21日にモスクワで行われた日ロ外相会談で、ラブロフ外相が、プーチン大統領への訪日要請を「受け入れた」と述べた。領土問題は平行線だったが、安倍晋三首相の強い意欲からして、プーチン氏の年末訪日の方針に大きな変化はなさそうだ。しかし、ロシア側が北方領土問題で譲歩する気配はなく、外務省内にも安倍晋三首相の「危険な賭け」に懸念が広がっている。
「首相官邸が決めたことだから従う・・・」。
最近、対ロ外交を担当する外務省実務担当者の歯切れが悪い。
そのはずだ。ロシア側は7月から9月上旬にかけ、5人の閣僚が次々に北方領土を訪問した。
岸田文雄外相の訪ロはそれから1カ月も経っていない。外務省内では「会ってやるから来いという提案に乗るべきでない」という反対意見もあったが、官邸の強い意向で、外相は訪ロに踏み切った。
同じような例は、民主党政権下でもあった。
2012年7月3日にメドベージェフ首相が国後島を訪問し、日本側が不快感を表明した。玄葉光一郎外相はその月の末に訪ロし、ラブロフ外相やプーチン大統領と会談している。
特にプーチン大統領には「秋田犬をプレゼントしたい」と申し出て、会う時間を作ってもらったため「犬外交」と批判された。日本側は「北方領土交渉を再活性化する」と意気込んだが、結局、交渉は進展しなかった。
安倍首相は9月11日のネット番組で「今まで10回首脳会談を行った。この中で培った信頼関係を生かしていきたい」と、プーチン氏との特別な友情を強調するが、北方領土をめぐる状況は変わっていない。いや、どうみても民主党政権時代より、ロシア側は強硬になっている。
反対の声が強かった安保法制を成立させた安倍首相は、経済、外交面で成果を上げ、支持率を回復したい。
しかし、中国や韓国、北朝鮮との間では大きな成果は見込めない。このため、ロシア側の姿勢に変化はなくとも、とりあえず訪日を実現させ、その中でより具体的な発言を引き出すことを狙っている。対ロ外交への前のめりな姿勢は、こんなところから出ている。
一方のロシア側は、ウクライナ問題で欧米から制裁を受けている。プーチン氏の訪日で、日本から経済支援を引き出せば、欧米に動揺を与えることができると読んでいるのは間違いない。
「力だけを信奉する国」(外務省幹部)に「友情」が通用するのか。安倍外交の真価が問われそうだ。
プーチン年末訪日へ、首相「友情」頼りで賭け |
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安倍首相が前のめり、歯切れ悪い外務省
2014年北京で=Reuters
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五味 洋治(東京新聞論説委員)
1958年生まれ。中日新聞社入社後、韓国延世大学留学。ソウル支局、中国総局勤務を経て、米ジョージタウン大学にフルブライトフェローとして在籍。著書に「父・金正日と私ー金正男独占告白」など。
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