北朝鮮が6日、水素爆弾の実験に成功したと発表した。専門家の多くは、5月に予定されている朝鮮労働党の第7回大会までは挑発行動を自制するだろうとみていた。今回の「実験」は、半年近く前倒しされたことになる。国際社会は経済制裁を科す構えで、北朝鮮の孤立は避けられないが、金正恩第1書記はなぜ今、実験を強行したのか? 3つのポイントから、狙いを読み解いてみた。
今回の「実験」は予告もなく、いきなり行われた。北朝鮮の主張通り、水爆なのか、成功したのか判然としない。ただ、特別重大放送という形で発表しており、国際社会からの批判を十分覚悟していると思われる。
父・金正日総書記時代は、核兵器とエネルギー支援をバーターする「瀬戸際外交」を繰り広げた。金正恩氏の時代になってからは影をひそめている。
今回の実験をきっかけに、米国と外交交渉を強硬に求めるということでもなさそうだ。米国も今年末の大統領選モードに入っており、微妙な外交交渉はしにくい。
カギは実験のタイミングにあるだろう。
1月8日には金正恩氏の誕生日がめぐってくる。これまで北朝鮮では、祖父金日成主席の誕生日(4月15日)と、金正日総書記の誕生日(4月16日)が国民の祝日だった。
執権して5年目となる今年、自分の誕生日を祝い、祖父、父に並ぶ国家指導者となったことを内外に示す「祝砲」として利用する狙いだ。
2つ目は、5月に36年ぶりとなる党大会が開かれることだ。その前に国威発揚として実験を行い、国内を引き締める事を狙っているとも考えられる。すでに金第1書記は、軍の幹部などに粛清を繰り返し、自分の権威を高める行動を取っている。
最後は、例年2月から3月に、北朝鮮の周辺で行われる米韓軍事演習を牽制することだ。
朝鮮総連関係者の1人は、「最新兵器を動員した軍事演習を行われると、国内建設に集中できない。実験は演習をやめさせるためだろう」と話す。
米韓両国は北朝鮮の圧力で演習を中止することはないので、今後緊張が高まる可能性がある。
日米韓の3カ国は、結束して「断固たる対応」を取るとしている。新たな制裁を念頭に置いているのは間違いない。
韓国政府は「北朝鮮は核実験に対し、相応する代価を払うことになる」と強い調子で批判しており、当面南北対話を進める雰囲気ではなくなるだろう。
日本人拉致問題をめぐる日朝政府間の協議は、水面下で続けられているが、拉致被害者に関する新たな情報がないとして停滞している。日本だけが、この交渉を独自に続けることは難しい。
中国は、中朝国境近くの実験場で行われる核実験を自国への脅威と感じており、核実験のたびに北朝鮮への締め付けを強めてきた。
2013年2月北朝鮮の3次核実験で採択された安保理決議2094号は、もともと北朝鮮が追加して挑発行動を取った場合、自動的に「重大な追加措置」を取るという、いわゆるトリガー(安保理の自動介入)条項を含んでいる。
このため、国連安全保障理事会での論議で、中国がさらに積極的に制裁側の論議に加わることも予想される。
昨年改善の兆しが見えた中朝関係は冷え込むだろう。
「水爆実験」が金第1書記の狙い通りに効果を挙げるのか。それとも、これをきっかけに北朝鮮の体制は追い込まれていくのか。
朝鮮半島をめぐる、危うい1年の始まりになったようだ。
米韓軍事演習阻止が狙いか? |
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北朝鮮 半年早い「水爆実験」
公開日:
(ワールド)
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五味 洋治(東京新聞論説委員)
1958年生まれ。中日新聞社入社後、韓国延世大学留学。ソウル支局、中国総局勤務を経て、米ジョージタウン大学にフルブライトフェローとして在籍。著書に「父・金正日と私ー金正男独占告白」など。
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