シリアなどからの難民の欧州への流入が続いている。これまでの難民と違い、スマートホーンを片手にメールで連絡を取り合う難民たちである。
筆者の自宅に近いウィーン中央駅にも多くの難民が一時的に滞在している。ボランティアの人たちから、食料・水などの救援物資を与えられたあと、軍隊の派遣するバスが千人単位で難民収容施設に運んでいく。そのあとに次の難民がやはり千人単位で到着するという具合。民族の大移動の感がある。
今回は難民騒ぎの裏には、反社会的勢力の活発な動きがある。危険な地域に住むシリア人などに、金を渡せば安全で職にありつけるところへ連れて行ってやると声をかけ、大金を巻き上げて危ない手段で欧州に続々と連れてきている。難民を食い物とした、反社会的勢力の「しのぎ」が横行している。
難民条約によると、難民が弾圧を受けない隣国から自国に国境破りをして入国するときは、入国を拒むことが出来る。しかし実際は反社会的勢力が、難民を不法にトルコ経由でギリシャなどに入国させている。ギリシャも入国した難民を次々とマケドニアなどに出国させている。難民の多くはドイツを目指しており、この結果、オーストリア経由でミュンヘンに到着する難民は、1日1万人に達している。
難民同士はソーシャルメディアで連絡を取っており、受け入れられているとの情報が瞬時に伝わって、引きも切らない数の難民が続々と欧州に到着している。難民が怒涛のようにドイツに向かっているのは、メルケル首相の難民受け入れに対する前向きの発言のせいである。メルケル首相は、本年中に80万人の難民申請を受け入れると発表した。
メルケル首相は国民世論の動きを見て、このような政策を打ち出したと思われる。旧西独には、第2次大戦後チェコなどから難民として移住した人の子孫も多く、またトルコからの出稼ぎ労働者の子孫も多いため、難民に好意的な世論が形成されているようである。
しかし、反社会的勢力とソーシャルメディアの手助けで無秩序に押し寄せる難民は、ドイツの受け入れ能力を超えたようだ。とうとうドイツはシェンゲン条約により不要とされた国境管理を復活させた。メルケル首相はクロアチア首相に難民を自国にとどめドイツ送らないよう電話で強く求めたという。難民受け入れに寛容な政策が、かえって事態を悪化させてしまったようにみえる。
難民をトルコにとどめさせるしかないと気づいたのだろうか。欧州の社民党の政治家、バル仏首相、ファイマン・オーストリア首相、シュルツ欧州議会議長らはウィーンの会合で、トルコ、レバノン、ヨルダン支援の50億ユーロの基金を提唱した。オーストリア外相は急きゅ、トルコを訪問した。
セルビアとの国境に防壁を建てたハンガリーは、蛇蝎のように批判されたが、難民問題の深層が伝わるにつれて、現実的な策だったようにも見えてくる。そもそも、安全な隣国から不法越境する難民の入国を阻止するのは、難民条約上も認められている主権国家の権利である。
出国の手助けをした反社会的組織は厳しく罰し、不当利得は没収すべきだと思う。反社会勢力によってではなく、トルコのキャンプに収容した難民は、国連やNGOの保護のもと、済々とドイツなど難民引き取りを希望している国に安全に送り出すべきではなかったのか。
ユーゴの内戦の際にも、多くの難民がドイツ・オーストリアなどに引き取られたが、これほどの混乱は起きなかった。理由は、難民は国連やNGOにより混乱が起きないよう済々と各国に引き渡されたからである。
いずれにしろ、このままの状態では、難民流入に欧州は十分に対応できなくなることは目に見えている。シリア周辺国への援助を強化しながら、難民受け入れは国際機関のもとで整然と実行するという、基本に忠実な施策に戻らざるえないのではないか。すでに舵は切られつつあるように見える。
難民を食い物にする反社会的勢力 |
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欧州各国、現実的政策に舵を切るか
公開日:
(ワールド)
Reuters
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茶野 道夫(ウィーン在住コンサルタント)
日系金融機関のウイーン駐在代表を定年退職後、不動産投資コンサルタント。日系金融機関のウイーン駐在代表をつとめた後、定年退職。ウイーンで、不動産投資コンサルタント。英、独、仏、西、伊、露語に通じ、在欧経験は30年を超えた。英国、スペインにも勤務。
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