難民流入問題の深刻化が、欧州での右翼ポピュリスト政党の勢力拡大を助長している。10月18日に行われたスイスの議会選で、移民の流入などに反対するスイス国民党が下院で得票率を伸ばし、第一党となった。10月25日に実施されたポーランドの議会選挙でも、民族主義的な右派で難民受け入れ拒否の「法と正義党」が、これまでの親欧州的なリベラル政党、市民プラットフォームから政権を奪った。
こうした動きは小国に限らない。フランスの右翼政党、国民戦線は党勢を拡大しており、次の大統領選挙では党首マリーヌ・ル・ペンは決選投票に進むことは間違いないとみられている。また、移民排斥、EUからの脱退を主張する英国の英国独立党は、国民世論に強い影響を与えており、EU残留の是非を問う国民投票が行われることとなった。
かつてナチの台頭を許した歴史のあるドイツでは、右翼ポピュリスト政党を見る目は厳しい。したがって他の国ほど力のある右翼政党はないが、PEGIDA(英語名 Patriotic Europeans anti Islamization of the West)という名のイスラム移民に反対する市民運動が、どんどん動員力を増している。10月19日の結成1周年の式典では、幹部が、かつてナチが使った強制収容所を難民にあてろと発言し、社会民主党(SPD)の幹部が、ネオナチを取り締まる憲法擁護庁に対し調査を求める事態にまで発展した。
右翼ポピュリスト政党の伸長は、リーマンショック後の長引く景気低迷のなかで進んできた。それ以前から増えていた移民は低賃金で働くため、単純労働の底辺労働者たちの職を奪い、生活を脅かしてきた。もちろん、移民の急増は、文化的、宗教的違いによる摩擦を各国で生んでいる。右翼ポピュリスト政党は、移民排斥を最優先の政策にかかげ、こうした庶民の不満を吸収して勢力を拡張してきた。
そしてここにきて、勢力伸長が加速しているようにすら見えるのは難民問題がクローズアップされたことが大きい。シリアを中心とする大量の難民流入が、移民問題同様に職を奪い、文化摩擦を増やすという不安を増大させているからだ。
長引いていた景気低迷をさらにユーロ危機がダメージを与えたため、右翼ポピュリズム政党は、反EUを掲げることが多い。ドイツやフィンランドなど北欧州の国民は、彼らが従来から持つ南欧諸国への不信感を背景に、ユーロ危機に陥った南欧諸国を救済することに強い不満を感じている。
またEU法により日常生活の隅々まで規制を受けていることに、多くの国民は素朴な疑問をいだいている。たとえば、EUの建築基準法は地震多発国のイタリアに合わせた耐震設計をドイツやオーストリアなど地震がめったに起こらない国にも要求している。こうしたちぐはぐな規制に、不満は高まっている。右翼ポピュリスト政党は、EUを攻撃することで支持を得てきている面もある。
欧州内での地域的な特徴も見逃せない。右翼ポピュリスト政党はフランスより北の欧州諸国に多い。南欧諸国にも反EUのポピュリスト政党はあるが、どちらかというとEUの緊縮政策に反対する左翼政党が中心となっている。
2014年に行われた欧州議会選挙では、フランスの国民戦線や英国の英国独立党など、右翼ポピュリスト政党は大躍進し、欧州全体に衝撃が走った。欧州議会選挙は完全比例代表制なので国政選挙と違い、有権者の政党支持率が議席の数に反映するためである。
ただ、大躍進を遂げたといっても、院内の主力会派は、まだ各国の保守党の集まりである欧州人民党と、同じく社民党の集まった社会民主進歩同盟である。したがって右翼ポピュリスト政党の躍進は、EUの議会運営を通じてEU政策決定を直接左右することはない。とはいえ、移民政策などの分野でEU加盟国の意思決定に大きな影響を与えることは確かで、EUの政策に間接的な影響を与え始めている。
気になるのは、反EUを唱える右翼ポピュリスト政党の台頭をロシアが喜んでいると見える点である。独有力誌のシュピーゲルが、フランスの国民戦線がロシアの金融機関から900万ユーロの融資を受けていると報じたこともある。ロシアがひそかに支援している可能性も取りざたされている。
難民問題、欧州右翼の台頭招く |
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背景にちらつくロシアの影
公開日:
(ワールド)
Reuters
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茶野 道夫(ウィーン在住コンサルタント)
日系金融機関のウイーン駐在代表を定年退職後、不動産投資コンサルタント。日系金融機関のウイーン駐在代表をつとめた後、定年退職。ウイーンで、不動産投資コンサルタント。英、独、仏、西、伊、露語に通じ、在欧経験は30年を超えた。英国、スペインにも勤務。
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