難民が最初に上陸するギリシャ、イタリアでは難民の収容テント、食糧供与などの負担が大きすぎると主張してきた。EUでは6月にEU加盟国の総人口、GDP,失業率(失業率が高ければ移民・難民の受け入れ余地が少ないと見做す)などを基準にして難民申請者の配分受け入れを義務化することを提案した。
この時は4万人であった。その後の難民の急増を眺めて年間で16万人程度まで受入枠を増やしたが、200万人に達するのではないか、とも見込まれる難民数に比べて僅少である。それでさえ、ハンガリー、ブルガリアなどの東欧諸国に反対が多い。
先般の総選挙で移民問題が大きな争点となった英国は、かねてよりEU内の話し合いに加わっていない。ドイツに次いで難民の移転申請(注)が多いスウェーデンでも支持政党第一位は反移民を掲げるネオナチ政党である。
欧州域内では、多かれ少なかれ、難民とは宗教・価値観が違う、治安が悪化する、就労機会が奪われるなど、国民の拒否感が強い。どこの国でも世論調査では難民問題が関心事項のトップになる。
財政事情の厳しい欧州各国で、語学レッスンやレセプションセンター設置を義務付けられ、政府が就職の斡旋まで引き受けるため、膨大なコスト負担を強いられるのは事実だ。
国民の嫌悪感を克服して政治が人道的見地から難民を受け入れるのは当然であろう。経済的観点からはどうだろうか。確かに難民を受け入れる財政負担は小さくはないであろう。しかし、長い目で見れば、欧州諸国は人口減少、高齢化で労働人口が縮小していく。
ブリューゲル研究所が「2050年までにアフリカの人口は欧州の3倍になる(現在は1.5倍)」と指摘している。国力発展のためには税金を払い高齢者の年金支出を支える若い労働力が必要だ。難民の多くは若手で家族を養うため勤労意欲も総じて高い。
重要犯罪を起こす比率はむしろ先住の国民より少ないくらいだ。ヨーロッパ人の祖先が移民として自由の国アメリカを目指して自らもアメリカという国自体も豊かになったことを想起すべきであろう。余談だが、アップルのスティーブ・ジョブスもシリアからの移民の息子だ。
欧州諸国が後ろ向きの中でドイツのメルケル首相が率先して難民を引き受ける姿勢を示している。これまでユーロ危機やギリシャ危機ではリーダーシップを見せなかった姿とは対照的だ。そもそもドイツはベルリンの壁を越えて西独に逃げようとした東独国民が射殺される姿を見てきている。メルケル自身も東独出身だ。
ホロコーストへの自省も込めて、政治的迫害から逃れる難民をサポートする素地がある。事実、難民が移動してきたミュンヘンで市民が拍手で迎えていた姿が目に焼き付く。シリアを中心に難民によるドイツへの申請が80万人程度にも達するとみられる中でメルケル首相、ドイツ国民の勇気は賞賛されよう。
日本自身もこのまま座視していていいのだろうか。シリア難民についてはレバノンが110万人、トルコが170万人、あのタンザニアでも数十万人だ。豪州、カナダも難民受け入れに手を挙げた。何せ日本では入国管理局の厳しい管理の下、2014年の難民申請5千人に対して認定を受けた難民はわずか11人という状況だ。
ベトナム戦争後のボードピープルで日本経由の人たちも結局多くはアメリカを目指した。世界最大の人道問題に日本がわれ関せず、では国際社会から孤立しよう。
(注)2014年中の難民による移転申請をみると、経済的に豊かで景気もいいドイツが17.3万人でトップ(許可されたのは9.7万人)、次いでスウェーデン7.5万人(同4万人)、ハンガリー4.1万人(同0.5万人)と続く。