メルケル独首相が「ギリシャの金融危機より欧州にとっては大きな問題」と言明した欧州の難民問題が世界の注目を浴びている。とくにトルコの海岸に漂着したシリアの三歳のアイラン・クルディちゃんのいたいけな遺体の写真が全世界で流されて欧州内外で一気に注目が集まった。
難民に冷淡だった英国のキャメロン首相でさえ英国の世論を背景に、今後5年間で最大2万人の難民引き受けを発表した。一枚の写真の影響力の大きさに驚くばかりだ。
欧州の難民問題は中近東、アフリカでの戦乱激化により国を捨てて安全を求めると同時に働き口を探すため、シリア、アフガニスタン、アフリカのエリトリア、スーダンなどから避難してきたのがきっかけだ。ルートとしては、アフリカのリビアからボートなどで対岸のイタリアを目指す地中海横断ルートとトルコからギリシャ沿岸まで短い航海の後は陸伝いでハンガリー、オーストリア等を目指すルートが主要ルートとなっている。
地中海横断は船が難破して溺死者も増えているため後者の陸伝いのルートが増えている。今年に入ってから8月までの難民数は35万人と昨年一年間(28万人)を優に上回る。とくにアサド大統領独裁の下で内戦が続き、かつアラブ過激派集団のIS(イスラム国)の占拠で20万人が犠牲になったシリアからの難民はレバノン、トルコで各々百万人を超え、欧州も含めて400万人に達している。
先の地中海横断の難民の場合、闇業者に金を渡して船に乗り込んだものの、転覆して船倉に閉じ込められた難民が一遍に800名も溺死するとか、陸地経由でも放置されたトラックの中から71人の難民の遺体が発見されるなど、今年に入ってから約2千人の犠牲者が出ている。
問題は、各国の難民に対する理解が進んでいないことだ。最近でもハンガリーはブダペスト駅を閉鎖して難民を追い出し、マケドニアでは難民に当局が催涙弾を放った。南欧諸国では80%の国民が難民の流入を望んでいない。
特にハンガリーは「国境を越えてどこでも自由に移動できる」というシェンゲン協定に入っているので難民の申請ナンバーワンのドイツへの入り口となり、大量の難民が通過するため悲鳴を上げている。このためハンガリーではセルビアとの国境沿い175㎞に高さ4mのフェンスを構築して流入を防いでいる。3歳児の遺体という、一枚の写真が流れを変えたとはいえ、難民排斥は欧州の底流にずっと流れている。