ベルギーで22日、同時多発テロが発生した。イスラム国の犯行声明もでている。
米国大統領選でのトランプ旋風と合わせ、欧米で反移民、反イスラムの風潮がさらに強まりかねない。すでに、極右の台頭が著しい欧州では、ポーランド、ハンガリーで極右政党が政権を担っている。
昨年、ポーランドで政権交代があった。新たに政権についたのは、超保守的な右派政党「法と正義」党である。この右派新政権がどのような政策をとるか、内外の注目を集めていたが、年明けに、公共放送を同党が過半数を握る議会の監督下におく法律を採択し、大いに物議を醸しだした。
新法成立により、現経営陣はすべて更迭され、新たに政権寄りの新経営陣が派遣されることになった。また現在勤めているジャーナリストを引き続き雇用するかどうかを、新経営陣が審査することが検討されている。ポーランドの公共放送は、一夜にして政府の代弁機関となることになった。
EU委員会は、ポーランドのこの決定に強く反発し、ポーランド政府に書簡を送り、実情を明らかにするよう迫った。現行のEU条約では、基本的人権や報道の自由などEUの基本原則を加盟国が侵害した場合、加盟国の議決権を剥奪できることになっている。当面、EU委員会は実情を調査することになろう。
また国内でもこの法への批判は強く、定期的に大掛かりな抗議行動が起きている。
このようなメディアへの介入は、ポーランドが初めて行ったわけではない。ポーランド同様、旧共産圏の中欧の国―ハンガリーに先例がある。
ハンガリーに2010年5月、右派のオルバーン政権が誕生した。同政権は、2010年12月、メディア法を採択し、電子メディアを含む報道機関を監督するメディア監督庁を設置した。政府が報道内容にふさわしくないものと認めた場合、監督庁が報道機関のライセンスを剥奪することができるようになった。
2011年、この法によりラジオ局が放送停止に追い込まれた。また、政府に批判的なジャーナリストの雇用契約が延長されないケースも出てきている。
EUには、コペンハーゲン基準というものが存在する。EU加盟国は、人権を重視し、民主主義を政治体制とし、市場経済の国でなくてはならないという原則である。新たな加盟国を選ぶに際して、この基準に照らして厳しく審査される。
ハンガリーもポーランドもこの基準を満たしていると判断され、EU加盟が認められた。
ハンガリーに関しても、明らかな基準違反にEU委員会は実情を調査し、抗議している。昨年は欧州議会がハンガリー制裁を決議し、加盟7か国の国民、百万人がハンガリー制裁を求める要望書に署名し、EU委員会に提出している。ただ、現時点では、EU委員会は議決権はく奪までには至っていない。ポーランドの動きをみて、両国に対してどう対応するかは注目を集めている。
いうまでもないことだが、報道の自由は民主主義を維持するうえでの基本的要件である。たしかに報道内容には良いものも悪いものもある。玉石混交の品物があふれるなか、自由な市場で適正な値段が形成されるように、国民の民主的選択も、百家争鳴の意見が飛び交うなかで、より間違いの少ないものになっていくと思う。
あらかじめ、共産党のエリートが市場に出すものや報道内容を選別した、旧ソ連圏諸国が立ち行かなくなったのも、この原則を踏み外したからである。
民主主義の先進国-英国では、大衆紙が盛んに英国のEU離脱をあおっている。英国は政治統合に参加しないなどの要求をEUにのませたキャメロンは、英国のEU残留を主張している。
このため扇動的マスコミに手を焼いている。しかしキャメロンはそのマスコミを黙らせたりはしない。最も反EUの大衆紙に自らの主張を投稿し、読者を正面から説得しようとしている。
EUの周辺には、ロシアやトルコなど露骨にマスコミ介入を行う国がある。EUはそれらの国と一線画して、自らの価値を守るための共同体であるはずである。それにもかかわらず、身内にその原則を踏みにじるものが出てきている。EUにとって、難民問題、ユーロ危機以上のチャレンジと言ってよい。
日本でも最近、テレビのキャスターの降板など、メディアのきな臭い話が起きていると聞くが、EUのこの問題に対する対処策が他山の石になればよいがと期待している。
欧州の極右、ポーランド、ハンガリーで政権 |
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報道の自由踏みにじり、EU基準に違反、テロで多発に不安
公開日:
(ワールド)
ポーランドのベアタ・シドゥウォ首相=Reuters
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茶野 道夫(ウィーン在住コンサルタント)
日系金融機関のウイーン駐在代表を定年退職後、不動産投資コンサルタント。日系金融機関のウイーン駐在代表をつとめた後、定年退職。ウイーンで、不動産投資コンサルタント。英、独、仏、西、伊、露語に通じ、在欧経験は30年を超えた。英国、スペインにも勤務。
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