1日までハワイで開かれていた環太平洋経済連携協定(TPP)に関する閣僚会合は、米国が議長国を務めていたのにもかかわらず大筋合意ができなかった。オバマ政権が意図して先送りに動いた面が濃厚で、まだ今夏の妥結の余地はあるとの見方は、日本の交渉関係者の「希望」にすぎない。TPPはポスト・オバマ政権まで先送りされたとみるべきだ。
ハワイでの交渉は、事務レベルでの徹夜交渉などが演出されたが、最後まで米国代表団には切迫感がみえなかった。特に、医薬品分野で一歩も譲らない姿勢に終始し、妥協の姿勢をみじんもみせなかった。各国関係者には大筋合意を先送りしようとの「米国の真意」を感じた人が多かったようだ。
ここで決着させて国内に持ち帰っても、反対派の台頭で政治的な混乱を招くだけとの判断がハワイ会議の開催前から強まっていたと見た方がよい。
今回の会議での大筋合意への期待は、米国連邦議会が一括交渉権をオバマ政権に与えたことから始まっている。オバマ政権もこの獲得に懸命だったことから、その時点ではTPPを終わりの見えてきたオバマ政権の成果しようとの「本気度」が伝わってきていた。
しかし、ハワイ会議の直前になって、TPP合意は共和党の成果にされるだけ、大統領選で民主党に不利に働くとの米民主党内の世論がじわじわと高まっていた。国内に持ち帰れば、民主党の支持基盤が四分五裂しかねないとの見方が急速に高まっていた。
日本への影響はどうだろう。TPPがしぼむことは安倍政権にとっては政治的な打撃だ。TPPによる海外市場の開放を成長戦略の目玉にしたてようとの思惑は完全に狂った。それでいながら、農業を中心にTPP対策は予算措置も準備してきており、いまさらなかったことにもできない。そこを突かれるとつらいだろう。
甘利担当相は「つぎにもう一回閣僚会合を開けば合意できる」と語ったが、TPPが妥結できないことをあいまいにするための戦略的な発言とみるべきだろう。日本代表団からは8月末の閣僚会合開催説がさかんに流れたが、米通商代表部(USTR)代表は「日程は決まっていない」と明言した。8月の国会で野党が安倍政権を追及するテーマになってしまったのは間違いない。
もともとTPPは経済で中国を囲い込むための米中覇権争いのうえでの米国にとっての武器だった。それが失敗しようとしている。一方、中国は31日に北京への冬季五輪の招致に成功した。この週末のTPP先送り長期化と冬季五輪開催地の決定は、くしくも米中のベクトルが交差したように見えたと言ったら、穿ちすぎだろうか。
TPP、オバマ政権は腰がくだけた |
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米国、中国包囲網の「武器」失う
公開日:
(ワールド)
Reuters
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土屋 直也:ネットメディアの視点(ニュースソクラ編集長)
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設
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