても「現状」を変えるような極端なことはできないと思います。基本的に台湾の世論は「独立」支持が2割、中国との「統一」支持が1割、「現状維持」支持が7割で、これは陳水扁(前総統)の民進党政権時も今も、基本的には変わっていません。
台湾人は、中国古典『漢書』に登場する「安居楽業」という言葉を好んでいます。
安心して満足しながら暮らし、落ち着いて生業を楽しむという意味です。
つまり「安居楽業」を捨ててまで「独立」か「統一」か、という究極の選択はしたくないとの思いが強いのでしょう。
民進党は、同党の既支配層から不安が出ないよう中国に妥協せずの態度を見せながらも、一方で中国に刺激を与えるようなこともせず、適度なバランスを保っていくことになるでしょう。
台湾民心は「安居楽業」 中台首脳会談でも現状変えられない |
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丹羽文生・拓殖大准教授に聞く 聞き手・東京新聞編集委員 五味洋治
公開日:
(ワールド)
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五味 洋治(東京新聞論説委員)
1958年生まれ。中日新聞社入社後、韓国延世大学留学。ソウル支局、中国総局勤務を経て、米ジョージタウン大学にフルブライトフェローとして在籍。著書に「父・金正日と私ー金正男独占告白」など。
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