中国は10月29日、共産党の重要会議である第18期中央委員会第5回総会(5中全会)で1979年から続いて来た「一人っ子政策」の廃止を決定した。年内にも実施される見通しだ。日本の大手メディアはこれを「中国の少子高齢化に歯止めをかける狙い」と報じ、もう少し深掘りする米欧メディアは「子供の数が増える可能性は低く、高齢化対策としては手遅れ」と解説する。いずれもきわめて浅い見方だ。
今世紀に入って、中国の「一人っ子政策」は都市部などで段階的に緩和されてきており、2013年には「夫婦のいずれかが一人っ子の場合、2人目の子供も認める」という大きな転換も実施している。それでも出生増加の効果は限定的で、今回の全廃でも子供の出生が大きく増える可能性は中国共産党自身が期待していない。
「一人っ子政策」全面廃止の真の狙いは、富裕層、知識層の国外移住、移民を防ぐ狙いといっていい。「一人っ子政策」は違反者に年収の3倍ともいわれる罰金や共産党員の場合には昇進昇格の抑制などの罰則が適用されて来た。著名人の場合はメディアやネットで批判され、社会的制裁も受ける。そのため、高所得層や秀でた能力のある人ほど負担が大きく、米国やカナダ、豪州などへの移住の大きな動機になっていた。その場合、現地国籍を取得し、仕事をする夫だけは中国に住み続け、年に数回、米国、カナダ、豪州などの家族を訪れるという逆単身赴任型の生活スタイルをとる。資産はもちろん、いずれ、仕事の中心も家族のいる場所に移し、完全に中国から足抜きするというわけだ。
言い換えれば、一人っ子政策は資産を持ち、能力も高い人材を率先して国外に追い出す政策になり、中国にとって損失は大きい。 それを防ぐのが実は今回の政策転換の隠された目的だ。途上国では「貧乏人の子だくさん」といわれるが、中国では「貧乏人は一人っ子、富裕層の子だくさん」が実態であり、それに対応していこうというわけだ。今、中国政府が最も恐れている資本逃避、人民元暴落を防ぐ意味でも「一人っ子政策」廃止は大きな意味を持っているのだ。
中国「一人っ子政策廃止」の隠された狙い |
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出生増大が狙いではない。富裕層、知識層に向けた政策だ。
公開日:
(ワールド)
Reuters
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五十嵐 渉(ジャーナリスト)
大手新聞記者を30年、アジア特派員など務める。経済にも強い。
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