日ロ間に領土問題など存在しないかのようなかたくなな態度だった。21日に日ロ外相会談がモスクワでほぼ1年半振りに開かれたが、岸田文雄外相はしらけきったのではないか。
ウラジーミル・プーチン大統領は3年半前に「ヒキワケ」をめざし外務省の官僚同士に交渉させようと述べたが、今のロシア外務省の姿勢では領土交渉は一歩も進みそうにない。結局のところ、いずれの時期にか首脳同士が政治決断するしか打開の道はないのではないか。
セルゲイ・ラブロフ外相は会談後の記者会見で、「会談では日本の『北方領土』についてもロシアの『北方領土』についても話さなかった。それは我々の対話の議題ではないからだ」と述べた。かつて1960年代から80年代にかけ、ソ連は領土問題など存在しないと言っていたが、その時代を彷彿とさせる発言だ。
だがこうした物言いは今回が初めてではない。数年前からロシア外務省は同じようなことを言ってきた。その意味では驚きではないが、ウクライナ危機もあって中断している日ロ対話を再開しようと両外相が久しぶりに会ったにしては、いかにもぶっきらぼうだ。今回、来月8日に外務次官級会合を開催することが決まった。その後、ラブロフ外相が訪日するかもしれないが、外務省レベルの領土交渉の前進はないと覚悟すべきだ。
ロシア外務省当局のとりつく島のないような態度に比べると、ウラジーミル・プーチン大統領は領土問題の存在を前提に発言を続けてきた。例えば今年4月16日の記者団への発言で「領土問題」という言葉を口にしている。
もちろんロシア外務省の対応は大統領の承認を得ていることは明らかで、大統領と外務省の間に違いがあるというわけではないが、ロシアの姿勢を切り崩すには大統領への直談判がより有効ではないか。もちろんそれで日本が今望むような成果を得られるという展望があるわけではない。
ところで、ラブロフ外相は記者会見で日本の安保法制の整備を念頭に「集団的自衛の制限を緩和する政府の決定」に「懸念」を表明した。核兵器を保有しながら集団的自衛権と個別的自衛権の区別など議論したことのない国の閣僚の発言ではある。
日本側には不愉快なことの多い外相会談ではあったが、細っていた対話のルートが広がることは悪くない。両国が置かれている地政学的な環境からみて、日本にとってもロシアにとってもそう言えるだろう。
プーチン大統領は今月3日、北京での抗日70周年記念式典に招かれ出席した。彼の回りにいたのは習近平国家主席、朴槿恵大統領、そのほか中央アジア諸国の首脳などで、米欧の首脳は一人もいなかった。プーチン大統領が5月9日にモスクワで対独勝利70周年記念式典を主催した時も米欧の首脳はいなかった。
ロシアが現在、置かれている国際的状況を如実に反映している。国の経済発展を進める上で、好ましい状況であるはずがない。このままでは日本との関係も広がることがないことをロシアは認識すべきだ。
日ロ外相会談、とりつく島なし |
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領土交渉、進展は望み薄
プーチン露大統領=Reuters
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小田 健:ロシアと世界を見る目(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。
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